第21話 自棄っぱちにアルコール

夕方に俺と軍曹は町へ出た。


町を出て、直ぐ降りた場所で見たことある女性の姿を目撃する。



(あれは……)



彼女が反対側の歩道に居たこともあり、俺は結局声を掛けなかった。


同一の歩道に居ても正直声は掛けなかっただろうが。


一瞬女性の方が俺や軍曹を見たかも知れない。


でも所詮それは俺はお前が俺の事を見たのを見たぞレベルの錯覚だろう……。















店まで歩く道中で俺は街並みを眺める。


軍曹は此方が話掛けない限り、しゃべる気配はない。


フォレストから戻ってきた時と変わらぬ街並み…と言いたい所だが、ボブカットの野心男が荒らした土地には新しい集合住居らしきモノが建ったり建設が進んでいた。


割かし建築速度は早いのかも知れない。



「この辺りの土地はそんなに安くない気がしますが…」


「住みたい奴は引く手数多だ。困らんだろう」


「それにしては安っぽい気がします」


「フォレストから出稼ぎに来る連中向けの住居だ。家賃も奴らが住める位の値段に抑えてるらしい」


「赤になりません?」


「国…というか街自体が土地を持ってる。公共事業だからな。それに労働力は企業の糧になる。諸々含めて奴等にとっては黒だろうな」


「錬金術ですね」



そんな俺と軍曹が話をしているとそこをかけっこをする獣人の子ども二人が横切る。



「ズルいぞ!次は君が鬼だろ!」


「嫌よ!悔しかったらあたしを捕まえてみなさい!」


「このぉぉ!待てぇぇ!」


俺はぶつかりそうになったが何とかかわす。



「あっ、あぶねぇ…」



無垢な子どもと言っても、相手は獣人。


駆けっこのスピードも自転車かっ飛ばすレベルの勢いだった。


ぶつかれば最早交通事故だ。


そんな二人の子どもだが、勢いそのまま集合住宅の方へ入っていった。


俺は立ち止まり、周りを見渡す。


歩道も整備が進んでいるらしい。皮肉にもボブカット男が荒らす前より綺麗になってるかも知れない。


道横には若い苗木だけでなく、長い花壇もいつか併設されているようだ。


ただ植え始めて間もないらしく黒い土しか見えていない。



「まだ芽もついてないみたいだな」


「…思い通りに咲くモンなんですかね…」


「どういう意味だ?」


「いえ…俺、花の育成苦手なんでつい…」



俺はそう答えた後、夕日が沈む姿を背景に建設途中にある建物を眺めるのだった…。
























そしていつもの飯屋に到着した俺と軍曹。


「何故パイロットになろうと思った?」


軍曹が俺に尋ねてくる。


「単に異国の女を抱きたくなったからですよ」


俺は答える。


「洒落たつもりか?」


「本音です。それにパイロットになれば自動で階級も上がります。この我が儘は若さが許してくれました。」


「フンッ!」


軍曹は酒を一口飲む。


「ところで、あの階級章は…」


俺は没収された階級章について尋ねる。


「自分のをつければいいハズだろ?」


「それは…」


自分のと付け替える形で持っていったとは言いずらい。


一応階級章をつけていない理由に関しては、上にトイレで服を脱いでる途中で落としてしまったと報告し始末書を書いて新品の支給の申請をしていた。


この基地にいる分には問題ないが、異国に異動が決まった以上つけとく必要がある。手間だがその辺りは自業自得だし。


「アレは欲しい奴に渡した」


「横流しですか?」


「あの壊れ具合じゃマニア以外ならガラクタにしか見えん。忘れろ」


ぶっきらぼうに軍曹は言うと、そのまま話を区切ってしまう。


誘われておきながらお互いにロクに会話がない。ただ黙々酒を飲んでいる。

















「ぷはぁぁぁぁ!!!!」


ふと俺と軍曹の座るカウンター横で飲んでいた先客が音を上げている。


「お客さん。そろそろ止めた方が…」


店主が心配して気遣う。だが先客の顔は酔いつぶれながらも、この世の全て憎いみたいな物凄い殺意に満ちている。



「うるぜぇ!飲まなぎゃやってだれないんだぎょ!!!!」



ギョギョッ?とそんなバナナ?


