第31話 到着!大都市トーンゴルデン!!
突如、ジキルの前に現れた少女。
「だっ、君は…?」
「あまり男にベタベタくっつくなロート少尉!」
ヨドッヨドッヨドッヨドッ
少女が掛けてきた方向から女性が歩いてくる。
「少尉……?」
不釣り合いにしか見えない階級で呼ばれた少女故に思わずジキルは口をこぼす。
すると少女は抱きつきを解いて、少しばかりジキルから後ずさる。
「ごめんなさーいっ……なすか中尉……」
ペコッ
少女は女性に謝罪する。
(この子が少尉?という事は軍人………そしてこの女がナオミン中尉)
「私がナオミン・フェミルブースカ中尉だ。愛称はナスカ。出来れば愛称で呼んで貰えると有り難いのだが……」
ナオミンことナスカが自己紹介する。
「分かったナスカ。俺はジキル・J・ランスロット軍曹、ジキルって……」
「なんだその様は軍曹!!」
ジキルに言い終える暇を与えず、すかさず怒鳴るナスカ。
「!?」
「一時的とは言え私はお前の上官だ。なのに何だそのタメ口は?私はお前の友達ではないぞ。愛称は許したがタメ口は許していない。意味が分かるか?」
「……失礼しましたナオミン中尉」
しまったとジキルは思ってしまう。
ステイシーと接する感覚で上官のナスカにタメ口をしてしまったのだ。
「ナスカと呼べと言ったハズだ。ナスカ中尉と何故直ぐ言えない?やはりF以下の施設上がりは教養が低すぎる!!」
「申し訳……ございません……」
ジキルは謝罪した。
(クソ面倒なタイプだ……)
苦手なタイプだと察するジキル。
その一方でジキルはナスカの姿を見る。
とぐろをまいたアッシュブラウンの髪の毛。
絵に描いたソフトクリームのような髪型と言うべきか。
人獅子(ロボット)のせいで感覚が狂ってしまったジキルだが、ここは異世界だ。
(本来なら糞を窓から捨てる家庭があってもおかしくない位の文明レベルの世界だ。こういう独創的(ドクソウンコ)な髪型も一種のファッションか……)
髪型と足並みを揃えるように肌の色も鮮やかなアッシュブラウン。
丸顔で鼻の穴は広めの一方、軍人らしい高身長で細いウエストだが非常にマッシブな体格をしている。
(本当に個性的な方だな……)
「あたしのことはしってるよネー?」
赤い髪の少女がジキルに尋ねる。
(何となくだが施設出身者か…この子?)
だがジキルの記憶には彼女の姿がない。
「すまない……君の事よく覚えていない……」
忘れがちだがジキルは記憶喪失である。
ジキル的には転生した感覚なのだが、肉体としては10後半~20前半のベーシックの青年として存在している。
魔法がある(らしい)世界でも流石に無から適齢の人間が湧く事は無いらしく、言わば彼は施設時代~軍入る直前位までの記憶を失っていた。
最近思い出せたのも軍に入る試験時代から軍曹や伍長らと過ごした現役時代の頃の事で、今の段階でもまだ施設時代の事を思い出せずにいた。
「じゃあこれからたくさん思い出を作れば良いネー!!」
そう言って少女は飛び付く。
バッ
「ぐはっ!!きっ、君!!」
「あたし、リーゼ・A・ロートだヨー!リゼでいいヨー!」
早口で自己紹介を終えるリゼ。
(施設出身者って事は間違いなさそうだ……)
ペラッ
そんな彼女の服のポケットから何かが落ちる。
「これは……」
思わずそれを拾うジキル。
写真だった。
鮮明に写っているのは今のジキルの姿だ。
「リゼ……これをどこで?」
「えぇ-?随分前に施設の人に書いて貰ったオニイチャンの似顔絵だよー!」
「似顔絵?」
ジキルには疑問しか湧かない。
だが彼女達からすればそうにしか見えないのかも知れない。
(これが本当ならニコルと見た映画がより鮮明になるハズだが……)
拾ったそれは極めて鮮明なカラー写真だったのだ……。
ガタンガタンガタンゴトンッガタッ
車両に揺られるジキル達。
彼らを運ぶのはモテナ王国国営の鉄道。
「まさか電気機関車が来るとは…せいぜい人力トロッコかと思ったが…」
「一兵卒の貴様が電車を知ってるとは意外だな。この辺は最近電化が進んだそうだ。最も我が国の首都や主要都市のモノに比べれば所詮土人の域に過ぎん」
「首都?それってどういう」
「貴様?ダマサイにいる前はどこにいたのだ?」
「あぁそれは……」
ジキルは軍曹達といた町の駐屯地を教える。
「そんなド田舎……貴様は筋金入りのかっぺだな」
「えへへ、まぁ色々これから勉強しまーす」
ぶりッ子してみるジキル。
「そうだな。それならこんな電車の事より有益な情報を得たり学んでほしい所だ」
「……」
(一々酷いなぁこの人……)
ナスカはかなりピリピリしている。
彼女自身もジキルがあまり好きではないのだろう。
(軽いジョークが通じる相手じゃない。すぐに別れるだろうしフォレストにいる感覚でやり過ごすしかないな)
