第18話 誘惑の砦

と…言う妄想をしたんだ\(^o^)//(^o^)\\(^o^)/



「全部先輩のおごりですか!わぁ~ありがとうございますぅ~!」



じゃねーよ!畜生!!


任務終了後に、晴れてニコルと外食をしに外に出たは良いが実際は彼女にタダ飯させるだけだった。



過去の話も、戦地での話も一切なく聞けた話は……



「私、ジーク様のファンなんです」



とか言う冒険家ジークファンだと言う事をカミングアウトされただけ。


ひたすらその冒険家ジークの武勇伝等の話を聞かされただけだった。


会計時にはスタコラ先に去られてしまうという悲しい現実。


知らず知らず初手に酒を注がれた挙句、煽てられ、調子に乗り、気付けば金を失った。


糞が。


そんな不貞腐れた気持ちで宿舎の寝床に戻ると、ベッド6つ全て空みたいだ。



(他の奴らも外か?)



と思ったら窓際の新兵が月の光でエロ本かざしながら慰め中。



「あ…」


「あ?」



どうやらこの新兵、極たまのレアシチュエーションにハジけてしまったらしい。


俺が彼の予想より早く戻ってきてしまったのは不幸だったと思う。



(でもぶっちゃけ俺もう寝たいし)



用も足しちゃったから仕方ない。


気遣うことなく俺は無言で布団に潜ってそのまま寝た。


すると新兵は暫くして立ち上がり、トイレの方向へ駆けていった。



(達しきれなかったのか?移動してると中で爆発すると後辛いぞ?)



そんな中、俺は飯屋の事を思い出す。


ニコルに連れてこられたのは俺達が良く使ってた飯屋だった。


店に入った時、威勢や愛想の良い接客は相変わらずだった。


店主も変わっておらず、俺との再会を純粋に祝福してくれた。



「そういえば彼女は?」


「あの子……実家に帰っちゃってね…」



店主は遠い目で一瞬悲しげに語った。



「そうか…」



そうか。


それ以上の言及は出来なかった。



(会わなかったのは救いだな…)



無論、俺自身の事だ。












翌日はいつも以上に精を出して仕事に励む。


どうやら戦争の結果か、街に近いこの基地は物質運搬以外にも街周辺の警備任務も兼ねる様になったらしい。


だが一つ疑問が沸く。



「憲兵は?」


「解体されましたよ」


「は?」



憲兵隊は俺が前線に行ってる間に組織そのものが解体され、機能は行政側の公安組織と軍の警備部門に管轄が移された。


事実上の規模縮小である。


一緒になった仲間の話では以前ギルドハウス立ち入り調査で見かけた憲兵隊の長であるウコウことウコウ・コウウンウが国家転覆を画策していたらしい。


それが色々あって冒険家ジークら一行の活躍で阻止されたとか何とか。


またウコウ・コウウンウはこの国に移住したギョクザ帝国出身の商人の息子で、その一方で親の故郷のギョクザ帝国のスパイだったという。


一歩間違えば、国が滅んだどころか世界が滅び兼ねない惨事を引き起こそうとしていたとのこと。



(胡散臭そうな奴だと思ってはいたが今一嘘くせぇ話だよなぁ…)



実感が湧かないのだ。俺らはたった一つの戦争で死に物狂いだってのに、たかが一人の人間が世界滅亡レベルの事を引き起こせるのか?


そんな感じで俺はへッとガムをかみながら話を聞いていた。


因みにジーク一行はこの活躍で、戦争が終結したフォレストにある遺跡の探検を許可され現在そっちに出掛けたという。



(冒険家ってやっぱりちゃんとそういうことするんだなぁ…)



ただ実際被害が酷かったのか、見回ったエリアには一部更地や瓦礫みたいになった壊れた建物、意味深に瓦礫に書かれた魔法陣跡等が黄色い立ち入り禁止テープ貼られた場所に残っている。


