第27話 警備兵と、悪ガキ軍団
分厚いながら、通気性のある、明るい色のロングの上下。長時間の歩行に対応するための、しっかり足首まで守るロングブーツ。そして、簡易の胸当てに、ひじ宛、そして手袋をした姿が、警備兵の服装である。
本日は、どこか世間ずれして、おかしかった。
今日はお祭り『
皆様が思い思いの仮装をしている中、まじめな姿で、まじめに突っ立っているからであった。
しかし、警備に休みはないと、若者達はまじめだった。
祭りの日に警備に当たるとは、ついていないと、こっそりグチを言い合うくらい、許してあげて欲しい。
警備兵のお兄さん達が、互い慰めあっていたところだった。
「牧羊犬?………って、なんだ、また君か」
「あれ、髪の長い女の子はどうした?」
目の前に、可愛らしいヤギの仮装をした少年らしき魔物が現れた。
牧羊犬は、見覚えのある悪ガキ大臣であった。
「やぁ、やぁ、どうも久しぶり」
牧羊犬ネリーシャが、生意気にも、友人に接するかのごとく声をかけた。
ここはこの王都に数多くある警備兵の詰め所の一つ。子供の遊び場ではないのだが、ネリーシャにとっては、いささか縁のある場所になっていた。
ラマーナの手紙の運搬の件で捕縛されて後、ネリーシャにとって、王国の上のほうに仲介してくれる場所は、ここなのだ。
今回も、まず声をかける場所として、この場を選んだのだった。
大きなリュックを背負って。
「おっちゃんたち、ヤバイ連中も混じってるって、気付いてないだろ?」
困った連中に懐かれたものだ。そんな大人の苦笑いが、固まった。
これがネリーシャでなければ、悪ガキのイタズラだと思うだろう。だが、密使に選ばれたことがある少年の言葉なのだ。とりあえず確かめねばならない程度には、その言葉は大きなものであった。
ネリーシャたちは、応接室に通された。
あくまで応接室と言い張る、牢獄わきの一室だ。取り調べも行うため、木製の机には傷が新旧と絶え間ない。往生際が悪く、暴れる者もいるのだろう。
気にせず、ネリーシャたちは出されたお茶をすすっていた。
「それで、話とはなんだね?」
警備隊長は、静かに腰掛けて悪ガキ大臣に訊ねる。祭りくらい楽しめばいいものを、なつかれたのだろうか。そんなことを瞬間考えて、違う、何か相談があるのだと考え直す。
ここに、王宮の壁をよじ登ったというグリーンヘアーの少女がいないことも、嫌な予感に拍車をかけた。
また、何かしでかしたのかと。
答えを聞くと、お茶がこぼれそうになった。
「王都が、ヤバイぜ。あの件があって、王都で何もしないはずないって思って調べてもらったら………ルプタ、頼む」
「オレたち、色々調べたんだ。いきなり宗教屋が
ヤギの角を生やした、小悪魔ルプタが続きを答えた。
いったいこの少年たちは、何者なのだと、大人たちは、面食らった顔をしていた。
「オレたち、交代で怪しいの見張ってのから、多分、バレてない………ぬいぐるみ屋が、秘密基地になってるんだ」
話はこれで十分と、警備隊長は立ち上がった。
花火のにおいのするタルと言う言葉でも、立ち上がる価値がある。花火の仕掛けと言う結果になれば幸いで、そうでない場合が、ヤバイのだ。
爆弾かもしれないのだから。
「案内を頼もう。おい、貴様は上に報告だ。私は彼らと合流する、ただし、目立たないように私服で――」
「仮装すればイイじゃん」
ネリーシャが、大きなリュックから、とんでもないものを取り出した。何か必要なものを運んできたのだと思っていたが、予想できるはずもない。
ぴょこんと、巨大なウサ耳が姿を見せた。
「俺とネリーシャで、基地からたくさんもらってきたから」
ヤギの悪魔ルプタが、大きなうさぎさんの頭を取り出した。大きな、巨大な、ウサギさんの着ぐるみだった。
「………私が、着るのかね?」
話を聞いていなかったのか。
そんな、二人の瞳が、いたたまれなかった。早く着替えろとばかりに、頭と胴体が机の上に置かれる。
部下達が、内心腹を抱えて笑っている気配が、伝わってくる。
「子供達と一緒に動くなら、あんたらもだぜ。俺たちの基地と、見張りのところに、きっとまだまだ出てくるぜ?」
「ウサギさんの着ぐるみ、まだあるから」
着ぐるみは、中身ガからであるために、案外と収納性能が高いらしい。巨大なリュックから、合計三つの着ぐるみセットが表れた。
笑い声が、固まった。
警備兵達は、
いい年をして、罰ゲーム。
続々と出されるウサギさん軍団に、若者達は見詰め合う。隊長以外に、着ぐるみを身につけるのは、二人。
じゃんけん大会が、始まった。
「「「「「さ~いしょっ、からっ!!!」」」」
皆様、悪ガキ魂は忘れていなかったようだ。
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