≪第一部≫モテナ王国編
第25話 もう二度と名字名乗れないねぇ!!
ジキルは目の前で地響き立てて動く巨大ロボットの存在が信じられなかった。
(なんだコイツ!?明らかに時系列おかしいだろ!!)
巨大ロボットなんてジキルのかの記憶にも実在したことがない架空の兵器だ。
しかもフォレストの戦争に参加していた時は、空を飛行船や複葉機が飛んで情報伝達には鳩が使われることがある位の文明水準である。
時代錯誤が酷いというレベルではない。
しかも外観は基地の景観と不釣り合いなレベルに近未来的だ。
タイムスリップした未来人が置いてきたと言って良い位である。
「あれが人獅子(レゴロイド)……」
「はい。午後から早速乗って貰いますよ~」
「早くないか?座学とかは?」
「ここに来る前に血液採ったでしょう?アレ以外いらんそうです。自転車漕ぐより楽らしいですよ」
「仕組みはどうなってるんだ?」
「軍事機密です。僕らもマニュアル以上の事は知りません」
「はえ~」
実はゴーレムなんじゃないのか?とも思ったが、魔法を殆ど使えないベーシックが使用するのかという疑問が残るジキル。
(まぁいいや。異世界なんだし…)
ジキルは考えるのを止めた。
そして午前中の基地案内は適当にやり過ごした。
暫くして休憩時間になり、ジキルは他のパイロット達も集まる食堂へ向かう。
(案内の時に声かけとくべきだったかなぁ…)
基地案内の時に既に何人か一緒に案内を受けていた候補生が居たのだが、全員男の為無視してしまっていたジキル。
(まぁ良いか……)
そうして食堂入り口に入ろうとすると
ドっ!?
「なっ!?」
ジキルは足を引っ掛けられて体制を崩しそうになる。
ガッ
「っ!!てめぇ!!」
足を引っ掛けた主犯はぶちギレている。
咄嗟にジキルは軍靴で足筋を蹴飛ばしていたからだ。
「わざとだからそうなる」
「新入りは俺にイビられるのが仕事なんだよ!!」
「ねぇねぇロウその辺に……」
ロウなる主犯を宥める付き人のような男。
ただ二人を見てジキルは驚愕する。
(コイツら顔が瓜二つじゃないか……)
だが推測がそれ以上続く事はなく、ジキルとロウは取っ組み合いになる。
取っ組み合いながら両者ともに繰り出される殴る蹴るという純粋な暴力。
バカスカアフィアフィボッコンバッカンッ
(くっ!痛みが…だが何故か気持ち良い感覚が……まるで何かを駆り立てるような…何故!)
ジキルはその中で少しばかり自己の感覚に違和感を感じる。
「やめてよ二人ともー!!ここは食堂だよー!」
食堂で休憩していた若い女性兵士が二人に注意する。
(!?)
ジキルはその方向を見る。
ニコル同様制服が自己流に改造されていた為、一際目立っている。
彼女程ではないが可愛らしい容姿で、胸がでかかった。
「そこまでだ、お前ら」
突如誰かがジキルとロンの間に割って入ってきた。
両名共に反射的に腕を止める。
士官軍服に大尉の階級章が真っ先に二人の目に入ったからだ。
「あんたは?」
ジキルがぶっきらぼうに喧嘩を止めた士官の若い男性に名前を聞く。
「ベン・キスメル大尉だ。お前ら人獅子パイロット達の責任監督役と言っておけば良いかな?」
「フンッ!」
ロンはキスメルの姿を見るなりすぐに自身と瓜二つの容姿の者と共に、食堂を去っていった。
そして視点をロンにやっていた内にジキルは気付く。
いつの間にかキスメルもいなくなっていた。
「君、大丈夫だったー?怪我とかはない?」
すると今度ジキルの元に、キスメルが来る前に喧嘩を止めようとしていた女性兵士が駆けつける。
「心配してくれるのか?」
「そりゃ勿論。ロンの新人いじめは毎回酷いもん…やり返したくなっちゃうのも理解出来るかなっーって」
女性兵士は気さくに対応してくれた。
「君、名前は?」
「ステイシーよ。ステイシー・C・ファルメル」
(施設出身者か……)
ジキルはミドルネームで察する。
施設出場者は名前の真ん中にアルファベットが割り当てられているためである。
勿論全員ではないし、真ん中にアルファベット付きでも一般人だったりするため宛にはならない指標だ。
「ありがとうステイシー。それにしても君はミドルネームを隠さないんだな」
「え、何で?」
「そりゃあまぁ……」
実は施設出身者は女性に限り例外が適用される。
ジキルの祖国やベーシックの国では女性の社会参加に関する活動が活発化していた。
そんな中でどこで彼女達は仕入れたか不明だが軍人の女性でS~Jのミドルネームを持つ者はだいたいが施設出身者の等級であると言うことを知り、そうした等級付けが差別だとして、女性施設出身者のミドルネーム廃止を訴えたのである。
軍はこれに対し、施設出身者の等級に準じたミドルネームは廃止しないが、施設出身者の女性でミドルネームに不快感を持つ者は名乗らなくて良いという対応をした。
その結果、施設出身者はおろか大体の女性兵士はミドルネームを名乗らなくなったそうである。
一方、古株の出身者であるドドスコ・S・ラックマンがフォレスト戦争で戦績を挙げ、多くの褒章を得た後、施設出身者としての矜持を示した出版物を社会に出した際の事だ。
今度は逆に軍は女性に褒章を与えたくないからミドルネームを名乗らせないように強いているという噂が女性活動家の間で出始めた。
これは同じく施設出身者でフォレスト戦争に参加したマルティナ・ヴェルズが戦後に冷遇された後、辺境に左遷された為である。
マルティナのミドルネームもドドスコと同じSだったのだが、大戦参加時には軍のミドルネーム選択が自由化されていた為名乗るのを止めていたのだ。
尚、施設が自由選択無しに成長した子どもを軍人化していることには特に誰も触れていない。
(長ぇよ!)
何故か発したジキルの心の声。
話戻ってステイシーは何故ミドルネームそのままなのか?
答えは簡単だった。
「だってめんどくさいじゃん」
ステイシーはあっけらかんにそう答えた。
「そうだな」
ジキルもそう答え、今度は自身の名前を名乗る。
「俺はジキル、ジキル・J・ランスロットだ」
「えぇ!?ジキルさんこそホントにその名前で大丈夫なの!?」
ステイシーはかなり驚いている。
「どういう意味だ?特にランスロットは格好いいぞ。自分で言うのもアレだが俺は自分の名前を愛している」
ジキルは理由が分からないので尋ねた。
「そのランスロットって名字なんだけど…」
ステイシーが複雑な表情をして語る。
「モテナ王国の言葉で便器にこびりついた排泄物(ブリブリウンチ)って言うんだよね……」
「…………」
ジキルはこの時学んだ。
ここは異世界で必ずしもランスロットが円卓騎士(ランスロット)を指すとは限らないのだと……。
(続く)
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