第39話 Here we 業

大急ぎで人獅子の元へと向かうジキル。



ダッダッダッダッ



本来ならオウタムブリーフからアンダーグランドへは目と花の先だ。


だが災害の混乱と破壊された道路や旧式の電柱といったインフラ群と無造作に散らばった瓦礫の山が彼の行く手を阻んで行く。



「クソッ!!」



急ぎたいジキルだが思うように進めず、苛立ちを隠せない。



-素直に俺に力を貸せよ!!ジキル!!-



「分かったから力貸せよ!!」



-悪ぃやっぱ一旦ステイシーで達してからじゃダメか?ー



「後にしろ!!」



そんな感じで目的地到着までHiDeNに切り替わったジキルは、瓦礫の山を圧倒的な身体能力で駆けて行く。


まがりなりとも施設で育てられた兵隊の為、スペックが活きればやれるのだろう。


そうしてジキルは公園に到着。



ーんはぁ~じゃあするか。正直寸止めは苦しいー


「じゃあやるなよ」


ーワクワクドキドキがほしいって奴だ。自分自身をレイプするんだよ!ー


「意味が分からん」



到着して直ぐにHiDeNは邪淫に戻ってしまう。



(ともあれモタモタしてる暇はない!)



彼はジキルに戻って展開されていた人獅子に乗り込む。


敵の方はちくわ顔の初期ジェット機や、双発式のプロペラ爆撃機の姿がある。



アフィガボーボーシュッ



モテナ側もジキルがフォレスト戦争で見た自軍の装備より優れたレプシロ戦闘機群を迎撃に出している。



ブゥゥンッ



が高度が足りていないようで、右往左往している。



「敵も味方も装備が……これも遺跡の影響か!?ロクなモンじゃないな本当!!」


「軍曹!!大切に使ってくださいよ!替えが利かんのですから!!」



輸送トレーラー内の整備士長が真下からジキルに叫ぶ。



「どういう事だ!」


「掘り出しモンなんですよ!まだウチじゃ作れない部分が沢山!!」


「新型もか!」


「どっちもです!あぁリゼ少尉まだか!」


「彼女は負傷している!!なら俺だけで十分だ!!」



ウィィィィンッ



そう言ってジキルは機体を起動させ戦火の街へ出撃する!!














一方で……



「ようやくここまで来たな……」


「親父……」



ドカーンッ


ドカーンッ



瓦礫の山に爆撃が続く王都。


スライスは息子のベアールを連れて、王国の一部の者しか知らない避難用の地下室入口へとやってきた。



ジャララッ


「鍵だ……それでお前は避難しろ」


「他の奴らはどうすんだよ!」



息子の咄嗟の疑問にこう返す。



「あの場にいた人間全てをここには囲えん」



10人くらいしか入れない小さいシェルターだった。


故に彼は実の息子を選んだのだった。


その親心に邪な思惑は無かった。



「私には王国に尽くす人間として大義があるのだ…民を守らねば…」


「なっ!?色々しでかしてるのに今更ふざけんなよ!!第一怪我してるだろ!!」



スライスは先程の揺れで息子を庇い負傷していた。



「良いかベアール……うっ……臭い……」


「昨日は良い日だったんだ!!運を逃がしたくないからたまたま水浴びやめてよぉ!!」



ウワァァァァンッ



と泣き叫ぶベアール。


何となく彼も状況を理解していたのだろう。



「ハハッ、お前らしい……な……」


「そういう答えが聞きたい訳じゃねぇ!!」



厳格な筈の父の唐突な優しさに焦りが強くなるベアール。



「私はもうお前の側にはいれない、母さんを頼むぞ……」


「ふざけんなっ!!母さんは僕のカードを平気で捨てるんだ!」


「なら今、私をここで解放してくれ……」



ガシャッ



「!?」



ベアールに杖を突き出すスライス。


杖を使って戦えと言う意味なのか?


はたまた別の意味なのか?


