第4話 初会合

 人が納められたカプセルから液体が抜かれると、中の人間の瞼が開く。イワモリのアバターだった。横のカプセルには同じ格好の本体が眠っている。何度見ても変な感じだった。手のひらを開いたり閉じたりする。特に違和感はない。これならば力加減を覚えたら直ぐに動けそうだ。前に魚型のアバターに入ったときは苦労した。特に鰓呼吸がなかなかなれず、水で何度も腹一杯になった事をふと思い出す。

 とりあえず横に置いてあるガウンのような服を羽織り、娯楽室へと向かう。惑星降下前の事前ミーティングなので、艦橋か執務室の方が相応しいのだろうが、服を装着するためのリングを部屋に取りに行くのが面倒なので、そのままの格好で娯楽室に行くことにしたのだった。

 娯楽室に入り、ゆったりとしたソファーに腰掛ける。殆ど超高密度の金属で出来た身体は50トンを超えるが、内蔵された重力制御装置により体重も本体と同じに設定されているため、いつもと同じ感じでソファーは身体を受け止める。尤も質量自体は変化していないので、身体の扱いを間違えると50トン以上の質量、それを動かす圧縮金属の筋肉によって大変なことになるのだが、今回は慣れた身体であるため特に慣らし作業は必要無さそうだった。


 暫くするとユキカゼが入ってくる。ほぼ同時にサラトガとマリーローズのホログラムが現れる。ホログラフィーとは言え、全身像は初めて見る。

 サラトガは身長は自分より高く180㎝を超えているだろう。ボーイッシュな顔によくあうスレンダーな体型をしている。さすがに男と間違えるような凹凸の無さではないが、軍服はタイトスカートではなく、女性用のスラックススタイルである。

 マリーローズは逆に自分より10㎝ほど低く160㎝台半ばぐらいだろうか。かなりメリハリのついたわがままボディで、軍服の胸元はかなり開いており、スカートも膝下までのフレアスカートである。人間だったら服務規定違反ものだ。AIでもどうだろうか。許可が必要だった気もするが、仮に違反だったとしても、作った本人は死亡しているし、それに故人の趣味は尊重されるべきであろう。何よりイワモリ自身が(コレは有り)と思ってしまった。

 娯楽室は個人用とは言え広く作られており4人でも余裕である。


「提督、建前上でも任務前のミーティングに些かリラックスし過ぎではないですか」


 ユキカゼが咎めるが、イワモリは気にしない。事前にインストールされた惑星の情報は考えていたよりイワモリの好みであり、年甲斐もなくワクワクしていた。後300年も若ければ、酒盛りをしていたかもしれない。ユキカゼは諦めてミーティングを始める。センターテーブルに惑星のホログラムが浮かび上がる。青い海と緑の大陸、3つの衛星。自然豊かな惑星だった。


「事前の資料の通り文明レベルは原始的です。但し不確定要素として魔法という存在があります。これは現象は似ていますが、世間一般で言う超能力とは別物です。ですので、アバターには不測の事態に備え、現状考える限りのシールドを装着しています。

 後、知的生命体の存在が1惑星にしては異常に多いです。なぜこれほど多くの知的生命体が同時期に存在しているのかも原因不明です。ただ、ある程度の文明レベルを持つ種族の中では、いわゆる人間族が生存域、個体数とも圧倒しています。自然淘汰の途中段階かも知れません。

 惑星は全体的に温暖です。冠雪は一部の高山及び、寒冷期に極付近に見られるのみです。

 惑星上の8つの大陸上6つの大陸で人間族が優勢です。残り2つは1つがモンスター、1つが魔族が優勢です。但し魔族が優勢な大陸は極北を含み比較的厳しい環境の為か、個体数の密度は低いです。逆にもう一つの方はモンスターの個体数の密度が異常に高く、人間族は沿岸部の一部しか進出していません。6つの大陸は文明レベルに対して交流が盛んで、比較的均質な文明を築いています。ただ、海流や風の関係上幾つかの島では交流が少なく、独自発展の文化も見られます」


