第7話 商売

 第7話 商売 『十七歳』

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「ちょっといいか?」


「へい、らっしゃい」


 俺は、街にやってきた。

 スラムと化した街の跡地ではなく、ちょっと離れたところにあるにぎやかな街だ。


 人の喧騒というのは、ここまで心地の良いものだっただろうか?

 あの町で聞こえてくるそれらといえば、怒声に悲鳴ばかりだ。

 にぎやかで治安のいい、そんな場所もあったのだな。


 ふと、俺の手を見下ろす。

 男の手、山の男の手だ。

 ごつごつしていて、汚れていて……赤く染まっている。


「ちょっと、木材を売りたいと思ってな」


「ほう、品はどこにあるんだい?」


「ここに」


「へぇ~こりゃ驚いた。あんちゃんアイテムボックス持ちかい」


 そうか。

 そういわれてみれば、珍しいのかもしれない。

 便利なのに、あまり使っている人を見ないから。


 ……俺は、こんなくだらないことも特別なのか。

 特別でありながら、俺は俺でしかないのか。

 自分という存在が、こうも……


「あ、あんちゃん!? これ、神樹やないか!!」


「神樹ですか?」


 はて、神樹とは?

 これ、ただの木材なんだけど。

 種だって父が使ってたのの中で、生き残ってたやつ使っただけだし。


 父さん何か言ってったっけ?

 いや、何も聞いてないな。

 というか、隣街で作ってた木をそんな神樹なんて珍しがるとは思えないし。


 こいつの勘違い?

 もしくはこれも、俺のせい?


 ……そうか、これもか。

 あまり、気分のいいものではないな。


「世界に数本しかないといわれ、木の力で自身を守護する強力な魔物を生み出し、近づくことすら難しいといわれる……」


「あのー、買うのか買わないのか、さっさと決めてもらっていいですか? 買わないんなら、ほかのとこ持っていくので」


 虫唾が走る。

 そうか、神樹か。


 俺が育てればどんな木でも神樹になる。

 なんて特別で、素晴らしくて、すべてを否定する力だろうか。


「か、買います。買わせてください。ただ、今この店にこれぐらいしか無くて……」


「ん? そんなに出してくれるならいいよ。じゃ、全部置いてくから」


「ぜ、ぜんぶ!?」


「そういうことで」


 なぁ、父さん。

 俺って……林業出来てるのかな?


 なぁ、母さん。

 俺って、前に進めてるのかな?


 ねぇ……


「こんな大量の神樹を……あなた一体……」


「隣山で林業を営んでいて、名をメレテと申します。以後ごひいきに」


 俺は、二人の息子であってるのかな?


 俺二人に隠し事してたんだ。

 俺という存在は、立派な二人とは関係なく生まれた。

 俺を形作るのは……


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 ーー次話予告ーー

『第8話 定例会前編』

 明日更新

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