第15話 ドドスコ、ガス注入!

味方の新兵器の巻き添えになった部隊の救助に駆り出された俺達の部隊。


俺は車両の運転手として現場へ向かうことに。



「着替えは完了したかい?あとこれを…」



白い防護服を着せられ手渡されたのはガスマスク。


防護服は俺の世界でも使われていたような遜色の無い現代風の品だ。



(まさか……)



もう嫌な予感しかしなかった。


日が昇る前の暗闇が残る森林地帯を駆ける救助部隊。


少しずつ日が明けるにつれ周りの情景がライト無しでも鮮明に明らかになっていき、味方が使った新兵器の惨状も明るみに出てきた。



「木々が…枯れてる…」



味方が巻き込まれたという地域に近付くにつれて周りに見え始めたのは枯れ果てた森林と爆撃で黒焦げになった大地。


煙も至るところで昇っていた。



(枯葉剤とか……あんな感じのモノか……)



またしても現行の技術水準と差異のある代物がポンと出てくる。


異世界だからね。


仕方ないね。



「場所によっては火災が起こってる。火災が酷い場合は諦めて引き返そう」



中尉は言った。


録な護衛もない。


医療班は何故か乗せられなかった。


曰く積み荷の余裕を持たせたいとの事。


いやな予感をメンバー全員が感じていた。


敵がいるかも知れない………と思ったが上としては徹底的に殺し尽くした所存なのだろう。


実際時折それらしき残骸を確認することが出来た。


いずれにせよこの状況で防御無しで入り込んだ人間は虐殺されるだけだ。


更に上は無理はするなと言った。


それは心配している訳ではない。


この救助とは只の体裁。


これは巻き添えになった彼らの少しでもあるやも知れない過去となった生き証拠を回収してこいという代物なのだ。



「生きていたら…それはそれで困るんだろうね…」



助手席で惨状を見つめる中尉が複雑な表情でそう呟く。


僅かに息があろうが延命させるつもり等一切無いのだ。



(巻き添えにされたのが俺達だったら…)



