第28話 24分、覚醒です

会話など一切無く、ひたすらチャドの後ろをついて行くステイシー。


ステイシー自身、彼らに素直について来てしまった事に内心嫌な予感がしていた。



「ねぇーどこまで連れてく気なのー?」


「……なるべく人のいない場所で話がしたいだけだ」



チャドは言った。


普段なら怪し過ぎてついて行かないだろう。


チャドの表情の真剣さが伝わったのが大きいかも知れない。


だが何より本来ならまだ独房送りのハズのチャドが早々解放されたのはステイシーの上官であるキスメルの采配だ。



(ベン大尉とも話は済んでるハズだよね……きっと)



何よりステイシー自体、同じ施設出身者としてベールの件で負い目を感じていた。


その為この場は付き従ったのだ。


そうして二人がやってきたのは、人通りの殆どいない倉庫外の片隅である。


だが到着して突如チャドは変貌し、倉庫の壁側にステイシーを追いやる。



バサッ



「きゃっ!!何をする気!?」


「答えろ……何故脱出装置の件を教えなかった?知っていればべ-ルは死ななかったハズだ!」


「それは……」



ステイシーは察した。


やはりチャドはベールの件を気にしてるのだ。


機密を持って脱走故に自業自得とは言え、要はあんな仕組みがあるのを知ってたなら俺達は脱走するのを踏みとどまったと言いたいのだろう。


そもそも自力で搭乗席から出れない機体で脱走を試みた彼らの事である。


ある程度算段があったにせよ、計画そのもの半ば行き当たりばったりの部分もあるのは否めなかった。



「あの時は私も知らなかったの……」


「とぼけるな!お前は奴の恋人なんだろ!!」


「恋人?別に私は彼とそんな関係じゃ!」


「ウソをつくなファルメル!!お前がキスメルと関係あるのは皆知ってんだよっ!そんな関係でもシラをキレるのか?」


「それは……」



間違ってはいない。


だがステイシー的には恋人(仮)位の意気込みでそろそろ恋人(真)に変えても良いだろうと思っていた位の相手だった。


それを赤の他人の男に恋人と断言されるのは不愉快ではあった。


だがステイシーが反論する暇をチャドは与えない。



「テメぇのせいで……施設出の癖に俺達を裏切りやがって!!」



チャドはステイシーを殴ろうとする。



「止めとけよチャド……勿体ないだろ?」


「!?」


スッ



殴りかかった腕に手を置く第三者の存在。


そこにはロンと彼に瓜二つの兵士の姿があった。



「ロン曹長ダン曹長……外の監視をやってくれてるんじゃ?」



チャドは予定と違う彼らの行動に困惑する。


チャドはキスメルの采配で予定より早く解放された。


しかしキスメルが気にくわなかったチャドは復讐の為、彼に近い立場のステイシーから情報や秘密を仕入れる事にした。


だが人の多い場所では、他人に聞かれてそれがキスメルの耳に届く可能性が高い。


悩んでいた彼に手を差し伸べたのがロン曹長とダン曹長なのである。


二人の曹長はチャドに入れ知恵してステイシーをここまで連れてこさせたのだ。



「それってぇ君の役目だろう……」



ダンが呆れたように言う。



「第一自白させたいんでしょ?」


「そ、それは……」



やたら不穏な言い方をするダン曹長。


チャドは今になって自身が利用されている可能性があることに気付く。



「じゃあねぇ…………こうするんだよっ!」



ビアリフリィリッビッビリッ



ロンはそう言って、ステイシーの上着を引き破る。



「いやぁぁぁ!」



突然の攻撃でステイシーはかわせなかった。


破れた布を抱えるようにして直ぐにその場を離れるステイシーだが後ろは壁である。



ガッ



直ぐ様ロンとダンに取り囲まれてしまった。



「誰かぁ……助けてぇ……ベン大尉……ベンッ!」


「フフフ!言うは易しってね」


「…………」



チャドはバツが悪そうにしている。


予想外の展開。



ガサゴソガサゴソッ



「いやぁぁやめてぇ!」


「おい!これ以上は聞いてないぞ!」



二人の行動はエスカレートしてゆく。



「お前何いってんの?」


「上玉こうやって囲えたんだぜ?」


「それにこれもあるしな……」



ダンが小さい紙包みをちらつかせる。


彼らの大胆な行動は単純だった。


事が済んだ後、全ての責をチャドに押し付けてしまえば良いと。


(まず俺ことダンが軍の知り合いから裏で入手した新薬を使ってステイシーの意識はメタクソにしてしまう……)