そしてそんな事を考えていたら街に一枚の看板が見えた。



「あっ、これアイツか?」



剣を構えた赤髪の青年と両手を大きく広げた案山子みたいなポーズでいかにも悪そうな顔でどっしり構えるボブカットの男。


その後ろには禍々しそうな巨大な竜のイラストが。



「明日遂に公開ですよー。サービス満載らしいし早く見に行きてぇなぁ~」



同僚兵士が言った。


本当別世界だなぁとしか思えなかった。


そして車両でのパトロール中、俺はギルドの通りを車で横切る。



「ちょい待ってくれ」



俺は車を止める。



「どうしたんです?」


「ギルドにちょっと立ち入ってくる」


「ちょっ!伍長!止めてください!」


「物騒な事あったんだろ?なら怪しい建物は徹底的に洗わねばならんでしょ?」


「でもウコウの件は俺らの方の不祥事ですし……」


「俺らに喧嘩ふった獣野郎に同盟国に嫌がらせする耳中鳥も平然と子飼いにできちまうんだろアソコの奴らは?気に入らねぇんだよ!!」



柄にもなく口に出して罵る俺。


口は汚いが態々出すタイプじゃない気がするからよぉ自分では……



「止しましょうよ伍長!上が基本指示しない限り冒険家ギルドハウスはあまり探っちゃいけないって!」


「日和るのか?背を伸ばしたいなら時に大手をふるのも大切なんだぞ!」



俺はそう言って、ギルドのドアを叩き開ける。



(そもそも裏があるハズだ!何も苦労無しで英雄気取りなんて認めん!)



化けの皮を剥がしてやる!


これは嫉妬じゃない!だから嫉妬だ!



「うぃぃぃす!軍です!!」


「「は?」」



こうして厳つい俺より身長が高い大男達が俺をお迎え。



「………皆様こんにちは。軍隊で伍長やってる者です」



俺は深々お辞儀した。


挨拶は大事だからな。



「軍の方ですか?はじめまして。」



やや重苦しい空気だったが、受付嬢らしき若い女性が割りと丁寧に対応してくれた。

 

俺は周りを物色する。


ロビーの様な広間に、二階に続く露骨な階段、木製の掲示板には色々なクエストと思われる貼り紙が貼ってある。



「普通だな!」


「あ、あのご用件は…」



受付嬢が困ってる。


その時だ。


あるものが俺の目についた。



「なんだコレ……」



郵便局にありそうな仕分け棚が受付でなく、誰でも触れられそうな場所にある。



「これはなんだ?」



俺は尋ねる。



「あぁそれですか?それ冒険家同士の文通箱ですよ」


「文通箱?」


「冒険家の皆さんは年中色んな所に行くじゃないですか。毎回ギルドで直接交流って機会が少ない人も多いんです。そこで各地のギルドハウスにはこう言ったモノを置いてるんですよ」



受付嬢が説明する。



「会話なんて魔法なりを直接鳩使えば良いんじゃねぇのか?」


「何分皆さん国境を跨いでるパターンが殆どですので。使えない方もいますから。無国籍だし公衆通信使えないしで色々大変なんですよ」


「そうかそうか」



無線とか使うのも兎に角制約があるらしい。


横には小さい文通用の掲示板もある。


そこに一枚小さいメモ書きが貼ってあるのが目につく。



「はん?」



俺はそれを破り取る。

  


バシッ


-文通相手募集です。優しい方希望-


(ギャハハハハハ!!!見ず知らずの相手に優しさ問うってガイジかコイツ!世の中はサバンナなんだよ!ウサギみてぇな根性しやがって!)



こんな事書けるのはブス女かモテない男と相場が決まっている。


だが冒険家にもそういう奴がいると言うことは昨日の流れに加えて呑気に映画になってる赤髪の男の件でイライラしていた俺にとって素直に愉悦だった。



「帰るか…」


「あっ、あの結局ご用件は…」



車に戻ろうとすると、受付嬢が困り果てた顔をしてるし周りもやたらイライラしてる。



「あぁ、パンフレットがあるならくれ」



俺はそう答えるのだった……。











見廻り任務を終え兵舎に戻り、自室のベッドに戻る俺。


試験終わるまでは通常業務はコレらしい。


軍曹の達の計らいだろうか?



(バカ甘にしてくれるのは有り難いが…)



らしくないな……


昨日も今日も。


だが要はそれだけ本気という事でもある。


そんな時だ。


基地の通路の片隅で俺は苛めを受ける兵士を見つける。



(あれ、アイツって…)



苛められていたのは昨日窓際で達してた新兵だった。


苛めているのは中年一人に、若手3名。中年は本気、若いのも二人愛想を打ちながら半分本気で新兵をヨツンヴァインにしてお馬さんごっこやったりしてる。



(車や戦車を使うような時代で馬車か………)



下手に止めに入るのも面倒なのでスルーする。



カッコ悪い?最低?



止めた所でどうにもならん。


そもそも止められる実力がない。


一応上には密告しといてやるからそれで許せ。


そして寝蔵に戻りベッドに座る俺。


少し考え事と、戦利品のメモ書きを眺めながら先程の新兵を苛めていた中年のつけていた階級章の事を思い出す。



(軍曹……ねぇ……あんなのも軍曹なんだが……)



試験まであと二週間。


様々な感情が俺に渦巻いていた…………。


(続く)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る