第14話 再会は唐突に
俺達の国とフォレストとの戦いは約2ヶ月。
初めこそ此方の領地奪取に進軍と勢いがあったフォレストだが、セミの寿命並みの早さで進行は止まり、気付けば1ヶ月で戦況は覆された。
既に俺達の軍はフォレスト首都まで進軍。
既存政府は解体され、暫定政府を樹立していた。
一方で残存戦力は森林などに潜みその中で自治政府だのなんだの主張している。
密林地帯での獣人は兎に角強く、100人位の小隊で闇雲に突入するならあっさり数人の彼らに壊滅されてしまうほど。
平地でのワンサイドゲームが嘘のようだった。
更に森林に潜む動植物や果ては魔物まで彼らは食糧として賄えてしまう他、彼らが潜伏した地域は水源も多かった。
そのせいで持久戦が出来る上に暫定政府を作っても、俺達の国との国交を正常化させるのが難しい。
結果、戦争は未だ終戦という形を取れなかったのだ。
負傷していた俺だったが、傷の治りも早く2か月過ぎる直前にリハビリも終え復員することに。
だが既に俺が所属していた部隊はフォレストから撤退しているという。
マルティナ師団、ドドスコ師団も未だ戦地ではあるが一部の過剰戦力となった部隊は別の地域に回されたり、兵によっては除隊の許可も降りたりしているらしい。
(伍長も今頃彼女の田舎かな…)
そう思いつつ、俺はフォレスト残留したドドスコ師団の補給部隊に回されていた。
物資運搬の途中、運転に集中しつつもうっすらこの世界や今回の戦争への疑問も思い始めた俺。
(思えばなんでコイツら攻めてきたんだ?)
難民の受入れ過ぎで膨張した?ヲタクがやった小細工?
いずれにせよ理屈は弱い。
過激派が暴走したにしてもである。
(ヲタクの嫁だったリコもすべての獣人が悪くないといいながら故郷の擁護は一切無かった……)
それだけ人種間対立は根深いのだろうか……。
何よりベーシックだけで既に他二人種より優れているようき感じる(ただエルフに会ったこと無いんだよなぁー)位だが、一方で俺が知っている価値観とイマイチ技術水準にばらつきがあるのだ。
そもそも魔術ってものが、奇石の存在で全く怖くなかった。
今いる魔術師達は才能も枯れている負け犬なんて風潮する連中もいるし。
しかもベーシックには車はあり物資運搬用の大型車も実用化されているのだ。
獣人達は荷車を牛の様な生き物(多分この世界の動物か?)で引いているのにである。
他にも無線は小型車両に搭載可能なまでに小型化してるが、まだトランシーバーは無く細かい伝令伝達には兵士や鳩を用いる。
飛行機は複葉機で元いた世界ではロマンでしかない飛行船の爆撃が効果的に用いられる。
にもかかわらず戦車は回転砲搭式のモノである。
最大の差異は基本ベーシック以外の異人は一切これらを持っていない、無いし作れないらしいという点か。
使ってくる奴らは同じベーシック国家の帝国が渡してるモノって話だし。
エルフがどんなか分からないのもあるが少なくとも獣人には作る技術水準が無いことが多いらしい。
だが先述した帝国が供与した武器を使いこなせるから、あくまで自力で作る技術がないだけだろう。
しかしそれなら何故ここまで獣人は国を維持できたのか?
ヲタクの説明だと三人共にそれぞれ長所短所あるとは言ってたが、実際は獣人側にあまり大きいアドバンテージを感じない。
桁外れの身体能力があるのを差し引きしても俺が見てきたのは文明の利器にひたすら虐殺された彼らの姿位だ。
とは言え完全に彼らにも同情出来ない。
俺の身体に穴開けてるし。
「伍長!運転荒くないか?」
「はっ、ハイ!すみません中尉殿!」
助手席にいた補給部隊の上司に注意される俺。
(とりあえず俺は考えるのをやめた)
少なくとも運転中考え事はダメ、絶対!
