第38話 王都、激震!!

(何故アイツらがここに?)



唐突なジークとカミュの登場に驚きを隠せないジキル。



(でも冒険家だしそんなものか……)



驚きは4行で終息する。



「どうしたなんだ?」


「いや、別に……それよりデザートでも頼まないか?」


「君が自腹なら良いんだ」


「了解。聞いたか三人、メタボ仮面がデザート頼んで良いってよ!」


「なっ!?ちょっ!!」


「ホントに!!おじさんありがとう!!」


「わーい!」



そんな感じにジキル達の不可思議な交流は続く。



「オニイチャン!!」



するとジキルの近くにリゼが嬉しそうに駆けつける。



「どうしたリゼ?」


「みてみてコレ!!」



彼女はあるものをジキルに見せる。



(羽子板みたいに見えるが……しかしピンク色に塗りつぶされて詫び錆びの心を感じない。下町で作った便所ブラシかも知れないな……)


「なんだこれは?」


「翼子突(エンジェルビート)のラケットですね。得点毎に相手の顔にペイントを施すんです。女性に大人気のスポーツなんですよ」



ミイムがジキルに説明してくれる。



「ペイントってどんな事書くんだ?」


「特に決まりはありません。私は翼子突(エンジェルビート)をやるよりペイントペンを集めるのが好きですね」


「専用のペンまであるのか」


「こんな感じです。最近は凝っていて香りのあるタイプもあるんですよッ」



ジキルはミイムが鞄から取り出したペイントペンを見せてもらう。



(卵納豆(エッグダイズ)、濡れた子犬(キュートドッグ)、乾き染み牛乳(ミルク)……何れも香り長時間持続型か……恐ろしいゲームだ)


「マイちゃんが交換してくれたんだ~」


「そうかそうか」


「ヘヘーン。アタシが選りすぐった一品よ。これでリゼも一流プレーヤー間違いなし!!」


「えへへ、照れるな~」


(ん?)



ジキルは不意に見えたラケットの値札を眺める。



(安物か、まぁ子どもの小遣いで買ったものだ。たかが知れている)


「ところでリゼは何と交換したんだ?」


「リゼからはこれを交換してもらったんだ~」


「ちょw」



そう言ってマイが見せたのはジキルが家電屋のエルフに買わされた高い方の杖だった。



「ごめんねオニイチャン……でもマイちゃんと次いつ会えるか分からないから……」


「……問題ない、安物だからな!!」



声が裏返ったジキル。


リゼも高いものだとは知らなかったらしい。



「えぇ~!!コレ安物なの~?まぁアタシは心が広いから気にしないけどね!」


「おっ、おう……」


「皆楽しそうで良かったんだ」



ヲタクが二人の少女と成人前のサービス業女性の中睦まじい様子を見てそう言った。



「男も女も子どもの頃位は皆こんなだと良いんだがな……」



ジキルの脳裏にフォレストで手にかけてしまった獣人の少女、ダマサイに来る前に買い物を共にした少女の姿が浮かぶ。



(誰かを守れる人……か……)



そして浮かび終えた後の視線の先には笑顔で笑うリゼの姿が。



「子どもの頃幸せでも、それはそれで大人になったら欲は増すんだ」


「根も葉もない事言うな。が、多少は救いになるだろ?」



ひねくれた事を言うヲタクにツッ込むジキル。


するとヲタクはふぅとため息をついて語り始める。



「今の世は残酷なんだ」


「いつの時代も変わらないんじゃないか?」



ジキルはヲタクの呟きを否定する。


転生前の世界、転生後の二つの世界を多少生きたからそう彼は言えるのかも知れない。



「ノンノンなんだ。世は正に大選民時代……出自・容姿に問わず、自ら見ている世界の住人達に拒絶された時点で終わりなんだ」



ダウナーな事を言うヲタク。


だがジキルはこれが彼の素だと率直に思い始めた。


根が暗い男なのである。



「貴族だったお前がそれを言うのか?メタボるくらいには肥えれて、あれだけ美人な獣人の子が股開いてくれた位なのに?」


「貧しくても太るんだ。それに彼女は僕を愛してはいなかったんだ」


「お前の身体付きは貧困太りのそれじゃない。だったら直ぐに切り替えろよ。出会いなんて奇跡みたいなモンだろ?」



ジキルは諭す。



「奇跡は待っても来ないんだ。だから僕は全て捨てることしたんだ」


「んっ、それってどういう……!?」



ヲタクのその一言が妙に引っ掛けるジキル。




そんな時だ。



「あぁ!!落としたぁ!!ゲームのカード落としちゃったぁ!!!!」



ウワァァァァァァ


ホワァァァァァァ



近くの席の中年エルフが大声で叫ぶ。


どうやら開封途中に誤って店の外に落としてしまったらしい。


ヒラヒラまっさらな公道を飛んで行く一枚の紙切れ。



「うるさいですね……」



ミイムが呆れた様に言った。


更に時同じくしてである。



「おーい!!マイ!!」


「パパ!!ママ!!」



マイが叫ぶ。


目線には手を振る仲睦まじい様子の男女。


どうやら父親、母親が近くに居たらしい。


マイは大急ぎで二人の元へ駆け出す。



(あんな事言っててもやっぱ子どもだな……)