ある意味それはベアールの父親らしい問いかけでもあった。



「なんの……なんの真似だって……」


「もう疲れたよベアール。私は……」


「うっ……」



役目に縛られ続けた男もこの立て続けに起こる困難の連続に、疲弊し悲鳴を上げていた。



「俺には無理だっ!!」



率直なベアールの返事。



バッダッダッダッダッ




そう行ってベアールは走って地下室入り口へと駆けて行く。


トゥーミカやジョブズンなら極めて模範的な、国防長官スライスを強く鼓舞するような言葉を投げてくれるかも知れない。


無論、投げてくれるだけである。


それはスライス自身も理解している。


第一彼らにこんな泣き言は言わないだろう。



「償わねばならん事が多過ぎる……」



スライスは息子に渡していた背負い式無線機を拝借し、襲いかかってきた敵の迎撃と国防長官としての役目の為、魔法の杖でよろめく身体を支えながら被災地へ向かって行くのだった……。














上空ではモテナを奇襲した帝国の部隊とモテナ国防軍の部隊が交戦している。



『ニューシティにゴーレム多数!!』


「バカなッ!!こっちは空の相手だけで、ん?うわぁぁぁぁ!!!!」



ズバーンッ



通信に気を取られたモテナ国防軍機が撃墜される。



「此方は兵不足装備不足だってのに!!駐留軍の奴らは何をしてるんだ!!」



指揮を執っていた戦闘機のパイロットが嘆く。


その時だ。



ゴオオオオオ!!!!



「あれは!駐留軍が配備を進めていた人獅子とかいう兵器か!!助けに来てくれたのか!?」



彼らの元に一機の赤い人獅子の様な兵器が迫り来る。



「なっ!!」


ガチャッ



隊長がその兵器の異変に気付いた時は既に遅かった。



ビュ!!


ズドン!!


ズピュ!!


ブシャ!!



