第16話 笑顔の魔法で行くJOY

ドドスコ少将主導のもと、新兵器の新型のガスを+空爆を用いて森林に潜む獣人兵一掃作戦は大成功。


更に首都や主要都市にも空爆を加えた。


こうしてフォレストとの戦争は終結した。


元々毒ガス使用は土地の汚染リスクから上層部でもギリギリまで使用が躊躇われていたが、膠着状態が続いた為に許可が降りた。


魔術が使える人間がいればガス攻撃は魔法で防がれやすいという欠点があるが、途上国であるフォレストには殆どおらず効果は絶大。


魔術などを用いて生き延びた者にも奇石を混ぜた爆弾を用い空爆する事で殲滅する。


非道な作戦だが、これにより皮肉にも膠着していた戦局はあっさり終息。


戦下手とか散々言われていたにも拘わらずドドスコ少将はこの戦績で中将に昇格し、軍での発言力を高めてゆく。


更に彼は軍閥を形成した。


一方で新型ガスの使用された地域は汚染が消えない場所も多く、土地として不安定となってしまう。


そこで参謀部に所属するドドスコハ派のナロウェ・ブレナイン准将は進言する。



「ふむ、では汚染された地域にフォレストの獣人と抱えていた難民を移住させてはいかがだろう」



この進言をドドスコのぶっかけ…ブレスのかかった議員が法案として提出。


獣人嫌悪自体が高まっていた事もあり賛成多数でザルに承認される。


更にフォレストの一部の有力者達には予め逃げ道と利益のアメを渡すことで混乱を最低限に引き下げ強制移住法によって多くの群衆を其方に移住させる事に成功した。


受け入れられない獣人はフォレストから国外追放だ。


その一方で追放した獣人を俺達の国は移民という形で裏で受け入れる。


彼らを労働力として使うことを画策したのである。


元々貧困に喘いでいた彼らは、俺達の国で働けば豊かな暮らしを出来るという広報の言葉にあっさり引っ掛かり、純粋に逆転劇(ドリームジャンボ)を求めて出稼ぎに来るフォレスト人も引く手数多な状況に。


強制移住法でドドスコ謹製の焼畑移住→親父兄妹が俺らの国に出稼ぎなんて事も多かったようだ(というより俺らの国は滞在に一定ルール儲ける形でそのスタンスを奨励させた)。


こうして圧倒的安価で強靭な労働力を確保した俺達の国は更にチート国家として巨大化。


安価で大量生産された製品を周辺諸国や同盟国、果ては獣人国家群に輸出する事で莫大な利益を発生させる。


当然この流れをよく思わない国は多い。


ベーシック二大国家として俺達の国と対立していたギョクザ帝国は特に反発する。


ギョクザ帝国は30年前の戦争終結後に国々の間で取り決めで発足された全国家間会議で、俺達の国がフォレストとの戦争中に非人道的な行為を行い続けてきたと告発する。


彼らはどこで仕入れたか分からないが、毒ガス使用は勿論、俺の所属していた師団が行った獣人の村の無差別虐殺なども知っていた。


当然バッシングされこの流れに他の国々が追随。


相次いで断交や、交易の停止、輸出物に法外関税を課すと言った報復を各々行い始める。


まぁ要は戦争に勝ったらめっちゃ儲かったが、周りの国にやっかまれた上に儲けの際のカラクリを暴露された感じだ。


ただ俺達の国を支持する国も多く、実質この会議で情勢は真っ二つに。


そんな中俺達の国と同盟関係にあるベーシック国家であるモテナ王国の領土の一部を、サウロスバードゥ・パーティンコゥチン・ジュクス・レムリンオルケとかいうクソ名前の長いエルフ国家が占領。