ジキルはその様子を微笑ましく眺めていた。


































































その時だった。



ドンッ!!!!



「なっ!!」



ほぼ一瞬の出来事である。


舞い上がる小柄な身体。


約45度の角度から宙に舞うその身体は遠心力をかけて漫画の如くトリプルループ。


そして重力の理に従い落下してゆく。



バサっ



その時ジキルが見たのは、突然現れた黒塗りの高級車に突き飛ばれそうになった父親を庇って宙に放り出されたマイの姿だった……。



ギュウゥゥゥゥゥ!!!!!!



車は猛ブレーキをかけて、周りのエルフやベーシックを数人撥ね飛ばしそうになったが辛うじて神回避して制止する。


車が来た方向をジキルは一瞬見やる。


周辺の車も異常に気付き止まり始め、渋滞が起こる片鱗を見せている。


よく見るとその渦中にはゲームのカードを拾いに行こうとして、車道に飛び出してしまった中年エルフの姿がある。


それを避けようとした黒塗りの高級車がこの惨事を引き起こしてしまったのだ。



ガバッ!!



黒塗りの高級車から人が出てくる。



「お前は……スライス国防長官!!」



ジキルの目の前に居たのはスライス国防長官だった。



「ええい!アクセルを踏み切ったと思ったらブレーキを踏んでしまったぞ!!」



スライス自体は最初唐突に車道に出てきた我が息子を避けただけだった。


しかし制限速度オーバーで加速していた黒塗りの高級車は直ぐ止まれなかった。


そこでスライスは咄嗟にエルフ特有の動体視力と彼自身の運転技術を生かし、神回避を狙ったのだが、眼前の人を見て保身心から思わずブレーキを踏んでしまった。


僅かな奢りが過ちを加速させた。


その結果どっちつかずの運転となったのだ。


悲惨な事故だった。


また事前の会談で一飲みしたワインが酒に弱い彼のハンドル捌きを徹底的に鈍らせた。



(なんで……こんなッ!!)



絶望するジキル。


ジキルの転生前の世界でも飲酒運転による事故は後を絶たない。


異世界も又、酒の酔いによる過ちは例外ではないのだ。



「いやあああぁあぁああああああああああ!!!!!!」


「リゼ!!」



泣き叫ぶマイの両親の声すら書き消す勢いで泣き叫ぶリゼ。


ジキルも驚きを隠せない。


ヲタクの彼女代行のミイムも驚愕の表情を見せている。


だがヲタクはその様子を仮面越しながら何処か冷やかに眺めている。


周囲に野次馬が出始める。



バシャッ


バシャッ



大型のレンズカメラ持ちの男女の姿もある。


急いで救助を呼ぶ為、背中に背負っていた無線機の準備を始めるジキル。


だがそんな彼らに間髪入れず次の悲劇が襲いかかる。





ドドドドドドドドドドドドドドドド!!!!




「地震!!」



凄まじい揺れが周辺を襲う。


揺れに呆気にとられるジキル。



バリンッ



だが直後にリゼの真上に老朽化していた建物の破片が襲いかかる。



「あ……」


「リゼ!!」


ー出番みたいだなぁ!ー



ジキルにHiDeNの力が発動する。


彼は揺れを物ともせず、リゼを抱え込むとそのまま近くのテーブルの下に隠れるのだった。


最もHiDeNも状況は理解してるらしく、以前と異なり圧倒的にその様は大人しい。



ガタガタガタガタガタガタッ



首都を襲う激しい揺れ。



ギャァァァァァァアアアァ



周りで響く無数の悲鳴。



スファァァァァアフィァァァアマァ



立ちこむ砂煙。


周辺の道路が地割れをおこしてゆく。


年数の古い建物はボーロを崩す様に破壊されて行き、ガラスはあっさり外れて勢い良く水玉を蛇口から洗面台に落とすように地面へ広がって行く。


それが暫く続いた……。












「止んだ?」



埃が引いて行く。



「これは……」



周りは悲惨な状況だった。



べしゃっく



特にカメラを持っていた男女は顔と下半身が建物の瓦礫の下敷きで酷い有り様だ。


だが幸い他の周辺人物達は固まって集まっていた野次馬以外全員無事だった。


更にジキル達の周り建物は殆ど倒壊しておらず無く、傾きながらも原形を留めている。



(そういやヲタク達はどこ行った??)