目にも止まらぬ勢いでその場に居た国防軍機、帝国軍機はもれなく破壊される。


機動力は駐留軍の人獅子の比ではない。


最早異次元レベルのスペック差だ。


更に撃墜された機体の破片すら、その兵器が持つライフルから放たれた光の粒子によって跡形なく消された。



「…………相変わらず帝国は我慢下手なんだ」



その兵器に乗っていたのはヲタクだった。



「まだその口調続ける気?」



その機体に近付く水色の機体。


それに乗っていたのはミイムである。


此方も駐留軍の人獅子とは別物の姿だ。



「出来る限りは続けるんだ……それよりミイム……」



ヲタクは語る。


彼の機体のコックピットに貼られた写真には、ジキルと腕を組んで微笑むツインテール赤い髪の幼い少女の姿がある。



「粗方横槍の帝国は片付けたわよ。地上は彼らに任せといても問題なさそうね。ゴーレムはサウパレムの術者が使ってるみたいだし」


「だがこれで予想通り、駐留軍はアブラハエムへ兵を進める口実が出来たんだ」


「既にがっつき始めてるわ。嘆かわしい限りよ…あの子達のせっかちぶりは」


「彼とリゼを残したまま作戦を始めるとも思わないんだ」


「そう……」


「名残惜しいんだ?」


「やっぱりジキルって子は私好みよ」


「それは僕への当てつけなんだ?」


「違うわ。早い内に概念(サンプル)にしなきゃって騒ぐのよ。私という悪霊(ゴースト)がね……」


「……その貧相な身体で言われても様にならんな。質量が足りない」


「あら戻ったじゃない?それなら……」



水色の機体に乗っていた水色の少女の身体が溶け出す。


全体がスライムのような銀色の塊になったかと思えば、直ぐ様その姿は、人の身体に成るように練り上がって行く。


そうして変貌したのは妙齢の美しい女性の姿だった。



「戻して」  


「何?」


「呪文だよ。私用の……」


「フフフ……」


「ではそろそろ退くとしよう。レーダーがまだ貧弱としてもここに留まれば何れバレる。玩具と言えどそう無下に摘み取りたくないのでな…」


「そうね……」


「私はヲタク……それは名字(キゴウ)、今は名前など必要ない……」



そう言い残し二機の謎の兵器と、そのパイロットであるミイムとヲタクの二人は消えていった……。








一方、瓦礫まみれの戦場で、今回の騒動を引き起こした悪の組織、暗黒魔士連合四天王ヨーク・フラグメントと、冒険家ジークの激闘は終盤を迎えていた。



「まさか拙者の剣殺流儀が一切通じぬとは……」



ジークはほぼ無傷、反してヨークは服を破かれ両腰に複数携えた剣鞘以外は褌一丁になっている。


ジークは手持ちの鎖を投げて、ヨークを捕縛しようとする。



「お縄(ロット)!まだ捕まるほどの体力ではござらぬよ!」



ヨークは胴を後ろ90度に曲げて投げられた鎖をかわした。



「降伏しろ……お前に勝ち目はない!!」



冒険家ジークはヨークに降伏を促す。



「嫌でござる。モテナのギロチンに処されるのは拙者不服!我が生涯腹上切腹以外認めんでござる!それが果たされぬなら今ここで君と相討ちを狙う迄で早漏……」



そう言ってヨークは折れた剣を捨て、新しい剣を抜剣。



シャッ



プレッシャ-フェイントをジークにかけながら、彼に迫って来た!!



「剣技・地導創剣!!」


「遅い!」



バチンッ!!



あっさり弾かれ剣を折られるヨーク。


だが闘志消えぬ彼は、更に剣を引き抜く。



シャッ



「剣技・緒瑠威双剣!!」


「無駄だ!!」



バチッ!!



再び弾かれた上に、隠し技として褌に隠し持っていたもう一振りの小剣を真っ二つに割られてしまったヨーク。



「お前の剣(ソード)は完全に折れた!!」


「まだでござる……まだ一本残ってるでござる……」



そう言ってヨークは間合いから、少し後退する。



よろっ



そして唯一残った一振りの剣を鞘に納めたかと思えば、そのまま凄まじい殺気を放ち抜剣の姿勢を取る。



「!!」



ピスピスピスアフィピスピスビスッ



それが尋常じゃない事に気付いたジークも思わず後退し自身の手慣れた剣を一旦しまった後、黒い鞘に納められた剣を取り出せるように切り替えて、彼同様に抜剣の姿勢を取る。



(只の一撃じゃない。だがアルフの迷宮で手に入れたこの剣なら……)


(そうでござる。次こそ拙者渾身の最初で最後の一撃でござる……拙者最強の剣技にして、祖国、ハレの国ドゥカタンに伝わる究極剣技……)



両者共に状況を理解する。




シュゥゥゥゥゥ


バッ!!


バッ!!




両者共にほぼ同じタイミングで相手一直線に飛び出す。



「剣技・大和真月(ダイワシンゲツ)!!!!」



ヨークが叫び振り下ろす!!



「胡妖(コヨウ)・悪佗暗呪!!!!」



ジークがそれに応えるように技名と共に、抜剣した。



グシャァァァァァアンッ!


「んぎゃあああああ!!!!」



ヨークは一刀両断された。



バリーンッ



それと同時にジークが使用した黒い禍々しい剣も粉々に砕けてしまう。



「ジーク、無事か!」


「カミュ!?」



全てが終わった後、カミュが駆けつける。



「他の皆は?」


「奇滅の11人は俺とアマンダで全て瞬殺(ソウルドアウト)した。レーネが女王や国の皆を避難させたし、アイネスが転移門を全て壊したから敵ももう湧かないハズだ……だがストラがゴーレムの術者達を見つけたから今それを追撃してる。それと怪我人の救助で……」


「強敵だった……」


「?……コイツの事か?」


「あぁ、魔王復活を目論む暗黒魔士連合の四天王……倒すためにアルフの迷宮で手に入れた禁忌の剣を使わざる得なかった」


「!!」



カミュは刃先が完全に砕け折れて使えなくなったジークの剣を見る。



「気なするなジーク。それより君もかなり疲弊してるじゃないか?粗方敵は倒した。後はモテナの国防軍に任せよう」


「いや、その前に追撃に向かったストラの援護に向かう。彼女一人じゃ危険だ」


「確かに、急ごう!」


ダッ



そう言ってジークとカミュは仲間のもとへと向かうのだった……。








ズドドドドドド!!!!!!