(そしてダンと俺の息の合った二人で一人に見せかけるような戦い方でチャドを倒してしまえば良い……)


(くたばったバカチャドを気絶させてる内に、意識朦朧のこの女をロンと俺で堪能するのさ………)


(事が済んだらその場から逃げてしまえば良い………後に残るのはステイシーとチャドのみだ……短期なベンキスメルじゃ直ぐにチャドが始末されて全てジ、エンドってね………)



この異世界には監視カメラは無く、鑑定という概念もない。


それ故に二人の企てはあまりにもおぞましく下劣で醜悪な許されない犯罪計画だった。



「お前ら……っ!!」


ギシッ



全てを察したチャドは利用された怒りもあり、拳を握りしめ止めにかかろうとする。



















その時だ。



「止めろぉぉぉ!!!」


「!?」



一同が振り向く。


そこにはジキルがいた。



「ジキル伍長!!」



ステイシーが助けを求めるように叫ぶ。


ジキルは嫌な予感がした為、チャド達の後をつけていた。


すると二人は人気のない倉庫隅に入っていったのだ。


更に回りを警戒するように動く二人の人物。


ジキルは彼らも見覚えがあった。


程なくして彼らが隅に入ったのを機に飛び込んだのだ。


ジキルは現状を確認する。



(四の五言える状況じゃない。全員ぶっ倒す!)



そうして勢い良くステイシーを襲おうとしたロンに飛び掛かる。



ババババッ



「てめぇ!」



ドン!



「ぐッ!」



だが真横から来て立ちはだかったチャドに腹パンされるジキル。


更に頬を殴られそのまま地面へと落ちて行く。



「ジキル伍長、そんなぁ……」



ステイシーが叫ぶ。


チャドに殴られ倒れる直前に意識が消えかかるジキル。



(せめて一人位……相討ちにしたかったな……)










-そんな弱い目立てで良いのか?今本気でしなきゃ昨日と同じ明日しか来ないだけだぞ-


(何だ?)



突然湧いた内なる何かが声をかけてくる。



-見ろよあっちを…このまま何もしねぇって事は、何でもアリって事を認めてしまうようなモノだ-



ソレに促され視点を動かすジキル。


ダンがステイシーを取り押さえ、ロンが次々ステイシーの衣類を引き剥がして行く。



ビリッビリッビリリッ



(彼女を助けなきゃ……)


-ダンとロンを倒したいか?ー


(……はい)



ジキルはその声の問いかけに素直に答える。



-なら俺に27分程身体をかせー


(はい……)



問いかけを承諾した次の瞬間だ。






プシュッゥゥゥ!!







