第26話 内なる高鳴り
昼休みを終え、遂に人獅子の操縦席へ乗り込むこととなったジキル。
ジキルらパイロット候補生達は格納庫へと連れてこられた。
「よっこらセッぇkス!!」
ジキルは整備兵に連れられ機体に乗り込む。
シートの座り心地は悪くないらしい。
シートの質感も既にこの世界の兵器とは言い難い乗り心地を重視してそうな快感があった。
「んじゃハッチ閉めますよ」
「待て、自分でやる」
「パイロット側ではハッチ開閉無理なんです」
「はっ!?ちっ!締めっ!?」
バシャンッ
驚くジキルを余所に整備兵は容赦なくハッチを閉めた。
(なんだと!?ゴミ箱の蓋かよっ!)
光が差し込まないコックピット内は一瞬真っ暗になる。
(ヴぅ!)
この時、ジキルは軽い頭痛を起こした。
パァァアフィヤァァァァパラァァァァ
直ぐ様コックピットに明かり……ないし光が差し込む。
だがそれはライトでは無く全天周モニターの画面光だった。
(モニター……しかもカラーで写っているだと!!)
『おぉ~』
『すげぇなこれ!!』
「こっ、声が!?」
驚く事に、コックピット内からは他のパイロット達の声も聞こえている。
「驚くのは分かるがお前らの声は外に筒抜けになっている!」
真下にいるキスメルがメガホンを片手に俺達に叫んで伝えた。
そのため人獅子コックピット内の声は全て筒抜けらしい。
(迂闊に陰口叩けないな……)
ジキルは心の中でそう呟く。
キスメルの横では先ほど出会ったステイシーが何やら記帳を行っている。
彼女はキスメルの補佐役的立場なようだ。
その後、キスメル指導の下で人獅子の操作訓練が始まった。
「人獅子の操作はコックピット内にお前ら搭乗者の思考を読み取る仕組みが組み込まれてる!普段自分が歩くようなイメージでまずは格納庫から出てみろ!」
「なんだと!?」
ウィィィィンガッシャンッ
ガッシャッンアフィィィンッ
ジキルは再び驚愕する。
他の候補生達も驚いている。
「仕組みはどうなってる??」
ジキルは当然の疑問を投げ掛けた。
するとキスメルはこう答える。
「魔法は使っていない、が知ろうとするのは軍規違反だ。銃殺に処されたくなかったら黙って指示に従うのだな!」
ごくりっ
知ろうとはしてはいけない未知の領域であることがその場にいた候補生全員に伝わる。
さすがに煮え切らないのは申し訳ないと思ったのかキスメルはこう付け加える。
「実は私も良く分からん!人獅子が実用化されたのも僅か1ヶ月前だ!」
(僅か1ヶ月前って…しかもそれがすぐ基地配備とかどうなってるんだこの世界は……)
ジキル自体思うところは多かった。
ただ実際それくらいのスパンで実装されてなければ、フォレストとの戦争の時に投入されなかった理由がない。
他にも謎は多かったものの、ジキルはとりあえず指示通り機体を動かした。
(凄い……)
実際人獅子はまるで自分の手足の様に動くのだった。
格納庫からジキル機含めた6機の人獅子が基地外の敷地に飛び出す。
「うぇぇぇぇええええい!!!」
バンバンバンバンッ
パイロット候補生の一人が狂ったように、人獅子で外を走り回る。
自分の意のままに動かせる巨大人形兵器である。
無理もない反応だった。
しかし……
「たーのしー!!」
ガシガシガシガシガシッ
もう一機の人獅子がつられるように敷地を走り回った。
すると二機の激しい動きで、草地はおろか舗装滑走路なども傷や土などが盛り返す形で乱れていき、走り回った周辺はボロボロになる。
(うわぁ……)
思わずジキルも騒然としてしまう。
急造機体だったのだろう。
基地の方も運用の想定見積もりが甘かった、若しくはまだそこまで手が回っていなかったのだ。
ステイシーは困惑し、キスメルはカンカンである。
「こら!!一旦動くのを止めろ!」
「大尉の指示を聞いてー!二人共ー!」
二人の指示などガン無視で動き回る二機。
すると走り回っていた一機がキスメル達の方に姿を翻す。
「こんなすげぇ機体を俺らにくれるなんて嬉しいぜキスメル大尉!」
パイロットは叫ぶ。
「なら動きを止めろ!」
「だが止まらねぇがな!!」
「!?」
ズドドドドンッ
パイロットは叫ぶと、一気に走ってキスメル達に突撃してきた。
「俺の名はチャド・G・イノセントルーク!!正直軍が退屈だったんだよ!これを機に外に出るぜ俺は!!」
何とチャドなるパイロット候補生は脱走を考えていたのだ。
「きゃあぁ!!」
「チャド…」
ズゴゴゴゴゴゴッ
迫るチャドの人獅子。
二人に近づいた機体は腕を振り上げそのまま二人を潰そうとした。
ガシャッ!