そんな時だ。
「オニイチャン-!トンネルを抜けるよ!」
「!?」
リゼに言われて窓に目をやるジキル。
すると汽車は闇を抜けて星の海の下へと姿を現した。
バァァァァァンッ
トンネルを抜けるとそこは夜景が建物の光で輝く大都市だった。
「これが……モテナの首都、トーンゴルデン……」
「小さい町だ。最もかっぺの都会デビューには程よいかも知れないが」
「……」
ぐしゃり
ジキルが感じた高揚ムードは一瞬で台無しになった。
加えて本人に悪気が無い感じなのが尚更、高揚ムードの低下に拍車をかけたのだった……。
トーンゴルデンにやってきたジキル達。
(すごい人混みだが…)
首都だけに人は多いが一番目立ったのは耳の長い人間が多かったのだ。
笑顔で歩く耳の長い家族連れや、耳の長い男性の腕を組んで甘えるベーシックの女性カップルの姿もある。
「耳人(エルフ)か……」
「何を今更言うのだ?モテナは昨今の経済政策で外の優秀な人間の誘致を進めていた。かの30年前の戦争ではエルフ国家と同盟を組んで戦っていた事から耳人(エルフ)との仲がそこそこ良い」
「だが俺達の国はベーシックでここは同盟国だろ?サウパレムも耳人(エルフ)国家だし……」
「モテナ自体はベーシック国家だ。首都には様々な人種が集まりやすい。我々の国も例外ではない」
「確かに……」
田舎と揶揄されたジキルのいた街にも獣人のリコや耳人(エルフ)のカミュ等が出入りしていた。
前者は故郷が直接対峙していたにもかかわらずである。
「人の才能に人種の垣根を分ける必要はない。使えるものは使い、不要な者は潰す。我々にとってベーシックこそ正しい種族だが、他ニ族も極端な主張をせず、我らに従うなら飼ってやるまで。目の上の瘤はギョクザ帝国なのだからな……」
「……」
駅を出てロータリーへ向かう三人。
そんな時だ。
アファッザッアフィッザッアファッザッアフィッザッ
駅を出てジキル達の耳に大声が響く。
「耳人(エルフ)はサウパレムの手下だぁ!愛する祖国モテナから出て行けぇ!!」
という掛け声のスローガンと共に男女が群を作って主張を訴える。
かと思えば、反対の道路では
「エルフを軽んじ、市民権に未だ壁を築くモテナ王国政府に正しき秩序を!!」
と主張する耳人(エルフ)やベーシック達の姿がある。
「デモって奴か…でも言ってる事バラバラだが」
「二つのグループのデモの許可日が重なったのだろう。よくあることだ。毎回バラしてさせたら道の邪魔になるからな」
「許可が要るのかアレ?」
「毎回好き勝手させたら経済活動の邪魔だ。主張乞食共に構うな。行くぞ」
そんな感じでナスカは目もくれず、ホテルまで向かう待ち合わせの車のもとへ向かう。
一方でその光景に妙に後ろ髪引かれて、そのまま立ち止まって眺めてしまうジキル。
「オニイチャンも早く行こー?」
「あっ、あぁ……」
リゼに言われて、ジキルもその場を去ろうとした時だ。
「うるさいですね…」
「!?」
突如ジキルの横から聞こえる謎の声。
そこにはリゼと同じくらいの背丈の謎の少女の姿が。
(透き通るような水色の長髪に、純真そうなくりりとした瞳。シミがついたら確実に目立つ白い餅肌に、こぼれ落ちそうな唇……ここはやっぱ異世界であると思えるくらいのガチ美少女だ。この子ならジークの仲間の金髪とタメ張れるな……最も成長してからの話だが……)
あまりの興奮の動悸から思わず長文になるジキル。
だがしかし……
「あの人達……」
「へ?」
「でも可愛そうです。虐殺理論さえ手中に納めれば……きっと幸せになれるのに……」
「なっ!!」
とんでもなくおぞましい言葉の入った一言を口走る少女。
可憐な見た目に反して割りと邪悪だった。
ジィィィンッ
だが声をかける間もなく直後にジキルは謎の頭痛に襲われる。
「ぐっ!!!」
「オニイチャン!!」
ジキルに駆けつけるリゼ。
(何でこのタイミングで!!)
理由が分からぬジキル。膝をついてしまう。
-争え、生き延びるために-
-戦え、生き延びるためにー
-抗え、生き延びるためにー
-全てを変えるため…今一度過ちに身を焦がせ-
ひたすら涌き出る破壊衝動。
必死にもがくジキル。
「オニイチャーン!!」
「んがッ!!」
がッ!
「ぬはっ!」
ジキルの衝動はリゼに首を締められる様に抱きつかれる事で収まった。
「すっ、すまないな……」
「大丈夫、とにかく急ご?なすか中尉が待ってるヨー?」
「あぁ……」
ジキルは足早にナスカの待つロータリーに向かう。
デモ隊がデモを続ける一方で、あの謎の少女の姿はいつの間にか消えていた……。
(続く)
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