第17話 顔(ツラ)ドン


「ぐっ、軍曹!?」



突如として軍曹にぶん殴られた俺。



「何故殴ったか分かるか?」



軍曹が珍しく殴った理由を俺に問いかける。



「モノすら大切に出来ない俺を怒るのは当然では……」


「違う!」



バンッ



「ぺぷしっ!」



容赦ない二発目。


いやちょっと待ってって意味なのに!



「コイツは!」


「やめてっ!!軍曹さんっ!」



ニコルが間に入って止めに入る。


兵長でも止めに入ったかもしれない。


だが何より彼女は殴りモーションで殴る気満々の軍曹と俺の間を割って止めに入ってくれたのだ。


流石の軍曹も手を上げるのをやめた。



「その階級章を渡せ」



軍曹が俺に要求する。



「これは…」



別に無くても問題は…多少あるが、正直そういう意味じゃなく困るなぁ………


だが身を挺して庇ってくれてる目の前の後輩の事もあり、俺は折れた階級章を軍曹に渡した。



「没収だ」


「!?」



やっぱりそのままの意味か!!



「まっ、待ってください。それが無いと俺は!」


「二週間後に昇格試験がある………受けるんだろ。それまでお預けだ!」


「ちょっ!?何でです。俺は今年受けるつもりは!」


「わざわざ俺にこれを見せびらかしておいて自信が無いのか?」


「え?」


「昔言ったハズだ。俺は仲間を盾にする人間は嫌いだ。その仲間が既にこの世にいない相手でもな!」



記憶飛んでるから殆ど覚えていない…しかし如何にも言ってそうな言葉だ。


だが俺が仲間を盾にしたという一言は聞き捨てならない。



「!!俺はそんなつもりじゃ…俺はただ…」



弁明を述べる間も与えず、軍曹は語り出す。



「あれだけの場所にいてまた此方に戻ってくると言うから一皮剥けたのかと正直、俺は期待していた…」 


「!?」


「だが実際はこのザマだ。面の皮だけ厚くなりやがって!メクラの引きこもりに用はない!もし試験に受からなかったなら………」



少し言葉に間が空く。


その間何か言えたかもしれないが迫力に圧倒されていた俺は何も言えなかった。












「軍を辞めろ」









ずっしりと重くのし掛かる一言。


パワハラ規定なんてこの世界には無い。


さながら俺の頭は除夜の鐘を叩く坊さんを眺めながら互いにディープキスしているホモカップルを見てしまったかのようなとんでもない戦慄に刈られている。


そして最後はあの絶望がやってくるのだ。



「辞めたくないと言って留まるつもりなら俺の目の前から消えろ!」



隙など与えぬ二段構えの口撃。


ライフゲージが0になっても倒され続けるゲームキャラみたいな状態だ。


ありったけの罵倒と暴力の末、軍曹はそのままその場を去っていった。


純粋なまでの嫌悪の罵倒。


俺はただ項垂れるしかなかった……。









「あまり気落ちしちゃダメですよ先輩!寧ろラッキーじゃないですか!昇格試験受けられるなんて」



移動途中でニコルが俺を励ます。



「まぁ、そうだけど…」



既に伍長になってから一年経過はしてる。


しかし基地に来て間もない上に、大体伍長からその上の階級、いわば『軍曹』にはこの国の軍でも最低2~3年従事しないと試験許可が降りない。


この国の軍の階級は三等兵から始まり、伍長の次は軍曹、軍曹の次は曹長。そして本気で上を狙いたい場合士官候補へ進むという形を取っている。


平時でも曹長までなら全うな人であれば定年までになれる事が多い。がしかし、荒くれ者が多い軍で、ましてや下士官だと割かし昇格具合にはムラがあった。


では兵長や上等兵という階級はどうなのかというと実は末端の女性兵士に割り当てる為の階級としてこの国の軍では機能させているらしい。


上等兵(一等兵相当)、兵長(伍長~曹長)相当といった所だ。


事情は色々あるらしいが女の事だしどうでもいい。一応マルティナ中将の様に普通に指揮官(コマンダー)やる層もいるから門を狭めている訳ではないだろう。


まぁそんな感じで易々受けにくい試験なのだが、今回あっさり許可が降りた。


正直疑問ではある。あの男の一存でここまで動くモノなのかと。


元々軍曹は年齢に反して階級が低い。


とは言え別に軍曹の歳で軍曹やってる人間は少なくは無いし、珍しい話ではない。


ただチグハグなのだ。


彼はベテランであると同時に基地内の階級が上の上官達にもかなり一目おかれている存在だった。


そもそも軍曹になったのも入って間も無くであるらしく30年経った今でも、その階級に留まっているのだ。


かつて上官とのソリの合わ無さで左遷されて窓際になったみたいないわくの過去話も聞かないし。


その一方で周りの話では叩き上げとは言え本来なら今頃士官クラスの役職につけてもおかしくない人だったらしい。


最も今の俺的に彼はパワハラマンから個人的には素質に疑問符がつくけど。


そんなこんなで、結局誰も真相を知るものはいない。



「ところで先輩って今日夜はお暇ですか?」


「暇だよ」


「じゃあ一緒にお食事とかどうです?外出許可は私取ってきますので。同じ誼という事で久々に思い出話に華を咲かせたいですし……」


「そうかそうか」



俺はニコルから晩飯を誘われたので承諾。



「それじゃ!また後で!」



そんな感じで彼女は自身の持ち場に戻るのだった。



「………」











静寂。




















「これマジ?」



一気に驚きが我慢汁感覚に湧き出る!


人生初の女の子から食事に誘われるという激レア案件。


自分から誘わないというのが最高に歯痒いが、正直不意打ちだったら仕方ないね。


ドドスコに以前奇跡は二度無いとか言われたが早速別ベクトルとは言え、二度目の奇跡が起こったので奴の言葉は嘘になった。



やったぜ。




(だが素直に喜ぶべきか……)



複雑な気持ちが俺にかさむ。


一瞬戦地での出来事や過去の生き方が申し訳程度にフラッシュバックする。


それになんか思惑ありそうなんだよなぁ…



(まぁ単純に話が聞きたいだけなのかも知れないぞ!)



同じ施設出身って話もある。


その筋だろう。だが記憶喪失で微妙に俺の記憶は欠けている。


彼女自体は俺と同じ施設出身といっても接点はなさそうだが…。


疑問は深まるばかりだ。


軍曹の事もある。



(だがアレだけ従順な感じならホテルに持ち込めるんじゃないか?)



様々な状況が交錯するなか、俺は早速出会ったニコルと晩飯後にどうヤるかだけを考えていたのだった……。


(続く)

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