考えたくもなかった。


地獄…と言葉で語るのもおぞましい。


その時だった。



「おい!あそこ!」



後部座席の兵士が叫ぶ。


俺にも見えている。


そこにはトレーラーの残骸と横転した一台の車両があった……。



































俺達はそこへ駆けつけ周りを探す。


トレーラー残骸周辺を俺は捜索する。


五体維持した仏が数人見つかるが損傷が酷く顔が判別出来ない状態だ。


胸に膨らみの有無くらいが辛うじて性別判断の材料になる程度。


それくらい酷かった。



「うっ……!」


「気分が悪くなったらすぐ戻れ!」



中尉が害した兵士に対し指示をする。


そして調子の何人かがその状況を見て車に戻る。


ホントは多少は出させても作業させるべきなんだろうが、ガスの残留がどれくらいか分からんから迂闊に出来ないのだろう。


かといってマスクは外せない。


厳しい戦いだ。


俺も気持ちが悪い状況だったが、嫌な予感がしたので出発前から事前に食事は取らず水だけにしていた。


出来るだけ万一の吐瀉物の純度を下げたいからだ。


そのお陰でリバースは今辛うじて逃れてる。


しかしトレーラーに押し潰されただろう仏から徐々にエグさか増して行く。



「無理はするなよ?」



中尉が尋ねる。



「今は大丈夫です」



俺は答えた。


気分を悪くしておらず陽気を保とうとリアクション取ってた連中含めて次第に口数は減って来ていた。


その時だ。



「隊長!息のある奴が!」


「なんだと!?」



まさかの状況だ。


俺達は急いだ。


息のある人間は横転車両のドライバーだった。


だが彼も全身に酷い傷を負っている。


ガクガクと口を動かし何かを伝えようとしているが意志疎通は出来ない。



「顔を!」



一人の兵士が両手で覆う彼の手を避けようとする。



「やめろ!好きでそうしてるんじゃない!」



中尉が激昂して静止する。


あまり苦にならないように彼をなるべく安静な体勢にしようと俺達は尽力したが、出来た頃には彼は息を引き取っていた。


無力感だけが俺を含めた周囲の人間に伝わってゆく。


最終的に巻き添えにあった内の3分の一にあたる20人が見つかったが、遺品の差異とかで断定できるものも含めただけに過ぎない。


正確な判断は基地で待つ墓地登録部隊に所属する専門家に委ねられることになる。


敵の奇襲には遭わなかった。


車両に戻った無線での中尉のやり取りでは、どうやら敵の残党の中核は今回の新兵器で一掃できたそうだ。


抵抗していた連中もほぼ全て降伏したという。


大型の仏の搬入が始まる。


魂の籠っていない陽気な声が兵士達から出る。


無言のままでいると、そのまま地面の下に引きずり込まれそうな気がするからだろう。


あの懸命に生きようとした彼の亡骸も運ばれる。


担架を持ち上げた時だ。


彼の衣服のポケットから一枚の写真がこぼれ落ちる。


俺はそれを見てしまう。



「……おい、嘘だろ……」





















































写真に写っていたのは見覚えのある愛嬌のある笑顔の若い女。


俺は彼の元へ駆けつけ、階級章にあたるワッペンを確認する。


折れ曲がっていた。


いっそそのまま判別がつかない方が良かったかも知れない。



「知り合いか?」



中尉は尋ねる。


俺は口を止めてしまう。


信じられなかった。


だけど、間違ってほしいにのに間違いじゃ無かった。



「はい……」



俺は答えた…………。





























基地に戻ってきた俺達は多くの兵士に迎え入れられた。その中には俺らの師団の長であるドトスコ少将がいた。



「諸君、御苦労だった」



ドドスコはそう言って立ち去ろうとする。



「待て!」


「ん?」



思わず俺はドドスコの行き先に立ち塞がる。



「枯葉剤……いや毒ガスを使ったのはアンタか?」


「確かに作戦を立案し主導はしたのは私だが、枯葉剤とはなんだね?最も毒ガスなのは間違いないが」



どうやら俺の知っている世界のモノの呼称とは違うらしい。


だが毒ガスであるのは確定した。



「軍司令部も許可を出した。総意に過ぎんよ。そもそもマルティナの采配が悪かったのだ。現に私の師団から犠牲は出ていない。寧ろ私は今回君たちを危険にさらした事に責任と、私の部下に尻拭いをさせたマルティナに対する怒りを感じている位だ」


「貴様!上官反逆罪だぞ!我が国の英雄に向かってその目付きは何様だ!!」



副官が俺への怒りを露にする。



「構わんよ。それに彼は疲れているようだ。今日は皆ゆっくり休んでほしい。労いの宴は後日に開くとしよう」



ドドスコはそう言うと何事もなかったかのように副官や護衛と共に俺を横切ろうとする。


そしてすれ違い様に一瞬立ち止まり俺にこう言った。



「確か君は最近復帰したのだろう?」


「何故それを!?」


「上に立つ者なら麾下の人間の動きは最低限把握するのものだ。それより折角元気になったのだから今ある生を大事にしようとは思わんかね?奇跡というものは二度は早々無いものなのだから………」


フンッと言った感じにドドスコは言い残して身を翻して去っていく。



(………クソっ!)



俺は拳を強く握りしめてその状況を耐えた…………。











暫くして俺は倉庫の外へ出た。


夜の星空でも見ようと思った訳じゃない。


一人で暫くいられそうな場所を探していたのだ。



「何も見えないな…」



手持ち無沙汰で見上げた夜空は曇り空が酷く星なんてロクに見えない。


その時だ、



「うっ!」



軽い頭痛が俺に走る。


自身の転生前の記憶が僅かにぼやけるようなそんな背景が脳裏に広がる。



(……これは!?)



かと思えば今度は、一兵卒として軍に入った頃の喪失していたハズの記憶が呼び戻ってきたのだ。


そこに出てきたのは、施設を出てすぐ軍に入る俺の姿。


入隊後の訓練過程初日から孤立しがちの俺に声をかける伍長。


あの飯屋の場所を教えてくれたのも彼だった。


更に軍曹のいる部隊に入った後の俺を色々フォローしていた伍長。


いい思い出ばかりではない。


時に本気で喧嘩し、お互いの口から血が出るくらいの殴り合いもした。


だが気まずい状況になりながらも、仲直りはしたようだ。


そして、彼と彼女との馴れ初めの様をみていたり………。



「あれ……」


ぽたっ



何故か俺の目から涙が流れ始める。


吐き気も無いのに嗚咽だけ漏れて行く。


今になって思い出し始める自分が悔しかった。


今じゃなかったらもっと違っていたかも知れないと思うと尚更だ。



「あああああああああああああああ!!!!」



何も見えない悪天候の夜空に向かって俺は慟哭するのだった……。


(続く)

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