第13話 夢で見たから
夢を見た。
霧が立ち込める空間。
目の前に凄く可愛い美少女の後ろ姿が見える。
流れる様な金髪の髪。露出は少ないが、均整と出るところはしっかり出てるだろうボディライン。
頭を覆う特徴的なローブ。
(どこかで見た覚えが…あぁ!)
ギルド立ち入り調査の際に出会った冒険家ジークの仲間の少女だった。
殆ど会話もなかったが愛想も良くて顔も良いというのが俺の第一印象だった。
正に文句無しだろう。
神は持つ者に二物も三物も与えてしまうモノだなと感心してしまう程。
最も冒険家の職がよく分からない俺には彼女が何者なのか分からない。
あぁ言う感じのモノを僧侶……神官と扱う感じか?いやだがそれにするとやや砕けた部分も……
杖だったり回復魔術ってモノを使えてはいたが。
(君がいたら彼女は救えたのかな……)
思わず他力本願な感想を感じてしまう俺。
そもそも回復魔術ってものがどの程度の力を持っているのか分からないから尚更俺は彼女に対し、過度な想像ばかりを広げているのか?
まぁそれはそれとして挨拶をして去ってゆく彼女をひたすら憎々しい顔で見届けていた若作り年増ンコの顔はお笑いだったぜ……。
(最も俺も年上なんだがな…)
そう俺は自虐する。
軍隊で兵隊やる年齢の俺だ。
初見で見た彼女は明らかに思春期少し越えて本来なら学園なんてモノで優男の教員か、相手を選ばない遊び人に貞操捧げても可笑しくなさそうな年齢の少女に見えた。
そんなモノばかり溢れている土人国家が俺の前世って奴なのだろうか?
まぁ金があろうが無かろうが女を学問みたいにマトモに取り扱うと録でもない事になるのは事実だが。
若い子に勝てないなんて言うのは若い頃勝てた人間の話だ。
そういう意味では俺はキジョウのような素直な反応は出来ないだろう。
(夢…故か…)
彼女は振り向かない。
最も夢と言うのは理想だ。
自分にとって大切なモノがあれば、それが出てきてくれるのかも知れないが皮肉な事に異世界で自我認識したての俺にはそんなのない。
(じゃあ俺が彼女を夢に出したのは何故だ?)
ある種我欲が最も素直に向いた人間の実像が目の前に写っているのかも知れない。
(まぁこの異世界って奴で俺が一番最初に見た美人ってのもありそうだな……)
これが死人の怨念で無いのは、俺がお気楽な最低野郎だからか………或いは手にかけてしまった彼女が優しかったからかは定かではない。
(今は夢で邪魔もいない。遮られた鬱積…はらさせて貰う!)
「おーい、お、女!」
いと-えーんっっっ!!!
悲しきかな。
彼女は全く振り向かない。
「・・・・・・・」
あんまり態度がアレなのも腹立つな。
美人だからって高飛車なのは流石に論外なんだが???
「こんなシャイな態度してやってるんだ!少しはほくそえんでみろよ!!」
俺は強気に出る。
「?」
すると彼女は振り向く。
「よう、お前」
「は?」
その姿はあの時会ったエルフのカミュになっていたのだ……。
「はっ!?」
俺はそこで目が覚める。
そこはテントの中だった。
「本当…夢だな…」
俺はぼやく。
フォレスト側を待ち伏せ迎撃は俺達の軍の大勝利となったそうだ。
開始して即脱落してしまった俺だが、聞く話だとあの後直ぐに此方側が攻勢に出たらしくフォレスト側は戦力の5割を損失。
大して此方側の被害は1割満たないと言う完全勝利だ。
まぁあの時に横にいた兵士は頭に穴が開き、俺も身体に穴を開けた訳だが……。
とはいえ事実上フォレスト軍は作戦行動が不可能になった。
それくらいの勝利なのだと言う。
実際周りの兵隊達も戦勝ムードに溢れ返っている。
(俺だけが取り残されている……そういう事なのか?)