まぁ戦争がなぜ起こったかを一兵卒の俺が考えられる位だ。
始まって此方に送られた頃はそんな事順序立てて考える余裕なんて無かった。
戦争の終わり自体はきっと近付いているのだろう。
そんな感じで前線部隊に物資のお届け完了。
直ぐに補給基地へと戻ることになる。
「なんか静かですね」
俺は言った。
夕焼けに染まる空。
少しずつ日が沈み始めていた。
「森の中にも獣人の姿は無いし塹壕での戦いの時とは豪い違いだなぁ……」
「前線の戦力も撤収し始めてるからね……」
「まぁそんなの関係ねぇですよ」
「随分機嫌が良いね?」
補給部隊の上司が尋ねてくる。
「そりゃそうですよ。ようやく戦争が終わるんです。知り合いは結婚するらしいし、俺も早いとこ良い女見つけないと……」
実際急務だ。
まぁ良い女と言えばあの冒険家ギルドで出会ったあの子とか……
店で楽しませてもらったアリスンとかか。
しかしどちらも高嶺の花ではある。いっそエルフという手も……
「それはめでたいね。良いことだ。まぁでも伍長の場合はまず自分を磨かないとだね」
は?
いきなりマジレスやめろ。
「愛嬌ですか…」
「軍人関係なく普段から少し硬いからね君。普通の女の子って特に異性の雰囲気を見るから、今の伍長だと厳しいかも知れない」
確かに。
辛辣だが正論っぽい気もする。
(そりゃギルドであったあの子が社交辞令だってのも、店でのアリスンの対応が営業だってのは分かるさ……だがやたら三族同士で対立している世界で人種問わず女を探す気満々の俺だぞ?フムフム、博愛ではなかろうか?)
ただし美人に限るんだがね、初見さん。
(しかし何故だ……この上司はやたら女を食ってそうな雰囲気もあって否定しにくい……)
仲間に聞いた話だがコイツは一般の大学から士官候補に入った変わり種らしい。
別に珍しい話ではないが一般上がりの士官は世襲議員や貴族の子種以外、大体訓練の厳しさや士官学校上がりの軍閥組に苛められて辞めるか自殺するから残っていない事が殆どだ。
何よりコイツが入った時は別に戦時じゃないし他に仕事ありそうなんだがな。
学生時代は割りと女遊びも上手かったとかなんとか。
本当よくわからねぇぜ。
コイツって言うの失礼では?
こころって奴だからね。
お外じゃ絶対言わないさ。
まぁ全部周りの奴らの伝聞だけどね。
そもそもメガネ掛けてる奴がモテるかよ!
メガネのクセに!メガネが!
「あと軍を辞めてからがオススメさ」
「軍を辞めて…ですか?」
その言い回しが妙に引っ掛かる。
「フォレストとの戦いは確かに終わるだろう。だけどこれは始まりに過ぎない。元々三十年前の戦争で帝国を軸に三つの人種が争っていたんだ」
「だけど今回戦ったのは俺らの国とフォレストっていう途上国ですよ?」
「二つ人種の均衡が破られたという事実は覆らない。更にフォレストは敵対国家の帝国から武器の提供を受けていた……ギョクザ帝国はかつて最大の国だっんだ」
「その帝国もベーシックの国では?」
「帝国はエルフから情報を貰っているかも知れない」
「エルフが絡んでる可能性があると?」
「僕はそう思うね」
まぁ中尉の憶測に過ぎないのだろうが、女と見間違っただけで殴ってくる位のプライドチキンを生んだ連中だ。
あながちあり得なくないと思えてしまうのが恐ろしい。
「それにまだ戦争が終わっていないのに君らに何故昇格と一時金が渡されたか分かるだろ?」
実は前回の大規模作戦に参加した下っ端の兵士に限りそれだけで一階級昇格した。
尚且つ下っ端で軍に今後も軍に残留するに限り、特例で下士官候補の推薦と一時金が支払われたのだ。
俺は昇格の推薦を復員に向けてのリハビリ中に並行して受けた。
なし崩し的に二階級上がり伍長になったのだ。
給料は雀の涙程増えたが、中途半端に責任も増大。
一応下士官の端くれになることもあり色々厳しくなる。
二等兵時代じゃあまり任されなかった車両の運転とかもやらされてる。
(なんか割に合わないよなぁ…)
そんな時だ。
「伍長!前だ!」
「くっ、バカな!」
前方にフォレストの獣人兵が7人待ち伏せしている。
何故だ!
内二名は銃持ちだ。
「飛ばしてくれ!振り切るんだ!」
「やってます!」
ビュウウゥゥゥ
俺は速度を上げる。
後続車両も速度を上げて逃亡を開始。
だが彼らは執拗に車輪を付け狙って来た。
「積荷や車両の強奪を狙ったのか!」
バンバンバンッ
中尉含め運転手以外は窓を開けて彼らを迎撃している。
外に出て迎撃は返り討ちに合う可能性がある。
速度は60キロは出てる。
小型車両ならもう少し出るがこの世界運搬車の最高速度が60なのだ。
にもかかわらず彼らは若干遅れつつも木々を渡ったり、並走したりしながら追随出来るほどの早さで此方を狙ってくる。
生身でだ。
護送車両も一応仕事はしているが敵も動きが良く中々倒せない。
移動しながら此方も撃ってるのも大きいだろう。
タイヤに当たらないことを俺は祈った。
(止まるんじゃねぇぞ!!)
