第33話 王宮と、悪ガキ軍団と、ぬいぐるみ隊長


 王宮。

 そこは、王国の中心である。ダーカジラン王国の最高位の存在、クロージン・ダーカジラン国王をはじめとする、大臣達や将軍、国の中枢の皆様が過ごす場所。

 つまり、とっても大事な場所である。

 如何にお祭りの日とはいえ、浮かれてはいけない。周囲が浮かれていても、警備兵の方々は、その使命を帯びた瞳は、一切動じることはない。

 ………はずであった。

 悪魔の軍団が、大行進だ。


「リーダーのお通りだ、者ども、道を空けろいっ」

「帝国で名高い、緑の大猫殿のお通りだ、道をあけろ」

「「「あけろ、あけろぉ~」」」


 何かで見た、怖い人を真似ているつもりらしい。だが、どれが男の子で、どれが女の子かすら分からない、声変わり前の威嚇である。警備の皆様は、笑っていいのか、困っていいのか、互いに顔を見合わせていた。


「なんなんだ、おまえたちは」

「ほら、聞いてるだろ。あの真ん中の緑の猫耳の子、あの子、帝国で我ら第三王女殿下とやらかした、緑の大猫殿だ」


 ラマーナの悪名は、とどろいていたようだ。立ちはだかった警備の皆様は、顔を見合わせる。

 そこに、牧羊犬が現れた。

 悪ガキ大臣ネリーシャである。


「やぁ、やぁ、門番の皆様、いつもご苦労様」


 大人ぶった、お子様の弁であった。

 だが、その言葉は決して子供がイタズラに現れた悪ガキのではなかった。


「………ところで、その後ろのウサギくんは………」


 子供達の後方に、歩くだけでピタピタと、可愛らしい擬音が聞こえてきそうな巨大なウサギのぬいぐるみがいた。

 やぁ――と、ご挨拶をしたように、片腕をあげた。

 どうやら、敬礼をしたようである。

 そう分かったのは、夢を壊す、渋い声のためであった。


「はっ、十四区、第三警備隊長でありますっ。子供達が集めた情報は重要かつ緊急を要するものと判断、ご報告に上がりました」


 可愛らしいウサギさんのぬいぐるみが、渋い声で報告をした。

 門番達の時間がしばし止まったのは、言うまでもない。


 *    *    *    *    *    *


「――って事なんだけど………」


 ネリーシャは、ラマーナやルトゥークたちと集めた情報を、集まっていた王様達に明かしていく。さすがに会議の場と言うことで、悪ガキ軍団は控え室だが、緑の大猫ラマーナと、悪ガキ大臣ネリーシャ。そして、うさぎさん隊長の三人が、出席していた。

 ネリーシャによる第一報は、ウサギ隊長の部下たちによって届いていた。今は、犯人の一人に協力の下、祭りの影でうごめく新興宗教の方々を一網打尽にする準備にまで、進んでいたのだ。

 国王陛下は、期待以上の悪ガキ大臣の働きに、深々とため息をついていた。


「我らが帝国、国家連合との対応に追われていた間も、噂を集めさせていたと。まことに、たいした少年だ」

「子供だけ、と言うのもこの際、有利に働いたようですな」


 お城の偉い人たちは、頭を抱えたい気持ちであった。

 宗教屋さん達が、予言と称して、何かをしでかすらしい。予言の実現だと信じ込ませるため、何をするにしろ、時刻は守るだろう事。魔物を含めた子供達からの報告で、逃げ去った宗教屋さん達は、同じ建物に向かったらしい事までが、判明した。

 仮装をした子供だらけであるために、相手は、監視されているとは気付いていないらしい。

 子供達が有利な理由だった。


「警備隊長よ。引き続き、子供達との橋渡しを頼むぞ」


 ウサギさんは、かしこまったお辞儀をした。

 どう見てもふざけているとしか思えない。しかも、ネリーシャの足元には、緑の大猫が、退屈そうにしがみついている。

 ほったらかしが、原因である。

 そこに、新たな猫耳が現れた。


「私達も協力するわっ」


 赤い猫耳のカチューシャをつけた、ラオダ王女殿下だった。

 やっかいなのが来たと、ネリーシャは頭を抱えていた。悪ガキ大臣という地位にあっても、イタズラ姫の足元に及ばないのだから。

 緑の大猫は、遊び相手の到来を歓迎し、やっほう――と、片手を上げる。仲がよいのは喜ばしいことだが、ネリーシャは、言いたかった。


「お仕事、旦那さんに押し付けてきたんですか?」


 国家連合がらみ、ラオダ姫のニセモノの手紙の一件を起こした方々の調査など、とても重要な後始末の最中のはずである。

 なのに、里帰りをしておいでなのだ。

 大人たちは、どうしようかとおろおろしているが、さすがは姫殿下、動じない。


「だって、せっかくのお祭りですものっ」


 認めた。

 力こぶしで、お仕事を、ほっぽりだしたと宣言なされた。


「その祭りを台無しにしようって言うなら、私だって王国の姫として、黙っていられないわ。そうでしょ、ラマーナっ」

「うん、姫ちゃん」


 緑の大猫こと、我らが悪ガキ軍団のリーダーは、とっても楽しそうだ。

 正体は、魔力を持つ森の巫女である。人でありながら、人の枠より外れた存在なのだ。ルトゥークたち、人以外の人々との橋渡し。

 分かたれた種族が楽しむお祭りを台無しにするやつらは、やっつけろと。

 ネリーシャは、命じた。


「じゃぁ、いくか」

「おうっ」


 元気一杯に、両手を振り上げてお返事をなされた。


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