第5話 役割

「さてと、この4人でパーティーを組むのは決定として、誰から決めていくかな?」


「提督楽しそうですね」


「楽しいからな」


 ユキカゼの多少の皮肉には動じない。この惑星は、200年程前にやり込んだゲームに似ており、懐かしさも相まってテンションが上がっていた。


「現在提督が唯一の最終決定権をお持ちですので、提督が決められた後、それに合わせて分担を決めるのが宜しいかと思います」


 ユキカゼの提案に暫く考える。


「まあ、それもそうだな。やっぱり自分は後衛が趣味だから弓術士かな」


 役を選ぶと装備品がパネルに表示される。ただ、これは通常装備というだけで、ゲームと違い装備できる種類が制限されているわけではない。軍人である以上武器の訓練は原始的なものもある程度受けている。ましてや自分以外はAIなので基本的に全ての武器の最高峰の達人の動きがインストール済みだ。ただ、全員が最強装備にすれば面白みに欠けるため、主武器と通常装備の防具は重ならないように他の者に伝えておく。


「メインはコンパウンドボウにして、サブはショートソードかな。防具は革鎧で良いか。ズボンも靴も動きやすさ重視で此方も革にしよう」


 革と言いつつも、合成皮革であり、通常は柔らかいが、衝撃を受けると瞬時に硬化しダメージを防ぐことができる。また耐熱性も小口径までではあるが、数万℃の高熱を発するプラズマブラスターに耐えることもできる。そもそも天然皮革など貴重過ぎて戦場には持ち込めるようなものではない。


「次はユキカゼが決めろ」


 自分の命令にユキカゼが考え始める。


「では状況に応じて対応する中衛で。主武器は槍、投擲武器としてクナイ、サブは刀と脇差しを一組にします。防具は鎖帷子……は、ちょっと物々しいですね。あ、これなんか良いかも知れません」


 ユキカゼが選んだ防具は基本的に黒のロングスカートのメイド服のような形で、肩当て、胸当て、ガントレット、スカートの一部、ブーツが金属製の物だった。流石、ユキカゼ、なんだかんだ言いながら私の好みに合わせてくれる。イワモリのテンションは上がっていく。


「次はサラトガで」


「あたいはそうだなあ……。前衛になるだろうから、メインはこの一番デカい剣として、サブは剣鉈。防具はハーフプレートってとこかな」


 サラトガの武器はともかくデカいゴツい重いと3拍子揃ったものだ。質量は全て超圧縮金属のため150トンを超える。ただ、防具は無難な物だった。


「最後は私ですわね。そうですね。私も前衛でしょうから武器はメインはバスタードソード、サブはアーミーナイフ、防具はこれが良いです」


 マリーローズが選んだ物は逆に武器は普通だが、防具は昔のパワーアーマーを思わせるような物だった。全身金属鎧に加え金属製のスカート、両肩には下が尖った涙滴を半分にしたような盾が付いている。上は頭より高く、下は膝下まである大きさだ。さらに左手にまるで分厚いドアのような盾を持つようだ。総質量は実に350トン。アバターやインナーを含めれば400トンを超えるだろう。

 データベースを見てみるがこれほどの重装甲はこの惑星にはなかった。流石にめさせようかどうかイワモリは悩んだが、ユキカゼの防具もこの惑星上にはなかったため、結局そのままにする事にした。


「後は現地でのコードネームかな。姓があるのは貴族階級などの極一部みたいだし、普通の者も長い名前は無いようだから、私はコウ、ユキカゼはユキ、サラトガはサラ、マリーローズはマリーというところでどうだろうか?」


 一通り見渡すが反対は特に無いようだった。


「では、降下地点は現地でリューミナ王国と呼ばれてる王都の隣にあるジクスという街付近とする。この街でまずは冒険者登録を行う。降下座標、時刻の詳細は後程送信する」


 ユキカゼの方をみるが、特にこれ以上ミーティングをする必要は無いようだった。


「では解散」


 敬礼と共にサラトガとマリーローズのホログラフが消え、ユキカゼと2人きりになる。イワモリは娯楽室の棚からワインとグラスを2つ取り出す。いつもは慣らし作業の最後に行う行動だが、今回は感覚的に身体がぴったりと合っているため大丈夫と判断したのだった。

 ボトルを開けグラスにワインを注ぐ。


「じゃあ、前途を祝してカンパイ」


 2つの強化ガラスを使用していない繊細なグラスが、軽くぶつかり甲高い小気味の良い音を鳴らす。アバターを完全に制御出来ていることを確信する瞬間である。

 ワインの味が口に広がる。驚いた顔をしたせいだろうか、ユキカゼが説明する。


「今回は味覚と嗅覚のセンサーを感度が最高ではなく、性能が最高のものにしています。天然物の食料の宝庫ですからね。それにしても流石提督の秘蔵のワインですね。香りも素晴らしいです」


 ユキカゼは香りをひとしきり楽しみ、ワインを口に運ぶ。澄ました顔だが、してやったりと考えているのだろう。連邦広しと言えど、このような行動が取れるAIはユキカゼだけだろう。これも300年以上共に居た賜である。イワモリは素直に負けを認め、2杯目はゆっくりと香りも楽しみ、惑星降下までの一時を過ごしたのであった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る