如何にもテンプレな酔い方をしている。



「どうしたオッサン!女房にも逃げられたか?ギャハハハ!!」



テンプレ一兵卒らしい煽りで俺は酔ったオッサンを挑発する。


放っておくと店主に八つ当たりする可能性高いから仕方ないね。



「うるせぇ!俺は生まれてこのかた風俗以外で女を抱いたことはねぇ!」



タイムトラベルしてきた俺かな?


えらくそこは流暢にお答えしておられる。



「独り身なら尚更ァ!」


「仕事を無ぐじだんだぎょ!俺ばぁ!」



相手は失業者だった。



「契約ば更新ざれげぇ!もどもど安がッだが更に安いやづら使えるがだッテッサぁ!!」


「正規ならあるだろ?」


「おでだの歳でどうじろど?なでだら若いごろがらできちょるぅ!!学は無ぇ!スキル積む金ねぇ!かぞぐもいねぇ!なででも生活出来る金もだえねぇ!」


(最早どうにもならんか…)



そう思った時だ。


黙々他人事の様に酒飲んでた軍曹がグラスを置いて立ち上がる。


そして気持ちが高ぶる失業者に一枚の名刺を渡した。



「そいつの所いきゃどんな奴でも雇ってくれる。衣食住全てついてな…」


「あ…ぁぁ…」



失業者は神に助けられたかの如くその名刺の詳細すら聞かずに、軍曹に何回もお辞儀をした後その場を走り去って行った。



「あのお客さんそう言えばお代が…」


「俺につけといてくれ」



気前良く軍曹は男のツケを支払うと言う。



「いいんですか?」


「誉められる様な事をした訳じゃない。せめてもの償いだ」


「一体何の名刺を渡したんです?」


「知り合いの警備会社だ…」


「尚更あの失業者を雇うんですか?身体は明らかにボロボロです。昨日今日のモンじゃない」


「達磨でもデコイになれば使い潰す所なんだよ。そこは…」


「!?」


「フォレストからは軍を退かせつつあるが、やはり完全な治安回復に至った状況じゃない。そういう穴埋めで人を使ってる場所だ…」


「……」



紹介されたのは精鋭集めるというより人埋め重視の所らしい。意志疎通出来ればOKというのは相当な場所としか言えないが。


「幻滅したか?」


「彼ならしたかもしれませんね…」



俺は言った。軍曹もそうかもなと相槌うった後、語り始める。



「昔血気盛んな若いバカがいてよ…軍に入ったのも飲み屋の踊子に良いとこ見せたいって惚けた理由だった…」


「……」


「色々無茶をした。結果も出たからな。その子との関係も上手くいった。」


「順調ですね…」


「踊子辞めちゃったんだがな。その子は」


「何故?」


「俺が孕ませた…」


「\(^o^)/」



やりますねぇ!と盛大に言いたいが明らかに流れがヤバイヤバイ。



「で…その人とお子さんは?」


「俺と違ってお前らの真っ当な指導をしてやれただろうよ。生まれていればな…」



無情な現実だ。


もうすぐ退役が近い軍曹が入りたての頃は三種族間戦争真っ只中である。


可能性としてはあり得なくなかった。



「いない人間の事を引きずり盾にして…似てるんだよお前は…」


「違いますよ…」



俺は即答する。









「俺は軍曹の様にはなりません」


「何故だ?」


「俺は軍曹程を他人を思いやれません」


「……フッ、最低だな…」


「最低野郎ですからね。それにいつまでも伍長、軍曹の地位にいるつもりもないです。ここまで来たら士官にあがって有意義に老後を過ごすつもりなので」



久々に軍曹と俺は心から笑った。



店を出た帰り際に、軍曹は俺を呼ぶ。



「あの階級章の代わりだ。これをやる」


「これは…」


手渡されたのは一丁の拳銃だ。


「支給品にも確か無かったよなお前」


「私物ですか?」


「俺が若い頃背伸びして買った奴だが…悪い品じゃない。新調するにも高いだろう」


「ありがとうございます」



俺は拳銃を受け取る。ずっしりとした重み。


リボルバータイプの彫刻の凝った代物だった。



「確かに…でも良いんですか?」


「渡した以上ちゃんと使いこなせ。後輩に醜態晒さない位にな…」


「アハハ…」



蟠りが解けたかと言うと微妙かも知れない。ただ軍曹が何故俺から階級章を取り上げたのかはなんとなく自分なりに解釈したつもりだ。


俺は空を見上げる。


久々に綺麗な星が映る夜空だった…。


(続く)

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