周りを見るがヲタクとミイムはいつの間にか消えている。



(国防長官とカードヲタも消えてるじゃないか!)



スライスとあのゲームのカードを落としてしまった中年エルフの姿もない。



「マイちゃん!!」


「リゼ!!」



バササッ


リゼは即座にマイ達が居た場所の方へ駆けつけて行く。



「あぁ……嘘……マイ!マイ!」


「返事をしてくれ!頼む!」



マイの両親は地震発生時、スライスが開けたまま置いていった防弾ガラスと一万二千枚の特殊装甲で覆われた黒塗りの高級車にマイを抱えて移動し瓦礫の盾代わりにしたらしく軽傷だった。



「まだ微かに息がある……だが……」



ジキルはマイの様子を確認する。


息があるが余談を許さない状況だ。


加えて災害で現場は混乱している。


その時だ。



『もしもし!!無事か?リゼ少尉!ジキル軍曹!!どうぞ!!』


「ナオミン中尉か!そっちは無事なんですか!!」



ジキルの背中の無線からナスカの声が聞こえている。



『私は会談終了後オフで翼子突コートに居たこともあり無事だ!!そっちの様子はどうなってる!!』


「現在オウタムブリーフ三丁目ルモン通り、俺は無事です!ですがリゼ少尉含め周辺に負傷者多数。内一名は重症!!急いで救援を!!だけどこれは一体!?」


『敵の奇襲だ!!転移魔術と陸路を潰すための魔術による地ならしを行ったのだ!可能な限り救援は急がせる!!軍曹が無事ならアンダーグラウンドに輸送中の機体を急遽展開させたからそれで至急迎撃に迎え!』



ジキルは真上を見上げる。上空には巨大な魔方陣複数とそこから複数の敵の兵器と見られる影が降下を始めている。



「アンダーグラウンドの場所は!!」


『その通りを真っ直ぐ行け!機体は国営公園に展開準備させている。急げ!迷彩を施してると言っても見つかったら直ぐやられる!!』


「了解!!」



ジキルは急いでアンダーグランドへと向かう事となる。



「リゼ、周りの人達を頼むぞ!」



そう告げて、人獅子の元へと駆けて行くジキル。


既に口実は取っていた。



(ロクな戦術無しに迎撃?所詮見栄の口実だろ?なら俺とHiDeNで10人分活躍してやるって!!)



ジキルは既にリゼが何者で、何故軍に居るのかを自身の立場からこの時既に察していたのだ。


一方、意識を失ったマイの姿を見て両膝を地面につけて泣き続けるリゼ。


そんな彼女の元に一人の人影が姿を現す。



サッ








「大丈夫ですよ。私が必ず彼女を助けます」


「!?」



リゼの前に現れたのはローブを被った謎の金髪の美少女。


彼女は重傷のマイに杖と手を当て、詠唱を唱えて行く。



スゥゥゥゥゥゥ



するとマイの傷はみるみる退いていった。



「魔法…これが……」



リゼは魔法に憧れていたが、現物を見たのは初だった。



「ん……コホッ!コホッ!」


「マイちゃん!」


「「マイ!」」



喜ぶ両親。



「ありがとうございます!」


「まさか回復術師様……此方では殆どいなくなられたという話でしたが、あぁ本当にっ!!」



傷を直した回復術師とされるの少女に感謝を述べる両親。



「他の方も……お父様の方は少し運ぶのを手伝って頂けると幸いです」


「ぜっ、是非とも!この恩は本当にっ!」



彼女はそのまま、他の周辺の負傷者の手当てにあたってゆく。



「………………」



そんな彼女の姿を一見した後、リゼは無言のまま立ち去ろうとする。



「……リゼ、どこ行くの?」



意識が安定してきたマイが去ろうとするリゼに尋ねる。



「ごめんねマイちゃん……そしてありがとう……」



後ろ姿のリゼの表情はマイには見えない。


だがリゼは次にこう言った。



「あたし、これから悪い奴らをやっつけにいくから……」


「…………え?」



何の事か分からないマイ。


リゼはそのままその場を去って行く。


その時の彼女の瞳からはハイライトが消えていた……。

(続く)

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