「なっ!?」
チャド機は即座に正面に現れた機体に行く手を阻まれた上に、振り上げた腕を受け止められる。
「てめぇ!」
「悪いが上への好感度を稼がせて貰う!」
チャドを制止したのはジキルだった。
普段の彼なら動けなかった可能性が高い。
彼自身、止められた喜びの一方で内心戸惑っていた。
(何故だ?何故動けた?アイツら同様未知の巨大兵器に乗った事でタカが外れたのか?だが何だ?この高揚感は?別の何かに染まるような…だけど心地よい…女を抱いても早々得られそうにないこの高ぶりは!)
ドックンッ
ドックンッ
一方組み合いになって動きが止まったチャド機にステイシーが説得を試みる。
「軍を出るなら他に幾らでも方法だって!」
「うるせぇクソアマ!コイツらは色々詭弁を垂れながら辞める素振りを見せりゃ俺らを死地に送るじゃねぇかよ!」
「そんなこと絶対無いよー!!」
「嘘をつくな!施設上がりで今まで一線を退けたのは定年の連中だけだ!俺は待てねぇ!やりたいことがあるんだよ!」
「そ、それは……」
ステイシーは言葉に詰まる。
おそらく上手く返せる言葉が見つからないのだろう。
(そうか……だからアイツも……)
ジキルの脳裏にフォレストでの記憶が甦る。
チャドの一言で、ジキルも少し戸惑ってしまう。
だがそれで組み合いが少し緩み、ジキルの機体は体勢を崩してしまう。
「しまった!?」
「へっ!!」
チャド機はそのまま場を離れようとする。
ガチャッ
が彼の機体は直ぐ様、先程まで動くのに戸惑っていた他の三機の機体に羽交い締めにされた。
「離せコラ!!」
(三機相手に勝てるわけ無いだろ……)
ジキルは必死に抵抗するチャドの姿を見てそう思った。
だが……
「ベール!行け!」
チャドが叫ぶ。
「すまねぇチャド!恩は一生忘れねぇ!」
ズダダダダダダッ
何ともう一機の走り回っていた機体はいつの間にか基地敷地外の近くまで移動していたのだ。
(コイツ!?まさか撹乱する気で!!)
ジキルは今気付く。チャドがわざわざすぐ逃げなかったのは、別の一機を逃がすためだったのだ。
更に敷地を異常なまでに荒らしたのも、半ば通常の部隊の追撃を阻ませるためだ。
全て念入りな計画だった。
更にチャドは仲間を逃がすため始めから捨て身だった。
「待って!ベール伍長!」
ステイシーが止めようとする。
しかし既に距離は遠かった。
ジキル始め、他の3機も今からでは間に合わない。
万事休す……かに思えた時だった。
バシュッ!!
「えっ!?」
ベールは間に浮かれた様な声をあげる。
彼の機体のコックピットハッチが急遽開き、シートごと彼は上空に打ち上げられたのだ。
その光景にジキル達も騒然としてしまう。だがジキルは一瞬この時真後ろにいたステイシーとキスメルに目をやった。
するとキスメルは何やらリモコンのようなモノを持っており、そのボタンを押していたのだ。
シートは暫く上昇すると、直ぐ様重力に引かれて地上へと落下する。
折り返し寸前にベールの身体は反転し、彼は頭の方から地上へ突っ込んで行く。
「ベール!!」
真っ先に我に返ったチャドが叫んだが既に時遅く…
グチャッ!
直後、壁にぶち投げて打ちつけられたトマトの如く滑走路に血だまりが染み込むように拡がっていた……。
(続く)
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