「死ぬ気でやれよ……」


「!?」



再び二人をステイシーから引き剥がそうとしていたチャドが違和感に気付く。


すると倒れかかっていたジキルが物凄い勢いで体勢を持ち直していた。



「じゃねぇと死なねぇからよぉぉぉぉ!!」


「!?」


バァァァァンッ



咄嗟に殴り返そうとするチャド。



「おせえよ!」


ズドンッ


「がっ!」



だがジキルはそれをかわしてカウンターの如く顔面にアッパーを下す。


骨の砕ける音と共にドサッと音を立て、チャドは倒れる。



バッ



凄まじい音を立てた事で、前半戦を始めようとしていた二人の身体が思わず動きを止めてしまう。



「このっ!」



バァンッシュ



「あびぎゃんっ!!」



その隙にステイシーが前にいたロンの股間を蹴り飛ばす。


更に後ろのダンを肘と足で蹴飛ばし組みつきをほどこうとした。



ズゴッ


「いしょじん!!」



ジキルはステイシーの蹴りでよろけたロンの首筋を狙い蹴り飛ばした。



バンッ


「がッ!?」



回し蹴りの様な形で倉庫の壁に顔面がそのまま叩きつけられるロン。


元々ステイシーに熱中していたらしく、マトモに食らってしまう。



「ロン!」



ダンがロンの名前を呼ぶ。


だがロンの顔面がぶつけられた壁には鼻血がベッタリついている。



シュッ


「きゃっ!?」



組み付きがほどけそうになった直前にステイシーを地面に突き放し、ジキルを倒すのに加勢しようとするダン。



バシュッ


「すりきりっ!」



しかしジキルはそれを左足を引っ掛けてつまづかせる。


更にダンが倒れたスキをついて、ダメージから回復しようとしているロンを壁にタックルで叩きつける。



バァアンッ


「んがッ!」


「下にご熱心過ぎて上がいつも以上にがら空きだな三下ァ!」



そう言ってジキルはロンを力強く殴る。



バンッ


「がはっ!」



喉を潰した後腹パンを決めたジキル。



「まずは二匹ィ!!」


「おまぇ!」


「じっ、ジキル伍長!」



ピラーンッ



ステイシーがとっさに声をかける。


ダンがナイフを持ってジキルに迫ったのだ。



「手持ちかよ……やりがいあるなぁ!!」



シュッ



ジキルは首筋目掛けて来たナイフの切撃を紙一重でかわす。



シュサッ



が、首筋狙った攻撃はジキルの頬を掠めた。



「へっ……」



掠めた頬から血が溢れるジキル。



「やっぱ狩りはこうじゃなくちゃなぁ!!その謙虚さを俺に凝縮してみろよ三下ァ!!」


「ジキル……?」



ステイシーは驚いている。


ジキルのあまりの変貌っぷりにだ。



「返しだ!テメェにはチップ投げてやるよ!」


ドゴッ


「がはっ!」



ジキルは直ぐ様ダンの顔を殴る。


よろけた彼の後ろに直ぐ様回ると、背中の脊椎目掛けて足で蹴り飛ばす。



「ヘルニアッ!」


バンッ


「がはっ!!」



更にもう一撃加え、地面にダンを叩きつけた。



バシッバシッバシッバシッバシッ


「マッチ!マッチ!竜にィ!マッチィィィ!」


バシッバシッバシッ



彼が動かなくなるまで、背骨をひたすら踏みつけるジキル。



ゴキッゴキッ



と時折乾いた音が意識を取り戻し始めたチャドの耳に入る。



「卑怯な……やっ……めろ……」



その様子をチャドが静止する。



「はぁ?先はお前らだろ」



ジキルはそう言って、止めるとチャドに近づく。



「素人喧嘩面すんなよ……俺らは人生(ワンライフ)で何匹キルレ出来るかの軍事消耗品(アーミーツール)だろうがっ!!」



そうチャドに言い放つ。


と次の瞬間……



「オラッ!」


バンッ


「ごはっ!」



彼の睾丸目掛けて凄まじい蹴りを入れ、チャドを気絶させてしまった。



「三匹か……エース認定には二匹狩り足りないな……」



そして戦い終えジキルは回りを見渡す。



「ジキル……伍長……」



ほぼ生まれた時の姿に近いステイシーがジキルの様子を見てそう口を溢す。


他三人は気絶済みだ。


ステイシーにジキルは近づく。


そして彼女に手を差しのべようとする。



「ジキル……」



ステイシーはふと手を取ろうとする。


だが次の瞬間だ。



「キスメルの残り香がするな……」


「え……それってどういう?」



唐突に放ったジキルの一言を理解できないステイシー。


だがジキルは直ぐ様そんな彼女を壁に押し付けるように抱きしめ強引に唇を奪う。



バンッ



「んっ!!んぅっ!!んぅっあ!?」



唐突な接吻に苦しむステイシー。


彼女の豊満な両胸もその勢いのまま、ジキルの硬い身体に押し潰される。


一旦唇を離すジキル。


ステイシーの口から唾液の糸が引き、頬けた顔の口元からは、引いた糸をそのまま受け入れるかのように唾液が流れている。



「ジキルぅ……いっ、いまわぁ………」


「ジキルじゃない……俺はHiDeN(ハイドン)だ……」



あまりに真剣な表情のジキルに彼女は恥ずかしくなり下を向いてしまう。


その時目に入った自身の谷間の先がいつも以上に盛り上がっている事に気付く。



「やっ、やめっ……」


「受容しろ!ステイシー!」



バッバッ



ジキルはそう言って再び唇を奪う。


そのままジキルは勝利の果実に食らいつき始める。


ステイシー自身の昂りを示す受肉は正にジキルの中のHiDeNなる謎の存在に馴染むステイシーそのものと共に乱暴なまでに貪られてゆく。


こうして昼休憩残り1440秒という時の針が時を刻むのを許す限り、二人は戯れ続けたのだった……。


(続く)

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