第18話 敏腕プロデューサー?


 仁堂くんの口調が熱い。

 「先輩、やっぱり最初は、釣り船ですよ。

 釣り船の船長は、絶対に先輩を捕まえに来ません。

 しかも、釣りに来たお客は、TwitterだのFacebookで先輩のことをどんどん拡散しますからね。

 だから、釣り客の釣り糸に絡まないよう、ゆっくり近づいて、胸鰭を振って見せて、そのまま沈んで帰ってくればいいんです。

 釣り糸が絡んでも先輩は大丈夫でしょうが、釣り客からのイメージが悪くなるのは避けたいです。

 で、それを毎日続けましょう」

 仁堂くんってば、実は優秀な仕掛け人というか、敏腕プロデューサーなのかな。

 腕を振り回しながら話す作戦が、妙に具体的だよ。


 穏田先輩も、妙に素直に頷いてる。

 「それから、漁師さんの船は危ないから、近寄っちゃダメです。

 で、先輩のことが知れ渡れば、漁師さんたちも先輩を捕れなくなります。

 だから、危ないのも最初の10日だけです。

 その10日は用心しましょう」


 「よし、わかった。

 だが、仁堂、どうやって釣り船か漁師の船かを見分ける?」

 「少なくとも、漁師さんの船にたくさんの人が乗って、それぞれが釣り竿を出しているってのはないと思うんですよ。

 ですから、遠くからその船にどのくらい人がいるか、それを確認しましょう」

 「……なるほど」

 どうやら、穏田先輩、水面まで行ったことがないみたいだ。


 穏田先輩、少し悩んでから、重要なことを打ち明けるみたいに言い出した。

 「だけどな仁堂、俺が水面を泳ぐと、サメ映画みたいに背びれが出ちゃうぞ。

 体の仕組みがそうできてる。

 しかも、俺、目が良くないぞ。

 だから浮上もしなかったんだ」


 ええっ、サメって眼、悪いんだ!?

 「そうでしたね。

 先輩の目についていた寄生虫、最初に会ったときに退治しましたもんね。

 そのあと、見えるようにはならないですか?」

 「だめだなぁ、やっぱりあまり見えないんだよ」


 そうか。

 それは辛いね。

 目に寄生虫がつくって、すごく気持ち悪い。

 私たちは腕があるからいいけど、サメじゃ目を擦れないもんね。

 きっと、頭がカユイときなんかも、困るんだろうねぇ。


 「じゃあ、私たちが水面ぎりぎりから偵察しましょうよ。

 船の真下に入らなければ、まず見えないでしょう?」

 私、そう提案する。


 「そうだな。

 あおりの言うとおりだ。

 距離をとっていれば、船からは海面は見えても、その下にいる俺たちは見えないからね。

 逆に、俺たちの目なら、遠くからでも漁船かどうかはわかるよ。

 穏田先輩、協力しますよ」

 仁堂くんも賛成してくれた。


 「ありがとう。

 俺が無茶言ったのに、2人で助けてくれて本当にうれしいよ。

 本当にありがとうな」

 ああ、穏田先輩、泣きそうだよ。

 でも、知り合いがメジャーデビューするとなったら、こっちだって、それはそれでうれしいもんね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る