第24話 新転生

「悪いがここから先は歩け……門限には間に合うだろ」


俺は二コルを基地までではなく、歩けるくらいの近場で降ろす。



「先輩は?」



二コルが尋ねてきた。


「寄り忘れた所があるんでね。只の私用だ」


「分かりました。今日は一日色々有難うございます」



そう言って彼女も納得したらしく俺たちは別れた。














用事を思い出したと言って訪れたのはギルドハウスだ。


店じまいなんて概念は無いらしくまだ空いてるらしい。



ガラガラガラ


「ようこそ、って貴方はこの前の!」



受付嬢が俺に気付く。


だが今は彼女に用が有るわけでは無い。


今日のギルドハウスは前回訪れた時と様子が違った。



(冒険家ジーク・・・)



なんとそこには冒険家ジークとその一行が来ていたのだ。


突然の場違いな珍客(オレ)の来訪もあり、有名人な彼ら一行も俺の方も振り向く。


あのプライドチキンことカミュと彼の連れであるアマンダの姿もある。


だがそれ以上に



(ジークの眼光・・・なんて迫力だ・・・)



改めて対峙してビビる俺。


冒険家は宙ぶらりんな存在が多いという中で、彼は段違いなオーラと雰囲気を醸し出している。


やはり有名人故のモノと言うべきだろうか……


これが初邂逅・・・・





































ってなるわけが無いんだよなぁぁぁぁwwwww


そもそも別にこいつらに会いに来たわけでは無い。


俺はそんな視線全てガン無視して、入り口真横の郵便物仕分け口の小さい掲示板に向かう。


そしてポケットからくしゃくしゃにした紙を広げてそこに取り付けた。



(借りたものは返すんだよね・・・)



勢いで取ってきた文通相手募集の紙を再び取り付ける俺。


一応謝罪も兼ねて、この文通相手に嘘情報を満載にした手紙を作ったので去り際に仕分けポストに入れておいた。



「おい待て!」



そんな俺をカミュが呼び止める。



「何のつもりだ?」



彼は俺にそう尋ねる。


俺は察した。


文通募集相手はコイツなのだろうと。


だが今はその事実を煽る気は一切ない。


以前の俺なら煽っただろう。


だが決めたのだ。


俺は誰かを守れる人間にこの異世界でなってみようと…


冒険家連中はこの世界での捉えられ方はいわば外れ者みたいなモノだが、俺のような転生した人間の価値観で言えば一種の勇者みたいなカテゴリーだろう。


実際冒険家ジークの扱いは俺の知る限り勇者の様な存在に近い。


ジーク本人じゃないにしても、文通相手もそんな世界にいる奴等の端くれだ。


どういう生き様が見れるか、そして俺という人間がどう見られていくのかをある程度図れるかも知れない。


分かることが出来れば、俺が目指す目的に近付く第一歩だ。


返事が来ないなら来ないでそれでいい。


それならまた別の形で地道に頑張れば良い。



「還ってくるのを期待しているからな・・・」


「はぁ?」


「それと……前殴ったのすまなかった……」



俺はそう言い残しその場を去ろうとする。











「あ・・・あのっ!!」



カミュとは違う可愛いか細い声が俺を呼び留める。


俺は降り向いた。



(金髪碧眼色白美乳美尻美脚・・・・古刀の彫刻文字にそう掘って遺跡にぶん投げたくなるな。その位ガチガチの異世界美少女か・・・)



俺は彼女を知っている。


冒険家ジークの仲間で以前彼と役人タガメの立ち入り調査の護衛を行った際に、タガメの事を治療し律儀に去って行ったローブの少女だ。


ついでに声かけようとしてミスった相手でもある。


最も俺のナンパ失敗相手でもある。


再び声をかけることはないだろう。


何故なら彼女は既に今日二コルと見た映画でジークに告白した三人のうちの一人である。


しかも役者がやっていたとは言え濡れ場付き。



(本物は若干役者より小柄か・・・発育は・・・ふむ悪くない。だがこんな子に手を出すとはやはり冒険家は・・・っていかんいかん!!)


「あっ、あの・・・・・」


「何だ?」



俺は取り直して彼女に尋ねる。



「以前キジョウさんと一緒にいた護衛の人ですよね?」


「!?」



びっくりである。


僅か一瞬レベルの相対しかしてないのに俺の事を覚えているとは。


やはりこれも冒険家ジークの仲間だからって事か・・・



「そうだが……只の兵隊だ。明日転属も決まった所だし、知り合いの頼みもあったんでこの素窟の見納めに来ただけの話」



俺は答える。


ありがとう位言ったらまた違うんだろうが、平静繕うので精いっぱいで頭回りませんでした!!