止まったら死んでしまう!
必死に俺はアクセルを踏んだ…………。
とは言え数も少なく、救援無しで最終的に7人の獣人兵は一人に逃げられるも他は全員射殺された。
だが後続車両の二人と運搬車の運転手が銃撃と槍の投擲で負傷した。
安全を確認後、見張りをつけつつ補給部隊は道中で一時停止する。
「すみませんでした」
「なんで謝るんだい?」
「俺、あまり運転上手くないんで…」
謝った俺。
此方側に死人が出なかったのが救いだ。
「気にしてないよ。それよりこういう事があるんだ。僕も伍長も良い縁が無いから助かったんだ」
「どういう意味です?」
「使ってしまうんだ。幸せ過ぎるとこういう時にね…神様って奴は意地悪だから」
随分悪趣味な神様だ。
だが否定できない程の出来事をここずっと繰り返していたからあながち違うとも言えなかった。
そんな時だ。
(そういやこの辺…)
俺は見覚えのある感じを思い出す。
そして不意にその場を離れた。
「どこに行くんだ伍長!」
「小便です!」
そう言って俺は森の中へ。
敵が潜んでいる可能性がある。
だがそんな事お構いなしに俺は突き進んだ。
何かに誘われるかのように……。
「ここは……」
俺は見た時、立ち止まってしまう。
足が震える。
そこは見覚えのある洞穴だった。
俺はその中へ入ってゆく。
あの時と違って外の日が沈み始めてる事もあり、ライトをつける。
「!?」
思わず鼻を塞ぐ俺。
ブーンッ
ブーンッ
羽根つきの小さな虫が円を描くように飛び回っている。
「こんな天使に連れていかれたら……確かに俺を憎みたくなるだろうな……」
そこにあったのは二つの白骨化し始めた遺体だった。
「あの時のままなのか………」
あの時村の連中は隠蔽兼ねて部隊が全て片付けた。
だが彼女らはどうやら忘れ去られてしまっていたらしい。
洞窟の中は中途半端に涼しいこともあり、完全に白骨化しきっていないのだ。
その様は、俺達の業の重さを物語っていた。
「伍長!ってこれは!?」
そこへ中尉達が駆けつける。
思わず中尉は尻餅をついている。
「中尉、頼みがあります…」
俺達は運搬車に積んであったスコップと手袋を使い、その二つの遺体を洞穴出て直ぐの土に埋めた。
洞穴近くにあった形の良い石を墓標に見立てて……。
本当ならもっと真摯な対応も出来たかも知れない。
だが敵の潜伏しているリスクも考えるとそこまで時間もかけられない。
この辺りは全て中尉が手際よく指示してくれたお陰で時間も殆どかからなかった。
そして車両に戻って基地への帰路へつく俺達。
あの二つの遺体に関することは誰も深く聞かなかった。
俺の独断行動も咎められなかった。
異を唱える人間がこの部隊に一人もいなかったのが最大の幸運だろう……。
当初の予定よりかなり遅れて帰還した俺達。
救援不要と言いながらここまで遅れた事に関しては、中尉が上手く纏めてくれた。
基地責任者はイライラしながらも中尉の話を呑む。その時だ。
「大佐!」
伝令が慌てて駆けつけてくる。
伝令の話を聞き、イライラの表情から至って真面目な真顔に変化する基地責任者。
基地責任者の話を聞き戻ってくる中尉。
「皆帰ってきて早々だけど、5時間後にまた出ることになる。仮眠はしっかり取っといてくれ」
「どういう事です?」
俺は疑問を投げ掛ける。
補給任務は済ましたし暫く出撃は必要無い筈……
「マルティナ師団の一部の部隊が味方の新兵器で被害を被ったらしい」
「味方を巻き添えに!?」
「嘘だろ!」
周りの兵士達がざわつく。
(とうとう味方も遂に巻き添えにしたのかこの軍は……)
俺はそんな悪態をついたがどこか冷めていた。
皆どこかで裁かれるんだと察し感じていたからだ。
中尉は周りを宥めている。
(でも新兵器って……)
新兵器という言葉に俺は色々不穏なモノを感じるのだった……。
(続く)
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