補給部隊の中尉の言う通りこの戦争をキッカケにベーシック、エルフ、獣人の人種間対立は増大する。


そんな状況の中、俺はフォレスト攻略時の補給基地の補給部隊の一員としてあの後も一年ほど留まった……。













そして一年後…


俺は転属希望を出した所、軍曹がいる部隊に戻れる事になった。



「町の方に戻れるんだね。良かったじゃないか」



前日に中尉がそう祝福してくれた。



「すみません。俺だけ…」


「そんな気負うなよ。僕らはそもそも自分で決めて残ってる訳だし。ただ町に戻ったら普通の仕事がこなせるような勉強をしとくのがオススメだよ」


「俺は軍をやめる気は無いですよ」


「君はまだ若いんだから、今ならまだ幾らでも選択肢もある」


「俺は頭良くありません……しがみつくしか無いんですよ」



中尉は嫌味で言ってるわけではない。


ややお節介だが。


あの少女や友人の死、自身も負傷した事の心理的ダメージはかなりデカく、この一年の俺の活動にも多少影が見えていた。


そうした部分を心配されていたのだ。


かといって完全に壊れると最前線に向かう前日に出会った浮浪者の様になるという絶望が見え、それが皮肉にも紙一重で俺の背中を支えてくれていた。


ニートや引きこもりはそもそも親がいないこの世界では出来ない。


でも頭は悪いし、とりあえず残っている分には飯や時たまの風俗代が貰える軍にいれるのであればいた方が良かったのだ……。










そして翌日の早朝。


折れた伍長の階級章をつけて俺は基地内に建てられたフォレストとの戦争で犠牲になった人々の慰霊碑の前に立つ。


そして無言のファイティングポーズを決めて、心の中でこう呟いた。



(伍長、俺行くよ…)


「何やってんだお前?」


「ファッ!!」



部屋でやった訳じゃないから見られてしまった。



バッ


「ふがっ!」


「ちょっ!大丈夫か!!」



しかも声をかけられた瞬間に軽くコケてしまう。


出来立ての大理石に早くも俺の濃厚な鼻血が刻まれた………。









「戻ってきたな…」


懐かしい街並みを車窓から見渡す俺。


妙な安心感が心に漂った。


基地に戻り軍曹の前に更に上の上官に挨拶をした後、俺はよく伍長や軍曹、兵長らと交流する際に使っていたロビーに向かう。


今昼休みだしな。


あまり暗い気持ちで入るのもアレだから盛大な元気と笑顔で再会の挨拶を決めてやろう。


笑顔の魔法だぞ!!



「軍曹!ただいまんんっ!!!」


「はい?」

















「……………こぉ?」



あぁ思わずほおけェ…ちゃったよ……はぁ


ロビーに入ると知らない若い女の子がソファに座ってお茶飲んでる。


やや藍色がかった黒髪のショート。


ハートの髪飾りが良く似合う、軍隊と程遠そうな雰囲気。


だが着ている服はまごう事なき俺達の軍隊の軍服だった。


若干フリフリスカートになってたり改造されてるが。


しかも軍曹はいない。


これは盛大に空仏陀(カラブッタ)な……。



「誰だ君は?」


「はじめまして、先輩っ!」



クスクスッ



そう笑って答える少女。


だから君の名を教えてよ。


軍に似つかわない高水準の容姿だが……




(コスプレか?広報が雇った売れない地下ドルか?)



真相は定かではないが、先輩とはなんだ!先輩って!



(俺は伍長ダルォォォ!!!)



「あぁ、お前か。久しぶりだな」



そしたら後ろから軍曹がやってきて偉く淡白に俺に挨拶。



「あっ、どうもです軍曹…」



なんかしまらない。



「それより、軍曹、兵長は?まさか!!」



そういえば兵長の姿が見当たらない。


まさか兵長も前線に…!



「兵長は寿退職したぞ」


「あぁ、そっかぁ……んてえぇ!?」



最もこの異世界での女性兵士の早期退職は珍しくない。


因みに女性兵士の退職理由で一番多いのが妊娠だった。



「じゃあこの子は?」



「彼女はニコル・クラーク上等兵。お前と同じ施設出身の新兵だ」


「俺と……同じ…?」


「そうですよ…………だから『先輩』ですっ!先輩フォレストとの戦争で大活躍されたって!よかったら色々聞かせてください!」


「あっ…あっ…ァッ……あぅフィ……」

 

(誰だよデマ流したの………)



無差別虐殺に荷担した挙句、重大な局面で撃たれてぶっ倒れてただけなんだよなぁ……。


言えねぇよ…そんな事は流石に。



「ところでお前、そのワッペンどうした?」



軍曹は俺の折れた階級章を指差し尋ねる。



「あぁ…これは…」



軍曹は俺が昇格した事を知らないのだろう。


今の俺は伍長。


伍長なのだ。



「実は、俺戦争中に階級上がりましてェ…ニチャァ」



照れくさから少しシャイになる俺。












だが次の瞬間…










「歯ァ食い縛れクソボケ!」






ドカーン





「ふごっ!」



軍曹は俺の事をいきなり殴るのだった!!



「ぐ、軍曹さん!?」



いきなりの展開にニコルも驚きを隠せない。


片掌を軽く開いた口に当てながら驚いていた。


可愛いがそれどころじゃない!


そりゃそうだ。


殴られた俺が一番この状況を理解できないのだから。


その時対峙した軍曹の目は未だかつて無いレベルの怒りに満ちていたのだった…………。

(続く)

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