第14話 えっ、だれ?


 泳いでいくと、谷間はカケアガリに浅くなっていく。

 「引き返そう」

 仁堂くんの言葉に私はうなずいた。


 このまま行くと、静岡県に上陸してしまう。

 魚群探知機もたくさんあるようだ。

 ここがとてつもなく深いからまだ良いけど、浅い海は怖い。きっと見つかってしまうし、考えてみたらビーチでノンアルコールカクテルなんて、もう絶対ムリ。

 存在自体がもてはやされる、JKにはもう戻れない。


 しかたないことだし、ずーっとJKでいられないのもわかっている。

 でも、さびしい。

 そう感じることぐらい、いいよね。


 仁堂くんが、金色の身体をくるりと回した。

 私もそれに続く。

 そこで気がついた。


 太く大きなサメが、ゆっくりと動きを止めたのに。

 私たちの後を追ってきたのだろう。


 私たちと同じ深さを泳ぎ、ここまで大きい生き物はクジラ以外、見たことがない。

 私、恐怖のあまり仁堂くんの身体にしがみつき、次の瞬間、逃げろと言われていたことを思い出して離れる。

 私たちの身体は大きくイメージされるけど、腕が長くて頭の部分は案外小さい。つまり、ボリューム感はそんなにないんだ。

 それに比べてこのサメは、体長では私たちに及ばなくても、ずんぐりとしていて迫力がある。


 「仁堂くん、負けないで!」

 離れ際に、そう声を掛ける。


 でも、仁堂くんの行動は私の想像を超えていた。

 「おう、穏田おんだ先輩、久しぶり!」

 そう声を掛けたのだ。

 サメに。

 片腕を上げて。

 


 「おんだ」って誰よ!?

 私の混乱に気がついているのだろうけど、サメってば、平然と返事をしたよ!

 「よう、仁堂、久しぶりだな。

 てめー、泳ぐん、速すぎなんだよ。追いかけんの、大変だったんだぞ。

 で、彼女か?

 紹介しろよ」


 えっ、仁堂くん、このサメとお友達関係なんだ。

 てか、穏田くんもひょっとして……。


 「そうだ、あかり。

 この人も、同じく深海に転生したんだ。

 ここに来てすぐ知り合って、いろいろと教わった。

 ある意味、大先輩だぞ」

 仁堂くんの紹介を聞いて、なるほどって思った。

 生まれつきのサメじゃないんだ。


 「いやいや、腹が減っていたから、襲って足の2本くらいを頂いたんだよ。

 そうしたら、わかりやすく日本語で悲鳴が上がったんで、それから仲間になったんだ」

 ああ、仁堂くん、足を失ったのは初めてじゃないって言ってたもんね。

 それに、仁堂くんがクラーケンになって、まだそう日は経っていないはず。それなのにここまで海に詳しいのは、先輩になる人がいたからなんだ……。

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