第29話 キスメルの調教

「ぐっ!」



薄暗い懲罰室では殴る蹴る上等な凄惨な暴力が振るわれていた。



「死ね!!」



バシッ



「うっ!」


「死ね!!死ね!!」



ドッ



「がッ!」


「死ね!!!死ね!!!死ね!!!」



バンッ


「アガガガノガガガイイ!!!!」



暴力を振るわれ過ぎて相手は痙攣を起こしてしまっている。



「死ね!!死ね!!」



ズンッ



「ガイガイガイノガガガガガ!!」


「死ね!」



ハァハァハァ



長く叫びながら暴力を続けていたせいか振るう側も疲労していた。



「お前はぁぁ!!」



再び鞭を取って対象を打ち付けようとする男。



「落ち着いて下さいキスメル大尉!!これ以上やると供述を引き出せません!!」



見かねた警務兵二人が暴力を振るうキスメルを制止した。



「うるせぇ!既に証拠は出揃ってるんだ!!このまま銃殺だ!!銃殺!!」



暴力を振るわれていた相手……ジキルは痛み以上に意識が朦朧としている。



(俺は……一体……)



あの時の記憶が甦る。


















チャドに殴られ、意識を失いかけたジキル。


だがジキルの中の何者かが彼を鼓舞する。


そして本能の赴く間に三人を倒し、ステイシーとHOTな時間を過ごす。



「ジキルぅ……らめぇ……」


「だから俺はHiDeN……ってファッ!?これは一体?」



我に返ったジキルの目の前には行為で疲れて眠ってしまった一糸纏わぬステイシーの姿が。



ガチャッ


ガチャッ



更に血だまりや泡を吹き散らして倒れる三人の半殺しにされた男達、オマケにジキルを取り囲むように警務兵達が睨みを聞かせている状況だった……。














「お前には4人への暴行の容疑がかけられている!!」


(待て!七割位しか正しくないぞ!)



ジキルは成り行きを説明しようとするが、口や目がアザで膨らんでしまっていて上手く話せない。



「ふんがぅまるぅまるぅもぉりもぉり……orz」



三人半殺しだけであれば多少突破口はあったかもしれない。



(クソッ!)



だがジキルはあの場にいたステイシーにも手を出してしまっていた。



(手触りがまだ残っている……何をしたかも鮮明に残ってる……俺の意思じゃないのにっ!)



しかも目の前にいるキスメルはステイシーをかなり贔屓していた人物である。


逃れられぬ業(カルマ)としか言えなかった……。









一方、司令室ではヴェンツァー准将が険しい表情で考え込んでいた。



「なんてことだ!また施設出身者の兵士がトラブルを起こすとはな…」


「まぁ基地の七割が施設出身者ですからね」


「…………」



補佐官の一言にヴェンツァーは言葉を失う。



ビリリンッ


ビリリンッ



そんな彼の執務机の装飾だけ派手な備え付け回しダイヤル式固定電話が突如として鳴り響く。



「私だ……何?何だと!奴……じゃない!あの方が来られると!?」


「あの方?」


「ええい何時だ?何二時間後!?なぜもっと早く言えない?我々は弁当屋じゃないんだぞ!!」


「准将……」


「仕方ないっ……至急出迎えの支度を!手空きの連中には掃除させとけ!いいな!」



ガシッ



満を持して電話を置く准将。



「一体何が……?」

 


あまりの慌てっぶりの准将に尋ねる補佐官。



「奴が来る……」








バシャァァ!!



「ガガガノガガガガガガイ!!!!」



バケツに沢山入った冷や水をぶっかけされ悶えるジキル。


染みるのである。



(……このまま死ぬのか……俺……)



三人を倒す時に出てきた夏の魔物は姿を現す気配がない。



「飽きたな……仕方ない、気分転換だ」



キスメルはそう言うとジキルを椅子から解放する。



ガチャッ



だが解放と同時に縄と手錠をキスメルは警務兵と一緒にジキルに施した。


ダメージで抵抗する力はジキルにない。


大人しくジキルはキスメル達に連れられ外に出るのだった……。

















そしてやってきたのは基地の外の滑走路。



「ぷはァ~……ボウヤではないからなぁ~」



滑走路に到着した途端にキスメルは厳ついサングラスを身につけ、タバコを吸い始める。



「なっ!?」



ジキルはそこに置かれたモノの姿に目を疑った。




「私は人脈が広くてね。貴様を調教するためのスペシャルな処刑会場を用意させたのだ」



目の前にはギロチン台がクレーンに吊るされている。


ギロチン台にはおおよそ最近のベーシック国家でも見かけなさそうな紀元前の壁画みたいな彫刻が彫られている。


ジキルの目からすればいかにも骨董品だ。


おそらく歴史的価値があるとかでジキルのかの記憶にある世界であれば博物館に置いてありそうな奴である。


その真下には大量の薪と先端が尖った竹槍が大量に設置されていた。



更に周囲を小銃を持った兵士が取り囲み撃つ準備をしていた。



「良いかな。まず貴様を台に乗せたらクレーンをギンギンに回しながらギロチン台のギロチンにかけ落下させて糞練り込んだ竹槍にグッサグッサに刺した後火炙りでボウボウ炙り焼いた末に射撃スコア平均38点の精鋭達に貴様を蜂の巣にした上で我がキスメル家に代々伝わるデザートナイフでメッタ刺しにして貴様を殺す。この処刑は確定事項だ!!」


(最初の一撃で死んでるじゃねぇか!!)



