第17話 未練たらたら
「ねぇ、仁堂くん。
私たち、回遊しているとはいえ、5日ぐらいならばここにいてもいいでしょう?
言いっぱなしじゃ無責任だし、穏田先輩がテレビに出るまで、ここで様子を見ましょうよ」
そう提案してみる。
言い出しっぺが、いなくなっちゃうわけにはいかないもんね。
仁堂くん、大きくうなずいてくれた。
「そうだな、あおり。
俺たち、テレビは見れないけど、テレビカメラが来たら、それでもう安心だもんな」
うん、その間に、いろいろと穏田先輩の売り出し方、考えることができるだろうしね。
ともかく、穏田先輩の出現が毎日続ければ、観光船だって出るようになる。
毎日たくさんの人が先輩に会いに来る。
そうなれば、今度はその人たちが先輩のことを守るからね。ご飯の面倒だって見てくれるかもよ。
ふと見たら、穏田先輩、泣きそうになってた。
「俺、もう諦めていたんだけど。
もしかたら、か◯ぱえびせんがもう一度食べられるかもしれないなー。
したら、もう死んでもいいや」
それを聞いた仁堂くん、爆笑ってくらいに笑い転げた。
「先輩、先輩は海の生き物の中でも、むちゃくちゃ長寿じゃないですか。
たしか、150年くらいかけて大人になるんでしたよね。
まだまだ死ねませんよー。
むしろ、僕たちの方が短命ですからね。
100年なんて生きられないと思いますよ。
普通のイカなら、数年ですもん。
じゃあ、先輩、か◯ぱえびせんが再度食べられるその日まで、頑張りましょう!」
仁堂くんのガッツポーズに、穏田先輩、大きな口を開いて応えてくれた。
やっぱり、ヒレではガッツポーズ、無理みたいだね。
でも、なんでか◯ぱえびせんなの? って思って。
……気がついてしまった。
私も、森水のチョコボール食べたい。
銀の天使、4つまで集めていたのに。
あと1つで缶詰がもらえたのに。
これはこれで、切実な望みだねぇ。
ああ、チョコレートが食べたいよぅ。
って、仁堂くんも……。
「俺も、死ぬまでの間に、もう一度たけのこが食べたい……」
みんな揃って、切実だねぇ。
でも、そこでツッコミが入った。
「いや、そこはきのこだろう?」
と穏田先輩。
「先輩は、えびせん食ってりゃいいじゃないですか?」
「いや、それはそれとして、やはりきのこがベストだ。そこは譲れない」
「なに言ってるんですか?
きのこがベストって、正気ですか?
たけのここそが至高です」
お互いの口調が激しい。
私、びっくりしてしまった。
そもそもだけど、私を取り合っていたときの方がまだ冷静だったじゃん。
「ねえねえ、どっちも美味しいじゃない。
なんで2人とも、急に熱くなっているの?」
って、仲裁しようとしたんだ。
仁堂くんと穏田先輩、揃って私を見て、声まで揃えてこう言った。
「すっこんでろ!」
……ひ、ひどいっ。
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