残存兵力はそのまま後退したり密林地域にバラけるように潜伏したりで散々らしくこの時点で俺達の国は戦争に勝利したのだった。
だがやっぱりここは異世界。
この状況で和平なんてやる気は全く無いらしくドドスコ少将の師団は別の師団と協力してフォレスト領そのものへの進軍を開始し、マルティナ中将の師団は残存戦力の掃討に加えて追撃部隊を編成していた。
俺は負傷した事もあり、しょうもない夢を見た後ほどなくして、この駐屯地の更に後方の補給基地に併設された病院に移されることとなる。
一方熱の原因に関しては…
「先生…そういや俺の病気は?」
「あぁそれだが淋病だったぞ」
「え、マジ?」
流行り病もあるらしいが、俺に関しては全く関係ない性病だった。
「アリスンが……いやあの後も結構回ったし……っ!」
変に思い出してしまい疼きが痛みに変わる。
熱そのものは疲労らしい。
昨日の晩どうやら失禁していたらしく、その時の尿に膿があったという。
更に匂いが酷く周りが医師を呼んだ事で発覚したらしい。
夢の少女がいきなりカミュに変わったのにはこんなカラクリがあったとは……。
恥ずかしさ、申し訳無さ、暫く女遊び出来ない悲しみが渦巻く一方、一応この世界でも抗生物質があった事に感謝する俺。
「よぉ二等兵!」
その時俺に声をかける男が。
懐かしい奴だな。
「伍長…」
伍長は売店で買ったという炭酸飲料を俺にくれた。
「マルティナ中将の師団じゃないのか?」
「また戻るよ。追加の物質補給で一部の部隊がこっちまで戻ってきたんだ。俺ドライバーだし」
「わざわざすみません。だけど俺が入院したのよく分かりましたね」
「前線でガニ股で弾受けた奴が居るって事で名前を聞いたら案の定お前だったからなぁ、ハハハっ」
「そりゃどうも…」
何か結構色々有名になってしまったらしい。
これは正に異世界に来た主人公らしい展開とポジティブに捉えるべきか?
「とはいえ、本当無事で良かった……」
伍長は本当に安心したようにそう言う。
考えてみれば伍長はやたら俺に親切だ。
それもまるで兄弟のような……
少し気恥ずかしいので話題を変えることにした。
「とはいえようやく戦争も終わりそうですよ。そしたらこの前線ともおさらば出来ます」
正直ロクな目にあってない。
反戦とはいかなくても二度と来たくないという気持ちがこの時の俺は強かった。
「そうだな…」
伍長は頷く。
「そしたら軍曹や兵長の居る後方に戻りたいですね」
「……俺は軍を辞めるよ」
「………」
伍長は静かにそう言った。
俺も反応は意外と思ったが驚きはしなかった。
他の前線に出た連中と比べ、短いとは言え軍が嫌になる理由は十分ありすぎた。
「彼女がさ…実家に帰るって事でさ。俺も任務が終わったらついて行く事にしたんだ」
「良いことだと思います」
彼女とはあの飯屋のウエイトレスの事だろう。
聞いた話では彼女の家は農家らしい。
一人娘で跡継ぎも欲しかっただろうから正に万々歳といった所か。
若くして平和な時から軍隊に入る人間は大体皆帰る家がないらしい。
一般家庭やボンボンの一兵卒もいるだろうが、それよりやっぱ分母は行き場の無い奴らだ。
かく言う俺もこの世界では孤児らしい。
転生前の前世で親だのなんのの感覚があるからぼやけているが。
マシかどうかは分からない。
だが下手に親子関係に固執していれば奴等のパーソナリティを思い出すだろうから最低限の大人として俺は前世を全う出来たのだろうか?
まぁやはり両親なんてモノを考えると恨みつらみがあったんじゃないかという勘繰りを感じてしまう事も多いのでもしかすると大人として死んでいない可能性が高そうだ。
何より仮にこっちの世界にも両親なんていたらそれはそれでパパママが二人!?
なんてオーバーリアクションをしたのだろうか。
俺からすればこんな皮肉な話だが、伍長もこの世界の俺と似たような境遇の人間なんだろう。
そういう意味ではようやく帰る家を見つけたのだ。
「じゃあ俺行くわ。お前も元気でな」
「収穫出来たら何か下さい」
「分かったよ。だけど有料な」
「現金ですねぇ~」
そんな感じで話を軽く交わした後に伍長は任務に戻っていった。
伍長がいなくなった後、俺は窓の外を眺める。
青空だった。
(終わるんだな。ようやく)
だが喜んだのも束の間だった。
俺達の国が圧倒的に優勢で敵は既に壊滅状態にも関わらず、伍長と再会した二週間後も状況は進まなかったのだ………。
(続く)
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