第20話 新たな風の吹き回し

試験から暫くしての事だ。



「落ちろぉ!」



射撃訓練上の的に向かって銃弾を放つ俺。



バンッ



そして的の中央に華麗にショット!



「落ちたな!!」



手軽なストレス発散だぜ!


………と言いたいが最終的に中央の的に当たると5点で10発計50点満点の射撃で22点という低めのスコアを出し更に心が沈んでしまった。


初撃だけ中央付近にクリーンヒットしたモノのの次第にブレ始めた感じである。




















昇進試験は落ちた。


軍曹は兎も角、直属の上官自体はそもそもあまり昇進に乗り気じゃなかったのも大きいだろう。



(しかし軍曹と顔合わせずらい……)



正直俺は困ってしまった。



「あっ、伍長先輩じゃないですか?」


「ニコォル……」



よりによって軍曹の次位に今会いたくなかった人物と出会ってしまった。



「試験、残念でしたね」


「あっ…あっ…あぁぁふっい……」



ニコルは俺の試験結果を知っていた。



「おっ、俺が落ちたの……わっ、分かったのか?」


「昇進辞令の貼り紙に伍長先輩の名前ありませんでしたから」


「ンふぅ…ぁっ!」



恥ずかしさから言葉に表しづらい声が出る。



「大丈夫ですよ!!次がありますからっ!ファイト『伍長』先輩!!」


「うっ…」



笑顔で伍長を強調され後輩に励まされる俺。


有り難いがなんか悲しい。



「ところでお前も訓練か?」


「気晴らしです。私って結構射撃苦手だし、腕を上げようと思って…」



そう言ってニコルは俺の横にある射撃台に入り準備を終えると拳銃を構える。



パンパンパンパンパンッ!



彼女はスムーズに引き金を引く。


俺は横目で軍服ながら時折反動で微かに振動する胸や素晴らしい美K2を凝視する。



パンパンパンッ!


(こんな感じで俺のアレにも腰振っていただきたいモノだが………君の歳で初々しさにかけるのもなんだがな……)



下心丸出しで妄想してると顔が惚けた。



「??どうかしました?」


「あっ、嫌なんでも…可愛いなぁって…って!えぇ!?」



彼女の返事を待つまでもなく俺は驚く。



「ど、どうしたんですか先輩?!」



俺は彼女のスコアを見て驚愕する。


ほぼ全て弾は中央を貫通し、トータルスコアは49点だった。



「伍長先輩?」


「……すぞ」


「??」


「うわぁぁぁぁぁぁぁん!!!!!」


「せっ!先輩っ!?」



怒りの言葉は日和って言えず、泣きながらそのまま射撃訓練場を走り去る俺。



(射撃下手とか言いながらめっちゃ上手いじゃん自慢かよ!!だから女は糞だ!!小手先で一瞬出来た位でマウント取りやがってぇぇ!!クソ卍毛に絡まってはぜろ卍毛卍毛卍毛卍毛卍毛卍毛毛毛のゲェぇぇぇぇ!!!!)



ありったけの悲しみと被害妄想全開で罵倒しながら俺は走る。


ドッ!



「射てっんっあっ/////」



走ってる途中で誰かとぶつかる。だがぶつかった際の衝撃に柔らかさがある。



(おぉ!がずむぅ!!)



これは新しい出会いか?!















「痛いなぁ…って君かぁ…」



ぶつかった相手は昇進試験時のふてぶてしくない方の洋梨士官だった。



(当たったのおっぱいじゃなくてオッサンのプリン体かよっ!)


「君、ぶつかっておいて一言も無いのは失礼じゃないかい?」


「はっ、はい!誠に申し訳ございません!」



俺は深々頭を下げ謝罪する。


減俸されそう。



「それより何を急いでいたんだね?試験の結果は既に出てるだろう」


「あ、あはは…それはですね…」



俺は言い訳に窮してしまう。



「言葉遣いの勉強しようかなって…本屋辺りに行こうと」


「面接の件かい?まぁあれはあまり気にしなくても良いよ。彼も意地悪だったからねぇ…」


ふてぶてしくない士官は俺を諭す。



「何故で…ありますか?自分は面接が最大の失敗だと…」


「いや君単純に筆記と小論文メタクソだったから見送ったんだよ。元々面接はオマケみたいなモノだし…」


(ああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああぁ!!!!!!)



