第13話 駿河トラフの底で……


 旅に終わりはない。

 泳ぐ。

 たまに食べる。

 疲れたら眠る。

 その繰り返し。


 毎日捕まえて食べるものは変わるし、新しい発見もある。

 とはいえ、その繰り返しにも飽きてきたころ。


 仁堂くんがまた、ちょっと凄いことを言い出した。

 「ここどこだと思う?」

 「今、泳いでいる場所だよね?」

 私の確認に、仁堂くんがちょっと笑った気がした。


 「ええっ、わからないよ。

 あいかわらず深い海で、ただ、谷底にいるみたいとは思っているけれど……」

 「静岡県」

 「は?」

 思わず、変な声が出た。

 いや、実際に声は出せないけどさ。


 「日本なの?」

 「そ」

 仁堂くんの返事、シンプルすぎるよね。


 私の頭の中、いろいろな考えがぐるぐる回った。

 両親には会えないよね。

 連絡のしようもないし。

 学校のみんなにも……。

 近所の人たちも、行きつけの可愛い雑貨屋さんも、みんなみんな、会えないよね。


 思わず、ちょっと泣きそうになった。

 そして、仁堂くんが焦りまくる気配。

 「いや、あおり、ごめん、泣くとは思わなかったんだ。

 ちょっと、懐かしんでくれればいいかなと思っただけで……」

 「ごめんね、仁堂くん。

 でも、もう、誰にも会えないのかって思ったら……」


 「そうだよね。

 あおりも会いたい人はいるよね」

 ついに私、仁堂くんにしがみついて泣き出してしまった。


 仁堂くん、私を抱きかかえて、よしよしって頭をなでてくれた。

 「泣き虫だなぁ、あおり。

 でも、気持ちはわかるよ。

 ……ねぇ、あおり。

 海はね、どこへでもつながっている。

 だから、直接顔を合わせることはできなくても、ここはその人とも繋がっているんだよ」

 仁堂くんの言葉は優しい。


 そうか、生まれ変わったのがクラーケンで良かった。

 海は大きくて日本中を取り巻いている。

 私は、今でもみんなと一緒だよ。

 仁堂くんの言葉のおかげで、私、そう考えることができた。


 ありがとう、仁堂くん。

 そう思いを込めて、仁堂くんの瞳を覗き込む。

 仁堂くんも、私を見つめる。


 くぅっ、せっかくのいい雰囲気なのにっ。

 本当ならば、キスしたいのにっ。

 どうやっても、この状態からはキスは無理。

 もー、ほんとにもー。

 さっきまではクラーケンでよかったと思ったけど、やっぱり使いにくいよ、この身体。

 なんで、口が付いているのがこんなところなんだっ!?

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