第29話 結婚式2
「ホレ見い、真面目に作ってもらったのじゃ。
泳げなくてここには来れなんだが、200歳を超えるロブスターになった女史がいての。手が使えるのは仲間内でもお前たちと彼女だけじゃ。
他のみんなは、ヒレしか持っとらんからのう……」
そう言いながら、差し出された2つの指輪。
ウミガメさんが、背中の甲羅に乗せて運んできてくれたんだ。
赤と黒、2つの指輪がつやつやときれいな輝きを放っている。で、コレ、指輪というより腕輪、いや首輪、いやいやもっと大きいね、これ。
仁堂くんと私の腕の先なら入りそうだよ。
「なんとも申し訳ないが、我らには金属の加工はできなくてな。
でも、ステンレスの特大リングは船で使うものだからな、たまに落ちているのじゃ。これは錆びなくてよいじゃろ。
それに、本物の特大血赤珊瑚と黒珊瑚を探してきた。
我らが磨けるのは、ここまでが精一杯じゃ。
お前たちは大きすぎる。
沈没船で宝箱を漁ってもらいもしたが、どれほど大きくてもせいぜいキンメダイの目玉程度、お前たちが身に付けたらまったく見えんしな」
リーヴァイさんの言葉に、なんかいろいろと本気を見たよ。
本当にお祝いしてくれる気なんだ。
なんか、うるってきた。
祝福される幸せってあるよねぇ。
「それでは2人とも、よいかな?」
改めてそう聞かれて、私、頷く。
正確には、そうなるように耳を動かした。なんせ、首がないからね、私たち。
「それでは。
クラーケンの若き2人よ。
病めるときも、悲しみのときも、貧しいときも、ダメダメだというときも、その命ある限りお互いを愛し、敬い、慈しむ事を誓いますか?」
深々と威厳のある声で、なに言っとるんじゃ、ジジイっ!
ちょっと、ちょっと、ちょっと!
いくらなんでも、それはないんじゃない!?
思わず抗議の眼差しを向けると、リーヴァイのジジイ、しれっとこう言いやがった。
「健やかなるときも、喜びのときも、富めるときも、イケイケのときもって、そういうときには別れんじゃろ?」
それはそうですけどっ!
そのとおりですけどっ!
でもね、それは違うっ!
「で、どうなんじゃ?
誓うのか、誓わんのか?」
ジジイ、さらに私を逆撫でる。
私、ぷりぷり怒りながら、叫んでた。
「うるさいっ!
誓うってばっ!
余計なことを言うなっ!
ねぇ、仁堂くん、君はっ!?」
仁堂くん、なぜか両手を上げて言う。
「あおり、僕も誓うから、ほら、落ち着いて」
って、宥められて気がついたら、2列に並んだみなさんから爆笑が湧いている。
「よく言った、娘さん。
ワシら全員が証人じゃ」
「若いってのは良いねぇ。アタシだって若いときには……」
「ワシも、JKの嫁が欲しいのう」
「それは犯罪じゃ。
ワシが密告してやるぞい」
「ワシなんぞ、同種族で女性がおらんのじゃぞ」
「アタシだって、男がいませんのよ」
あーあーあー、うるさいっ!
黙れ、じじばばっ!
「ほれ、誓うのならば、次は指輪の交換じゃ。
さっさと済ませい。
で、どうじゃ、誓いのキッスは見せてくれるのか?
ほれ、さっさと景気よく、ぶちゅーっといかんかいっ!」
こ、このクソジジイっ!
私たちの結婚式は、アンタらの娯楽じゃないんだよっ!
「すみませんが、このままだと新婦が激怒して顔色が真っ青になってしまいます。
私たちの式です。少し自重していただけませんでしょうか?」
仁堂くんの声。
「ちっ、つまらん。
新郎が筋論で来やがった」
「ノリが悪いのぅ。
ぶちゅーっといくのが見たかったわい」
「まぁ、筋を通すのは、良い男の証じゃ。
ここは顔を立ててやろうではないか」
わいわい。
そして、2列のじじばばたちはおとなしくなった。
ああ、仁堂くんのおかげだよ。私たちの結婚式を取り返せたのは。
「では、あらためて指輪の交換を」
何事もなかったように重々しい声で、リーヴァイのジジイが言う。
私が血赤珊瑚。
仁堂くんが黒珊瑚。
指はないから、正確には腕輪だけどね。
でもね、嬉しい。
仁堂くんが、私の腕にはめてくれた。
ああ、本当にこんな日が来たんだね。
私、ちょっと泣いちゃったよ。
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