俺は四つん這いになって地面に項垂れた。


もう滅茶苦茶だぜ。



「そんな君に一つ助け船をあげよう」


「助け船?」


「以前面接で軍艦の話をしていただろう?君軍艦への配属に興味はないかい?」


「軍艦…ですか?この国は陸しかないはずですが…」


「ここはそうだね……でも場所を返ればって話だ」



意味が分からない。



「どういう意味ですか?」


「元々この国は巨大な海洋国家であるブリ・E(エクストラ)・ブリコウン王国ことブリコの民が新天地を求めて移住した国なんだよ。この軍には30年前の三族間大戦を機会に同盟国となったモテナ王国に巨大な海軍を常駐させているんだ」


「へーそうなんだー」



始めて知った。


記憶喪失の関係かその辺も抜け落ちてるみたいだ。



「ですが陸軍の俺…いえ自分が海軍でありますか?」


「正確には海軍の保有する空母や揚陸艦の艦載機パイロットを今我が国では集めてる。航空機と人獅子(レゴロイド)のね……」


「人獅子…?」


「揚陸艦の艦載機だよ。海軍は船乗りや基盤になる兵員育成で手一杯。しかもモテナ王国はサウロスバードゥ・パーティンコゥチン・ジュクス・レムリンオルケことサウパレムと領土を巡る緊張状態だ……」


「それはつまり人手が欲しいと?」


「やる気があれば基本ウェルカム。どちらも1ヶ月後に適性試験がある。人獅子は割りと今枠に余裕があるそうだよ。施設出身者の君ならもしかして…」



だから施設出身者って結局何なんだ?


ただの孤児院じゃないのか?



「パイロットなら軍曹に自動昇進だね。兎も角受けるなら頑張ってくれたまえ」



そう言って、ふてぶてしくない士官は去っていった。








俺はとりあえず適正試験を受けることにした。


昇進試験が散々だった事や、加えて適性試験には工学系の基礎知識やこの世界での時事関連が含れているという事もあり今回は割りと本腰で勉強をした。



「伍長先輩、それ何の本ですか?」



ロビーで熱心に勉強していたらニコルが声をかけてきた。



(エロ本だよっ/////)



なんて答えるハズはなく!!



「子宮精子って本だ!」


「え?」



真顔でニコルがドン引き。



(しまった!いつもこんなことばっか考えてるから言葉がッ!)


「ちンッ…違う!持久戦士って言う戦いが長期戦になった際の指南書だ。適性試験の基礎知識に少し役立つんじゃないかと思って…」


「へー」



すごい冷めた目で見られている。


多分これが本来の彼女の好感度なんだろうがしんどいぞ!


愛想で良いから誤魔化してくれ!


「ホラホラ、コレコレ!!」



俺はめっちゃ細かい真面目そうな本の中身をニコルに見せる。



「凄い難しそうですね!!凄いです!!」


「あっ、あぁ…」



直ぐに愛想モードに戻ってくれたニコルだが、なんかバカにされたような気分だ。


まぁ大して中身読んでないんだがな!


所詮人前での勉強なんて自分の心のハッパがけにしかならない。


可愛い若い女にちょっと声をかけられ調子を良くし、頑張ってる俺凄いでしょアピールをした後、もうこれやったから後には退けんぞと自己を鼓舞!


オフに本格集中という勉強の作戦だった。


これぞモチベーションアップという発情感覚のインスピレーション!



(出来れば、後2、3回くらいやってもらえるよう調整を…)


「じゃあ私先輩の邪魔になっちゃうかもなので、なるべく勉強中はソッとしときますね!」


「えっ?」


「勉強頑張って下さい!」



乱数調整は見事に失敗した。









こうして…


ふてぶてしくない士官の予想通り飛行機の適性は全く無く落ちたが、人獅子試験はあっさり受かった。


施設出身者補正が利いているのか?


そもそも人獅子って何だよ?



「3日後に訓練基地のあるモテナ王国のダマサイに異動だ」


「は?」



上官から即座に異動辞令が下った。


しかも異動先は同盟国とは言え異国だ。


俺は早くも基地を異動する事になる。



(また渦中の場所に飛び込む事になったのか…)



一瞬心が暗くなるが同時に少しばかり心が軽くなった。


最も軍曹との亀裂は相変わらずだし、ニコルとも上手くやってける気がしない。


解放感に満ちた気持ちでロビーに戻ると……




パァァーン!



「なっ!?」



幾つかクラッカーが弾ける。



「伍長先輩!おめでとうございます!」



そこには笑顔のニコルとムスッとしながら似合わないクラッカーを持った軍曹が立っていた。



「これは…一体?」


「軽い祝いだ。パイロットになった記念のな…」



軍曹が語る。まだこれから訓練なんだけど。


そして軍曹は俺の横に来て、俺の肩に手を置いて囁いた。



「…今晩、一杯付き合え」


「…え?」



どういう風の吹き回しなのだろう?


俺には軍曹の真意は読めなかった…。


(続く)

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