第30話 来たれ、新型

ジキルとステイシーの前に颯爽と現れたのはフォレスト戦争で指揮を務めていた非道軍人ドドスコだった。



「何の用だ!ドドスコ・S・ラックマン!!」



呼び捨てるジキル。


彼にはそれだけの怒りがあった。


最もそんな事には一切動じず咎めないドドスコ。



「次の作戦の為の手駒を引き抜きに来たといった方が良いかな……ジキル・J・ランスロット軍曹」


「軍曹……だと?」


「報酬の先送りだ。貴殿を次の攻略で使用する人獅子部隊の一員にすることにしたのだ」


「!?」


「待ってください!!」



そこを復活したキスメルが制止する。


話がトントン拍子に進んでいる。


キスメルからすれば展開に思考が追い付かないのも無理はなかった。



「ヴェンツァーには話をつけてある。そもそもステイシー准尉及びチャド軍曹の供述記録によれば、ダン・H・シュタインとロン・H・ナシュカナイダーの行動が大元らしいじゃないかね?」


「それは……」


「無論全てが白であるとも言い難い君の言い分も理解できる。そこで私が彼を引き抜く事にした」


「ですから何故です?」


「単純だよ。次の作戦で使う人獅子パイロットが心許なくてな。最寄りのこの基地から二名拝借しようと思ってね。内一名は厄介者の彼を貰うことにした」


「納得いきません!」


「納得も何も既に決まった話だ。色々手間が省けて良かろう?」


「ジキル軍曹!!」



横にいたドドスコの補佐官がジキルを呼ぶ。



「はっ、はい!」


「直ちに出発の荷造りを始めろ。2時間後にモテナの国鉄経由でダマサイからモテナ王国首都トーンゴルデン。そこに16時間滞在し我が軍が準備したホテルに宿泊しした後、隣接都市ゴッドオリヴァの海軍基地に停泊する揚陸艦ポニーテールに同乗するのだ。そこが貴様の配属先だ」


(何!?一兵卒の俺にホテルが手配されただと?)



ダマサイからトーンゴルデンは目と花の先に位置している。


モテナ王国の首都である。


更にゴッドオリヴァはジキル達の国の海軍の本拠地がある場所だ。


ダマサイからゴッドオリヴァも日帰りで行ける距離だが、何故かジキルは直通せず、首都トーンゴルデンに一時的に向かわされることになった。


ジキルとしては割かし嬉しい一方、謎を感じていた。


無論それは異を唱えていたキスメルも同じだったらしく……



「待って下さい!何故ダマサイからトーンゴルデンに移動させる必要があるんです?第一そこでホテル?まるで士官扱い……いや士官でもそんなことそんな……」


「別にただ休ませるつもりはない。トーンゴルデンでは別の任務を与える予定だ。履歴が薄い軍曹は敵(スパイ)の目を欺くのに適任なのだ」


「はぁ……ですがもう1人とは……」


「本来なら来る予定の810期生の一人だよ。というより既に引き抜き済みだが」


「そんな事!?ジキルは兎も角彼女の訓練はどうなさるおつもりですか?」


「不要だ。何のために施設が力を入れたと思っているのだね?既にしなくても十分な調整を施しているのだよ」



ドドスコは横に見える赤い人獅子に目をやる。



「まさかそれが……」


「飛行船の能力の都合で本国からこの基地までの運搬が精一杯でね。かといって陸路だと倍時間がかかってしまう」



ドドスコは新型機をひけらかしつつ、キスメルに告げる。



「最もゴッドオリヴァまでのコレと軍曹の機体の輸送は其方で頼みたい。それと不祥事を起こした彼ら三名も私が引き取ろう。施設OBとしてのけじめだよ、フフフ……」



拒否権など無いという勢いである。



「いくら貴方がフォレストの英雄と言っても無茶が過ぎます」


「君らには代わりにこの新型の同型機五機と別途パイロット候補の810期生を調整が済み次第一番に回すつもりだ」


「そんな話、信じられるわけが!!」


「安心したまえ。それに関しては私に限らず軍上層部にも話を通してある。元々810期生の調整遅れは直前で重大な欠陥が見つかったからに過ぎない。それももうじき解決する……」


「なんですって?……一体?」



算段があるのかと言いたげなキスメル。



(ここの三人(モルモット)のお陰でな……)



思惑こそあれど真意は語るつもりがないドドスコ。



「間違いなく二週間後にはダマサイ基地に代替要員も引き渡せる。万一遅れたら私に直談判してくれても構わない」


「…………」



ドドスコは要件を伝えるとその場を後にする。



「何をしとる!早く準備せんか!」



補佐官がジキルを叱責する。



「はっ、はい!」



ジキルは急いで荷支度を始めるのだった……。


















「ジキル-!!」



基地出発直前のジキルの元にステイシーが駆けつけてくれた。



「ステイシー……」




ぎゅっ!!





