第28話 結婚式1


 2列に並んだシルエットが、はっきり見えてきた。

 みんな大きい。


 旅の途中で仁堂くんからいろいろ教わっているからね、私にも理解ることがある。

 総じて大きな生き物は、みんな長寿なんだそうな。


 たぶんだけど……。

 私がそうだったように、ある程度の成体に生まれ変われればいいけど、イワシに生まれ変わってもシラスぐらいの大きさだと食べられちゃうよね。

 また、大人の身体に生まれ変われても、イワシの寿命は1、2年。

 1年足らずでは、人として海の中で誰かに会ったり、孤独を感じるまで生きられないんだと思う。


 それに、あまりに原始的な生き物に生まれ変わっちゃうと、意識を保てないのかもしれないね。

 ただ、保てなくて幸せってのもあると思うよ。

 イソギンチャクに生まれ変わったら、口からう◯こしないといけないって仁堂くんが言っていた。

 それは私、さすがに耐えられないよ。



 で、シルエットの形は多彩だ。

 とはいえ、穏田先輩と同じサメの仲間が多いみたい。

 サメって長生きするのかも……。

 あとは、長田先輩と同じカメの仲間。

 そして、2列に並んだ生き物のどん詰まりには……。


 大きな大きな、それこそ大きなタテガミのあるウミヘビ。

 さすがに怖いよ。

 思わず仁堂くんにしがみついたら、仁堂くんも緊張しているみたい。


「リーヴァイさんだ。

 大昔のスイスの人らしい」

 長田先輩が、こそこそってつぶやいて教えてくれた。


「あおり、僕も初めて会う人たちばかりだ。

 こんなことになっているだなんて……」

 仁堂くん、そう言ったまま凍りついている。


「待っていたぞ、足多き者たちよ」

 嗄れた声が聞こえてきた。

 これって、そのリーヴァイさんの声かな?

 思わず、きょときょと見回しちゃったよ。


「そうだ、若き娘よ」

 うわぁ、話しかけられちゃった。

 声が深々していて、風格がある。

 マジ、ヤバくない?

 まんま、神様っぽいよねー。


「海の底に来て、はや1000年。

 初めての結婚式ぞ。

 これほどの目出度き儀、我が司るしかあるまい」

 えっ、まるで、どころか、本当に海の神様とか王様だったりして。

 ラスボス感ありまくりだし。


「ということで、この役、一度やってみたかったから、年寄りの横暴という権利を行使させてもらったのじゃあ!」

 仁堂くんが、かっくんって脱力した。

 私もした。

 なんだよー、この爺さんてばっ!?


「それでは、これほどメデタイことはないので、まずは拍手ー!

 あ、サメの諸君はいいから。

 カメの諸君はその分も頑張ってー」

 妙に明るいな、この爺さん。


 拍手とか言ったって、海中だし、まともにできっこない。ウミガメさんたち、せっかくきちんと並んでしたのに、ふらふらとあちこちに漂いだしてしまう。そりゃそうだ、前足は泳ぐためのもので、拍手にはあまり向いていないんだもの。


「あー、やめやめ。

 では、皆さん、席にお戻りください。

 みなさんの紹介は式の後でじゃ。

 えっと、指輪はこちらで用意した。

 どーせ、ないんじゃろ?」

 そう言われて、仁堂くんがおどおどってなった。

 そりゃそうだ、あるわけがないよ。

 2人だけで永遠の愛を誓うだけなんて思っていたのが、こんな感じにいきなりなっちゃったからね。

 もうびっくりだし、サプライズを仕組んだ仁堂くんすらも想像していなかったことになってるみたい。

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