だが反論する余力が今のジキルには物理的に無い。



(あぁ……ここで俺は終わるのか……)



生への未練は多い。


だが微かに写ったフォレストでの自身の罪の記憶が、妙にこの顛末を納得させてしまう。




(でも言うほど悪い人生でも無かったよな……)



短い間とは言え、伍長やニコル、軍曹達との思い出もあるしステイシーとも燃え上がったことを考えるとそんなに悪くないなと思えてしまう。



(あぁ……また君の背中……やっぱり遠いんだな……)



所詮人は自分の知る価値観しか知らない。


少しずつジキルは腹をくくり始めた……。











そんな時だ。



「止めてキスメル大尉!!」



叫び声がキスメルの強行を足止めする。



「ステイシー!?」


「ジキル………!!そんなっ……酷いッ!」



見るも無惨、語るは杜撰な姿になったジキルを見て嘆き悲しむステイシー。



「准尉!何故庇うのだ!!コイツに酷いことされたんだろう!!」


「だからさっきから言ってるでしょ!!彼とは何もなかったって。寧ろあの三人から私を助けてくれたんだよ!」


(それも微妙に違うぞ……)



庇ってくれるのはありがたいが何か微妙に悲しくなるジキル。



「あぁそうか……あんまり酷い記憶故におかしくなってるのだな。益々コイツが許せなくなってしまったなぁ!」


「だから違うって分からず屋!!ならはっきり言うけどジキル大きいし早くなかったモン!ベンと違って!!」


「はぁ今何と?ワンモアチャンス!!ワンモアチャンス!!」


「ショボいって話!部屋だろうが外だろうが毎回毎回密着ばかり求めてロクに動かず肝心な所で他力本願!その癖キスハグだけは執拗に求めてくる!私ジキルとやって分かったの!キスメルの事あんま好きじゃなかったんだなぁって!!」


「私がLittleboy…………だと?」


「兎に角彼を解放して!!」


「…………」



キスメルは絶句する。



(助かったのか……)



だが状況は間髪入れず新たな展開をつれてこようとしていた。



ヒュゥゥゥゥウ



上空から物凄い音が聞こえてくる。



「あれは何だ?鳥か?」


「飛行機か?」



兵士達がざわつく。


だが違う。


凄くでかいのだ。



ドドドドドドド!!!!




正体は飛行船だった。


しかも6機ほど連結するように飛んでいる。


圧巻の景色だが、間下に何かをぶら下げている。



「あれは……人獅子?」



ステイシーが言った。



(微妙に違うが……新型か?)



ジキル達の基地の機体とは全く違う。


背中に飛行ユニットのようなモノをつけている。


色も何か赤い。


次の瞬間だ。



パァアンッ



ぶら下がっていた飛行船の赤い人獅子が飛行船からパージされる。


落下する人獅子。


連結していた飛行船6機も息を合わせるように風船のごとく爆発。


ドカーンッドカーンッドカーンッドカーンッ



「「「「「ぎゃあぁぁぁぁあぁぁぁぁあ!!!」」」」」



脱出した搭乗員達が悲鳴をあげながら破片と共に落下傘で大量に基地へ落下するより早く、その赤い人獅子は基地滑走路へ迫って来ていた。



「上から来るぞ!!」



兵士の一人が叫ぶ。



「気を付けろ!!こっちに来る!!」


(どうしろって!?)


「「「うわぁぁぁぁぁ!!!!」」」


バサバサバサバサッ



一斉に逃げる兵士達だが、キスメルが棒立ちの関係でその場から逃げられないジキル。



「ジキル!」



ステイシーがジキルのもとに駆けつける。


だが赤い人獅子は直ぐに後ろのスラスターを展開し、着地の体制を取った。


噴射口から凄まじい風が吹き付ける。



「ぁ?」



その勢いでキスメルが縄から手を離した為、ジキルはよろけるように助けに来たステイシーの胸に飛び込む。


そして……



ズドーン!!



勢いそのままに赤い人獅子は、キスメルが人脈の限りを使って準備したギロチン台とクレーン糞つき竹槍を踏みつけ砂ぼこりを凄まじい立てて着地した。



ドシンっ!!



「んギャ草ァ!!くさっ!!目ッ、目がァ!!目がァ!!」



キスメルが両目を抱えて苦しみ悶える。


どうやら着地した際に破壊された竹槍の糞の断片がサングラスの隙間からキスメルの目に入ってしまったようだ。



(死ぬほど痛いぞ……これは……)



一方、着地の際の風でよろけそうになったジキルをステイシーが支えて助けてくれた。


そのまま両胸に抱えられるジキル。


二人は舞い降りた人獅子の方に視線を向ける。



「随分と手の込んだ出迎えをしてくれたものだ……」


「!?」



直後二人の背後から迫り来る人物。


悶えているキスメルではない。



「お前は……」



アザの膨らみが治り始めたジキルが口を開く。


忘れもしないあの人物だ。



「ドドスコ・S・ラックマン……」



それはフォレストとの戦いで、ジキルの所属する部隊の大元だった男…ドドスコ・S・ラックマンの姿だった……。


(続く)

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