「お名前、聞いてもよろしいでしょうか?」


「名前・・・・」



意外だ……。


ほぼ接点のない俺の名前を聞いてくるとは。


まぁわざわざ昔の事を覚えているくらいだし、ある程度情報を正確に纏めときたいタイプなのだろう。


とあるエレガントな組織のトップは自身の組織の一兵卒の下の名前まで全て覚えていたくらいだし。


現実は毒ガスを平然と使う非道野郎だったが……。


だが彼女は違う。


あの非道野郎と違う……創作のエレガントなトップのような……そういうタイプだと思いたい。


少なくともそう抱くのが間違っているのだろうか?


まぁ一番は映画になるくらいの男であるジークの仲間って事だろう。



(この国に戻ることも二度とないだろう。折角こんな子が俺の名前を聞いてくださっているのだ。答えない理由などない!!)


「ジキル・・・」



俺は彼女の瞳を見て答える。


その澄んだ瞳に吸い取られそうな気持ちになる。


だがそれは見てきた世界の苛烈さの末に得た美しさなのかも知れない。



「俺の名前はジキル・J・ランスロットだ」












ーそうですよジキルさん……貴方の世界はこれから始まるんですー












-それから2日後-















モテナ王国、ダマサイ基地。



「ジキル・J・ランスロット伍長!只今着任しました!」



ジキルはモテナ王国にあるダマサイ駐留基地に到着した。


当然パイロット候補生としてである。


ニコルはモテナ王国の別の基地に配属されたようだ。



(もう少し…優しくしてやるべきだったか…)



ジキルは軽く後悔していた。


最も好きでもない男が気を使い過ぎるのは女にとって最高のストレスであるとジキルは考えていた。



(後、やっぱり一回くらい抱きたかったモノだ……)



まがりなりともジキルがそう思ったのはニコルが美人だったからに他ならない。


未練と言った方が良いだろう。


彼は記憶喪失と一風変わった世界の記憶が混在する以外は至って普通のベーシックにすぎない。


また祖国に存在する「施設」の出身者である。


そこは祖国や同盟国及び属国内で親が育てられなくなった子どもや孤児を積極的に引き取り、徹底した英才教育を施した上で兵隊として送り出すというトンデモ組織だった。


ミドルネームの様に見える『J』は施設出身者の等級である。


最高位のSとそれに次ぐA~Jまで存在し、彼は最低の等級にあたるJに分類された。


最も最弱クラスの等級Jに分類されたのが幸いし、施設出身者としては珍しく直ぐに前線部隊に回されなかったらしい。


まぁ一番はジキルが兵隊になって直ぐの頃は戦争も無かった事だろう。


だが結局戦争は起こった。


それも彼が中途半端に記憶喪失を起こした時にである。


なし崩しに彼は前線に回された。


だが目立った戦績はなく、得られたのは仲間の死と幼い命を理不尽に奪うという自らの心に残った深い罪のみ。


しかしそんな状況下で皮肉にも彼を支えたものがあった。


それこそ記憶喪失を起こした際に、異物混入の如く入り込んだ一風変わった世界の記憶と、その世界を生きてきたという自身の自我であった。


ただし一風変わった世界の記憶でのジキルは強い容姿コンプレックス・障害者差別・女性差別・同性愛差別・選民主義者・短小・チビ・デブ・ハゲ・メガネの男だったらしい。


そういう認識があるくせに彼は自身の転生前の顔を思い出せなかった。


しかし彼自身は今の姿はその世界の記憶の自分自身と比べると格別に良くなっていることに気付いてはいたが、イマイチ実感を持てなかったようだ。


ただそうした迷いもふと買い物に同行した際のニコルとのやり取りで改めざる得なくなる。


彼は宙ぶらりんだった心境の中で、誰かを守る人間になることを決めたからだ。


とは言え、やはり心は時折迷うらしい。



(やはりブス時代の心根はそうそう変わらないと言うことか…だが裏を返せば容姿が良かろうと心を病んで命を失う人間も珍しい話ではないということが今ならハッキリ分かる!!)



移動中にジキルは呟く。


転生前のブス時代はひたすらイケメンに対する嫉妬憎悪を募らせたと思っているジキル。


だがいざ転生しそこまで悪くない顔に変わっても、結局性根が腐ってるとあんまり関係ないという事実を彼は己を以て知ったのである。


ブスもイケメンも差異がない。


イケメンだろうとモテず苦しみ、ブスにも善人はいるが善人の個人を名指しでもしてやらん限り、匿名な持て囃し賛辞は集り屑が集まるだけという万物普遍の真理を彼は得たのだ。



(だが一番の収穫はランスロットって名字だ。正直この名字は最高に格好いい。何かあった時にマウントをとるには最適だ!)



彼は何気に自身の名前を気に入っていた。


そして心が卑屈になった時はこの割かし格好良い名字で全て誤魔化そうと思ったのだ……。














「此方です」



案内の兵士に連れられやってきた基地外の広大な敷地の様子を見てジキルは驚愕する。




ズドン!!ズドン!!ズドドドン!!



「これは……?」 



目の前には巨大な二足歩行のロボット達が隊列を組んで躍動していたのだった……。


(続く)

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