着々と現れたゴーレムを撃破するジキルの人獅子。


倒れても動きそうになったゴーレムにも止めを差すのは怠らない。



「一発俺ら三人分の年収なんだ!早々外すかよ!!」



相手が無人操作のゴーレムという事もあり、状況は優位だった。



「だが空爆は?いきなり止んだが??」



ジキルは先程始まった空爆が突然止んだのに疑問を抱く。



『軍曹!上空の敵は国防軍が一通り殲滅したようだ!!転移門・下手人と術者の撃破は地上部隊に任せろ!!お前は残存するゴーレムを全て撃破するのだ』


「流石モテナの国防軍!やっぱ強いんだな!中尉、了解した!!」



ナスカの指示を受け、ゴーレム撃破に専念するジキル。


その時だ。



「真下に人が!」



粗方避難したと思われた場所に見覚えのある人物がいる。



「スライス国防長官!!」



ジキルが叫び、スライスも機体から聞こえた声でそれに気付く。



「君はいつぞやの駐留軍の兵士かっ?」



ジキル自身彼に問い詰めたい事はあるが、スライスは負傷しておりボロボロだった。



「非戦闘員だろ!さっさと避難しろっ!」


「分かっている!!だがジョブズンとの通信が繋がらんのだ!」



スライスは混乱した内部を取りまとめる為の指示を行いながら、魔法での瓦礫撤去と避難中の民衆救助に当たっていた。


マルチタスクし過ぎて気を取られ過ぎた結果、戦闘区域に入り込んでしまったのである。


その時だ。



「君、後ろ!!」



スライスがジキルに叫ぶ。



「!?」



バッ



一瞬の隙をついてジキル機の後ろにゴーレムが回り込んで居たのだ。



「しまっ!」


「このおおおお土人ンがァァぁ!!!!!!!!」



ドスドスドスドスッ



そこへ超SPEEDで雄叫びをあげながら突撃してくる赤い人獅子の姿が!!



「リゼっ!?」



咄嗟にそれを横に回避するジキル。



シュッ


ズルズルズルズドンッ



だが赤い人獅子は止まらず、そのままの勢いでジキルに迫っていたゴーレムを突き飛ばして建物にぶつけながら周辺に引きずり回して破壊した。



ガシャァァァン


「凄い……」



呆気に取られたジキルだが、直後赤い人獅子が暴れた場所がスライスが先程居た場所であることに気付く。



「そういやアップルトン!?ゑっ……」



ジキルは絶句した。


彼が居た近くの場所には背負い面が真っ赤になって真っ二つに割れた無線機が投げられてあった。



べしゃあ……


「親父ィ!!」


「!?」



そこにもう一人の人物が。


スライスの息子、ベアールだ。


彼は一部始終を目撃していたのだ。



「!!おっ……お前ぇぇええ!!」



ベアールの姿に気付くリゼ。



「お前のせいでマイチャンガアァァァァァ!!!!!!」


「リーゼ!!それ以上手を汚しちゃダメだっ!!」




ピュイイイイン!!




その時何かがジキルに弾ける。



ガンッ!!



生身のベアール向けて振り上げたリゼの赤い人獅子の拳は、その場にいた彼の人獅子に受け止められた。



「お前ぇぇ!!邪魔をするなぁ!!」


「止めろよ……」


「えっ……?」



彼の一言でリゼは一瞬平静を取り戻し動揺する。



「コイツは俺の獲物だ……」



その時、ジキルの中のHiDeNが再び目覚めた!!

(続く)

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