第30話 ダーカジラン国王、報告を受ける


 王宮とは、国王が住まいのことである。

 そして、王国の中枢ちゅうすうとも言うべき、重要な場所である。その部屋の一つ一つが広く、頑丈な石畳には、贅沢ぜいたくにカーペットが敷き詰められている。窓からは、祭りの賑わいが見えるにもかかわらず、どこか違う空間のような錯覚を覚える。

 その一室の扉が、大きく叩かれた。


「お入りなさい」


 主たる淑女が、よく届く声で返答した。すると、伝令だろう臣下が、焦る気持ちを抑えられないまま、部屋に入る。

 即座に、ひざを突いた。


「申し上げます」


 礼を尽くさねばならないお相手が目の前にいる。

 そんな意味合いも、確かにある。しかしながら、淑女の御前と言うより、淑女の御前でひざを折っているおっさんに向かって、頭を下げていた。


「何事か」


 威厳を持って、おっさんは答えた。

 ネリーシャが見れば、哀れみの涙があふれて止まらないお姿であろう。ダーカジラン王国の、国王陛下でいらっしゃった。

 しかし、土下座スタイルで許しを請う姿である。

 もちろん、相手は奥様である。


「はっ、悪ガキ大臣殿からの報告であります」


 何をなされたのか、奥様方の御前で、土下座をなさっておいでだった。いつもの姿であるため、臣下の方は一切動じることなく、報告をする。


「祭りにまぎれ、何者かが暗躍中あんやくちゅう。かき回してやるので、後をよろしくと」


 国王陛下は、がっくりとこうべをたれた。いや、すでに土下座中であるために、カーペットにしっかりと、頭が押し付けられている。

 その頭を、恐る恐ると上げる国王陛下。


「あのう………そういうわけでして、私は国政に戻らせていただいても………」

「よろしいですとも、まずは義務をしっかりなさいませ。あなた様は国王陛下でいらっしゃるのですから」


 国王よりも上の存在、すなわち奥様が、許可を出す。

 結婚をすれば、男は女の奴隷になるのだと格好をつけるのが世の常。それは国王陛下であろうと、同じらしい。


「うむ、それでは行ってくるぞ」


 よっこらせと、国王陛下は立ち上がると、臣下と共に歩み始めた。

 今更、威厳を振りまいてどうなるのか、手遅れはなはだしいが、これがこの王国の姿である。

 なお、国王陛下ご自身は、どうして奥様達がお怒りになったのか、お前分かるかと、愚痴をこぼされていた。

 臣下の方は、ごまかすことにした。


「臣下の身では分かりかねます」

「そうだな、そうでなければ、妻のご機嫌を取ることも適わぬ」


 おかしい、優先順位が、奥様のご機嫌取りに変わっている気がする。しかし、それで取りまとめる力を失う国王陛下ではない。

 お役目は、お役目、ご家庭は、ご家庭と言うことらしい。


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