第26話 祭りの影と、悪ガキ軍団
「人々よ、聞くのです」
タルの上に上がり、演説をぶっているバカがいた。
内容も内容であったのだが、お祭りを台無しにするという点だけでも、バカと称するに、十分であった。
「今に分かります。魔物と
その魔物の姿の人々は、迷惑そうな顔をして通り過ぎる。
たまにいると、やり過ごすしかないのだ。被り物で表情が読めない人々も多いが、内心は同じ気持ちのはずである。
七年に一度のお祭りを台無しにして、なにが楽しいのかと。
「おまえらなぁ、せっかくの祭りを、なんだってんだっ」
いた。
酔っ払い様が、迷惑がる人々の気持ちを代表なされた。
まぁ、酔っ払い様も、ともすれば迷惑の仲間入りをするのだが、共倒れしてくれるなら、願ってもなかった。
「皆さん、御覧なさい。この男の愚かな姿を。堕落、怠惰、人間の発展の妨げとなるこのような男もまた――」
攻撃対象が、酔っ払いに変更された。
「なんだと、このやろ」
酔っ払い様は、酒瓶を一気に空にした。
暴れる前の景気付けだろうか。飲み干すと、大きく息を吐いた。
そして、
「おうおう、黙って聞いてりゃ、言いたい放題言ってくれるじゃねぇか。オレっちが酒を飲んで、なにが悪いっ」
話の程度が大変に低いのだが、人々は遠巻きに見守るに任せていた。
関わりあいにならないのが、平和な道。そんな宗教屋さんと、酔っ払い様の大立ち回りが今、始まらんとしていた。
「本日この退廃の都に、天罰が下ります。真の神が見ておられるのです。魔物をあがめるがごとき祭りに参加し、堕落を続けるおまえ達のせいで、この都に災いが訪れるのですっ」
タルの上で、宗教屋さんが自分に酔っていた。
酔っ払い対、酔っ払いの対決である。
一方は酒に酔い、赤ら顔で空瓶をぶら下げている。そしてもう一方は信仰に酔い、赤ら顔で演説をぶっているのだ。
言葉が攻撃的になり、もはやなにがなんだか、自分でも分かっていないのではないだろうか。血を見るかもしれない、人々はそんな予感を覚え始めた。
当然………
「ケンカだ、ケンカだぁ」
「どっちに賭ける、どっちに賭ける?」
「よっし、酔っ払いに銅貨一枚」
「賭けにならんだろう。相手はどうせ口ばっかりだぞ?」
「なんでぇ、つまんねぇ………おい、おまえもそんな高いところで俺たちを見下してないで、降りてこい、この………」
酔っ払い殿が、タルの上で演説をぶる宗教屋さんに近づく。
まさか、酒瓶で殴り殺しはしないだろうかと、一部で止めたほうがいいのかと言う相談が聞こえ始めた。いや、その前に宗教屋が逃げるだろうとの声も聞こえ始めたが、その宗教屋さんは、大声で宣言をした。
「いいでしょう、ここで真の神の奇跡を見せてあげましょう。そう、予言です。今、声が聞こえました。今から四時間後、この町に災いが起こるのです」
逃げる前の、捨て台詞。
多くがそのような感想を持ったらしい、しらけた空気になってきた。血を見る騒ぎ、警備兵を呼ぶ騒ぎにならないだけ、ましかもしれないと、お開きモードだ。
その様子を、子供たちは、しっかりと見ていた。
仮面をかぶった、可愛らしい魔物さんだが、見守る瞳は真剣だった。逃げ去る宗教屋さんに、酔っ払いをはじめ、人々の非難の声が響く。
「やろ、逃げやあって、この………」
一気に酒瓶を空にした後遺症が、足に来たようだ。
すでに十分お召し上がりになっていたために、足元がふらつき始めた。周囲の人々が支えながら、飲みなおせばいいと、誰か水をもってこいと、その栄誉をたたえていた。
だが、大人たちを見ていた小さな魔物たちは、何かを話し合っていた。
「オレはあのタルを見張ってる」
「オレ、リーダに報告してくる」
「オレはあの偉そうなの、おっかける」
短く打ち合わせをして、散会した。
悪ガキ軍団と呼ばれる彼らは、祭りの裏で行動を始めたのだった。菓子の、借りがあったのだ。うまくすれば、本日の菓子も手に入ると、張り切っていた。
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