 ユキカゼが一旦説明を区切り、他の者を見渡す。インストールされた情報通りであり特に質問は上がらない。


「では今後の行動ですが、提督の希望を優先し、アバターをメインとした調査を行います。ナノマシンは惑星全体に散布済み、艦からの援護も可能ですが、緊急事態若しくは要請が無い限り使用しません。また、思考通信も戦闘時、緊急時及び秘匿情報が含まれる時のみとし、意思疎通は通常会話をメインとします。但しレーダーのみ不意の事態に備え、常にアクティブな状態を保ちます。そして我々は冒険者として行動する事になります」


 ここでマリーローズが発言する。


「その冒険者というものは具体的にどういったものでしょう?インストールされた情報の中に単語、断片的な情報はありましたが、総合的な情報が有りませんでしたわ」


「端的に言えば、特定の職業に就かない何でも屋です。但しギルドという組織があり、ランク制を導入しています。最底辺ですと農家や飲食店の臨時の手伝い等がメインになり生活レベルは劣悪と言えます。中程度だと貴重な動植物の採集、商隊の護衛、害獣の討伐といった仕事になります。収入としては平均より上回りますが、怪我、死亡のリスクが高いため生活レベルは平均以下の者が多いようです。最上位クラスになると国やギルド、貴族からの指名で動くことが多く、収入も平均を遥かに上回ります。生活レベルも殆どの者は高くなりますが、個体数が少ないためバラツキが大きいです。

 冒険者は通常3人~6人でパーティーを組みます。基本的に前衛と後衛で構成されますが、稀に中衛を置くこともあるようです。前衛は防御力に優れ、直接攻撃をメインとするものがなるようです。後衛は防御力が弱く間接攻撃がメインのものがなるようです。中衛はその中間となります。後衛は魔術師や僧侶、弓術士などの役割がありますが、魔術師や僧侶に関しては魔法の解明が出来ていないためアバターの役割として選択出来ません。ナノマシンにより現象を再現する事は可能ですが、マナを感じる能力のある知的生命体及びモンスターが存在するため許容出来ません」


 バタンと音がする。イワモリがセンターテーブルに突っ伏していた。


「魔術師か僧侶がやりたかったのに……」


 イワモリが呟くが、


「無理です」


 と即座にユキカゼが答える。多分予測していたのだろう。こういう時はいくらゴネても経験上勝ち目はない。


「ですのでアバターの戦闘スタイルは武器攻撃が出来るものとなります。基本的に我々は魔法を使えませんが、マナを扱う力、魔力といいますが、それが全く無いと怪しまれるため、収納魔法のみ使えるという設定にします。

 この魔法は我々の使用する亜空間ボックスと同じく別空間に物を保管しておくものです。非常に希少な魔法で、使えるかどうかは才能により、訓練でも修得できないもののようです。それが4人揃うのは天文学的な確率ですが、発動中は常に容量に応じた魔力を消費するため、限界まで収納魔法の容量を設定していることにすれば、魔力が無いことの辻褄は合わせられます」


 サラトガが手を挙げて発言する。


「そんな天文学的な確率の設定、信用する奴いるのか?」


 サラトガと全く同じことを自分も考える。恐らくマリーローズも同じ考えだろう。


「そこは状況に応じて、高度に柔軟性を維持しつつ臨機応変に対応します」


 サラトガとマリーローズはポカンとしている。まだ新造艦なのかこのような命令が来たことはないらしい。つまりのところできるだけバックアップはするけど、その場で自分でどうにかしてね、ということだ。バックアップをする気がある分どっかの話よりは随分ましだが。


「了解。んじゃまあ、役を決めますか」


 魔法が使えないのは残念だが、この手のものはキャラクター作成が面白いのだ。

気を取り直して会議を進めたのだった。

 

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