第15話 孤独は死に至る病


 「私、深町あおりです。

 仁堂くんの彼女です。

 この間、生まれ変わったばかりです!」


 私、そう自己紹介したよ。


 したら、穏田先輩、私のことをじぃーっと見た。

 そして……。

 「なあ、仁堂、彼女だけど、俺にくれないかな?」

 って。


 はぁっ?

 私はモノじゃないし。

 なんで急にそんなことを?


 「仁堂、お前が羨ましいよ。

 俺は、この深海に来てから、お前以外に話す相手に巡り合っていない。

 ましてや彼女だなんて。

 ここで、魚たちを相手に沈黙を保って生きる辛さ、わかってくれるだろう?」

 穏田先輩の声、切実だった。


 その辛さ、私にもわかる。

 仁堂くんに会うまで、私だって心細かった。

 でも、それでも、あげる、もらうの対象じゃないよ、私。


 「先輩はサメで、あおりはクラーケンですよ」

 仁堂くん、笑いながら答えた。

 そうか、冗談にしてしまうつもりなんだね。


 でも、穏田先輩、話し続ける。

 「仁堂、お前、イカは話せないぞ。

 単なるイカを、お前は彼女にできるか?

 あおりさんだからこそ、話せるんだろう?

 俺だって同じだ。

 ものも言わないオンデンザメは、単なる魚だ。

 欲しいのは形じゃない、心なんだよ。

 孤独は、独りは辛いんだ……」


 私……、どう言っていいかわからなくなった。

 私をくれって言い方は、確かにどうかなとは思った。

 でも、それは私をモノ扱いしているからではなく、切実に欲しいからだっていうのもわかったからね。

 それも、私という人格というか、心が欲しいって。


 私も、人間だったときはモテた。

 モテすぎていて、みんな遠慮して誰も告白してこなかったけど。

 ここでも私、モテてる。

 それも、私のナイスバデーが目的じゃない。


 ちょっとぐらっときた私を、誰が責められるっていうのよ。


 「仁堂くん……」

 「あおり。

 僕は先輩が相手でも、君を渡すつもりは毛頭ない。

 でもね、それは僕の意志だ。

 君の意志は君が決めるんだ」

 ……仁堂くん。

 そうか。


 仁堂くんも、孤独だったんだね。

 だから、巡り会えた私に、どこまでも優しいんだ。



 「ただ……。

 先輩、俺たちは、回遊していないとまずい生き物です。クジラなんかに見つかったら、喰われてしまうかもしれません。

 そして、先輩は、とてもゆっくりとしか泳げない、回遊なんて無理な生き物です。

 それはどうするんですか?」

 物理的な制約、そういうのもあるのか。

 種が違うからね。


 「仁堂、俺が考えないと思ったか?

 それでも、俺、守るよ。

 絶対に、守り抜くよ。

 岩場に、ちょっとした庇があるんだ。

 そこでなら、家みたいにできる。食べ物は、そこへ俺が運ぶよ」

 ええっ、持てないと思っていたマイホームなの?


 なんか、穏田先輩、私の心をピンポイントで突いてくる。

 ぐらぐらしちゃうよぅ。

 

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