第6話 いざ惑星へ

 イワモリはゆっくりとした時間を過ごした後転送室へと向かう。シュッという小さな音がして扉が開くと、円形の台座の上にミーティングで決めたとおりの装備をしたユキカゼが立っている。いや、装備を換えたのだからユキともう呼ぶべきか。

 台座に向かいながら手首のリングを弄ると自分の服もミーティングで決めたとおりの装備になる。時間は1秒もかからない。


「コウ様、間もなく降下時間です」


「様付けは駄目だろう。単なるコードネームだよ」


「しかし……了解しました」


 ユキカゼが私の名前を呼び捨てにするのは初めてだ。基本的にコードネームに本名を使うことはない。どことなく戸惑う姿に初々しさを覚える。台座に上がると転送までのカウントダウンが始まる。


「転送開始」

 

 との言葉を聞いた瞬間景色が変わる。

 次の瞬間にはイワモリ・コウことコウは森の中の小さな空き地に立っていた。側にはユキカゼことユキ、サラトガことサラ、マリーローズことマリーも立っている。

 ミーティングではそこまで思わなかったが、サラとマリーの格好は迫力があった。歩いただけで地響きがしそうだ。実際重力制御装置が働かなければ、地響きではなく地面に沈んでいくだろう。実際には少し足跡がつく程度だが。

 コウは意識を変え、空気を思いっきり吸い込む。艦内の観葉植物やコロニー内の小さな公園とは違う様々な植物の濃密な薫りが肺いっぱいに広がる気がした。


「うーん。やっぱり天然の自然は空気から違う気がする」


「そうなのですか?コウが昔やられてた、テラフォーミングした惑星上で冒険するゲームも自然豊かでしたが」


 ユキが尋ねる。


「何となくね。ゲームの中だと所詮は管理された植物なんだよね。まあ、何というか嫌な臭いがしないんだ。それを含めた天然の匂いって言うのがね」


 コウはそう言って何度も深呼吸をする。


「あたいは、惑星降下自体初めてだからわかんねー」


 サラは頭の後ろで手を組んで答える。


「私は何となく分かる気がしますわ。亡き艦長が植物が好きで色々話していましたもの」


 マリーがそう言うが、マリーはそもそも殆ど露出が無い。それ、金属の匂いしかしないよね、と突っ込みたくなる。僅かに外気に触れる目の部分は細いスリットで、マリーの赤い瞳が巨大人型ロボットのツインアイのように光って見える。はっきり言って人間に見えない。


「うん。取り敢えずマリーは兜を外そうか」


「え、ミーティング通りの装備ですよ」


 マリーが反論するが、どんな顔で言ってるのか見えない。しかも声もくぐもって不気味に聞こえる。


「命令」


 コウがそう言うと兜が消えて、マリーの顔が現れる。結構残念がっているようだ。だが、この方が断然良い。マリーの顔の雰囲気がおっとり気味なので、圧迫感もかなり減った。


「さてと、ジクスに向かうか」


 事前データではここから1㎞程南に進むと街道に出、それから街道沿いに西に10㎞程進むとジクスに着く。王都は身分証や市民権が無いと出入りが厳しいが、その手前の街であるジクスはその点が緩い。先ずはジクスで確実な身分証を手に入れる。冒険者としての身分証は低ランクだと信頼がないが、中程度まで行けばかなり信用される身分証だった。そうなるとかなり行動の自由度が増すため、そこでギルドに登録してランクを上げる計画である。

 転送を見られるわけにはいかなかったため、見つからないタイミングで転送したが、街道に入るとちらほらと人や馬車とすれ違う。ある者は恐る恐る、ある者はジッとコウ達を見つめていた。


「なんか思ったより目立ってる気がする」


 コウが呟くと


「目立ってますね」


「目立ってるね」


「目立ってますわね」


 と、3人共肯定する。が、わざわざ引き留めるのも気が引けるので街まで行けば分かるだろうと、全員余り気に留めなかった。

 ジクスの街はいわゆる宿場町なのだが、ここを拠点とする冒険者が多いこともあり、比較的多くの人口を有していた。街の周りに堀と柵は有るものの、立派な城壁はない。柵も3m程度の高さなので、街の建物が外から見える。2~3階建ての木造建築が多く、まれに石造り若しくはレンガ造りの建物が混じっている。

 門の前に中に入るための手続きが行われていた。列ができているが、手続きが簡単なためか進むスピードが早い。コウ達は素直に列に並ぶ。ここでも奇異な目で見られている。並ぶと直ぐに門番数人がこちらにやってきて目の前に立つ。


「お前達が報告された不審者だな。大人しくついてきてもらおう」


隊長らしき人物が発言すると、門番が武器を抜き周りを囲む。


(わお!いきなりのホットスタート)


 思考通信を行う。


(どうされますか?)


(どうするったって、いきなり暴れるわけにもいかないし、取り敢えず言うことを聞いておこう)


(先にこの場所での会話記録を確認すべきでした)


ユキが申し訳無さそうに言うが、


(いや、それではわざわざアバターを作ってまで調査する意味がない。ハプニングは楽しみの一つだよ。街について早々イベントが起きるなんてついてるじゃないか)


 現実に警備兵に囲まれるなんてことはよほどの重犯罪を起こさない限り経験できない。もちろんコウはそんな犯罪などしたことはないので、経験したことはない。コウは初めての経験に驚きはしたが、この後の展開が楽しみでもあった。もちろん、どんな事があっても絶対安心と考えてる余裕からくるものではあったが……



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