ステイシーはそのままジキルを抱き締める。



「はっ!?」


もにゅっ



押し付けられるモノの感覚で赤くなるジキル。



「ありがとうジキル!」


「ありがとうって……俺は別に大した事なんて…」


「キスメル大尉の事………このまま流されるままに過ごすのは嫌だなぁって思ってたから……感謝だよ」


「どう言うことだ?」


「内緒!」



ジキルからすればステイシーがキスメルの強アプローチで半分だれていた事など分からない。


流れとは言えジキルとの関係が出来た事で、キスメルのアプローチを避ける口実が出来たからだ。



「それで私もこれを気に異動届出そうかな-って。異動先決まったら教えるねっ!後は……ちゃんと帰ってくる事っ!」



ジキルからすれば意外な発言だった。



「え?」


「だって死んじゃったら私が異動しても場所教えられないじゃん」


「まぁそりゃそうだが……」


「それで無事戻ってきたら色んな行こー?モテナは見所多いよートーンゴルデンに寄るって聞いたけど、この辺り寄れたらオススメ!!」



そういうとステイシーは観光本らしきモノを出し、手早くスポットを紹介した。



「それとそれと……」


「早くしろ軍曹!!」



補佐官に急かされるジキル。



「了解。じゃあステイシー……俺」


「待って!」



そう言ってステイシーは二通の封筒を手渡す。



「一つは私の連絡先。もう一つは今日貴方宛に来てた郵便物…」


(よく見ると飯屋の店主からだ。割引のチラシか?)


「ジキルっ……」



ステイシーが尚口惜しそうにしてる。



(ここは……決めるッ!)



目からは軽く涙が溢れている。



バッ



そんな彼女の唇をジキルは奪った。



「んっ……」



程よく二人は堪能した後に唇を離す。 


補佐官はその姿を更にイライラしながら見ていたが、横槍を出すことは無かった。



「俺も大尉と似たようなモンだぜ?」 



ジキルは彼女に言う。



「違うよ……きっと……」



ステイシーはジキルに微笑みながらそう言うのだった…………。




















車で連れていかれたジキルはダマサイの駅に下ろされる。



「5番ホーム改札前……っと……」



ジキルは5番ホーム改札前に一人で向かわされる。



(土地勘無いんだけど……第一俺がこの間に脱走するとか考えないのか?まぁ宛もないから逃げないんだけど……)



そうした腹積もりもドドスコ達の算段に入っていそうな事もあり、色々腑に落ちないジキル。


ドドスコ達はまだダマサイでやることがあると言う。


ジキルはダマサイからトーンゴルデン及びゴッドオリヴァまでの道筋はこの5番ホーム改札前で待ち合わせのナオミン・フェミルブースカ中尉の指示に従えとの事だった。



(ナオミン中尉という事はおそらく女か……女で士官階級であのドドスコの部下……ただ者じゃないのは確かだが……?)



得体の知れない存在に軽い不安と戦慄的感情がよぎる。











とその時だった。



「オニイチャーンッ!!」



突如ジキルの耳に入る甲高くやや口早すぎて舌足らずな声。


「なんだ!?」


声の方向へ振り向くジキル。


すると


ドサッ!!



「ぐあああああ!!!」


「みつけた!!オニイチャン-!!」



甲高い声の主が物凄い勢いでジキルに飛び付く。


相手とジキルの背丈の差は約二倍。


ジキルは首を締められるような感じに抱きつかれる。



グリッグリッグリッ



(お、女の子だと!!ぐっ、苦しッ!)



赤い癖毛ツインテールに甲高い声でジキルを兄と呼ぶ謎の少女。


色白でキュートなツインテールで服装も軍服じゃない可愛らしい私服。


そもそも軍人ですら怪しく人違いの可能性すらあった。


果たして彼女がナオミン・フェミルブースカ中尉なのだろうか!?


だがその前にジキルのライフゲージが彼女の髪の如く赤くなりかけていた……。


(続く)

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