第12話 人も動けばたまに当たる
部隊と合流した後、俺は諮問された。
「何故上官に暴行を加えたのだ?」
「以前少尉にタマを握って貰えたおかげで緊張がとれたからです。強い刺激を与えれば多少は正気に戻る筈でしょう?」
「そうかそうか」
そんな感じで俺の上官暴行は不問にされた。
最も少尉をカタワにした相手を俺が始末したことが評価されたらしい。
それに少尉と違って俺はまだ肉盾としての役割を果たせるからな。
そもそもあそこで軍の部隊がやっていたのはただの無差別虐殺に過ぎない。
最も軍はそれを隠蔽する模様だ。
主だったカメラマンはマルティナ中将の師団と同行してる。だからバレないと言う考えだそうだ。
記録なんて生身の人間の心の中だ。
それも実質最前列配備に転換という形で摘み取るみたいだが。
(生き商人の数は減らしたいと言う算段か……)
あれから偵察機が進軍するフォレスト軍を発見したらしい。
(じゃあ人間が偵察した意味って……無いだろ……)
最も複葉機が主のこの世界では情報精度を高める為にも生身の人間の偵察も重要だったらしい。
更に言うとフォレスト軍は予想より進軍が遅いとの事。
ドドスコ師団は塹壕やバリケードの張られた陣地近くの平地まで誘き寄せ、これを迎え撃つという作戦に出る。
壕陣地の強化や此方側の疲労を減らし、逆に敵の疲労を更に蓄積させるという判断に出たらしい。
平地に敢えて展開された敵の迎撃部隊の中に俺もいた。
「敵を迎え撃ちつつ壕まで後退する。戦車隊に航空部隊も爆撃をしてくれる。味方の弾にやられるなよ」
士官が俺達をそう鼓舞する。
配置されている戦車群は既に回転砲塔式のモノだった。
反面空を飛んでる味方の飛行機は小型の複葉機だった。
(アレで爆撃?)
と思った時だ。
アフィィィボォォォン
雲を抜けて巨大な物体が姿を現す。
「飛行船かよ…」
かなり低高度を飛んでいるが落とされないか?
と不思議に思ったが獣人の主要武器は確か槍などの接近武器だったのを思い出す。
射程外だと言うことなのだろうか。
(これなら俺らの方が有利か?)
俺は一瞬そう考えた。
そして……
「敵だ!」
誰かが叫ぶ。
(来たっ!)
俺にも見えていた。
「構え!撃て!狙え!」
上官が叫ぶ。
無差別畜生ベーシック!
ビジネス感覚で戦争だ!
罵りあう愚民共を殺戮したい。
だな俺を守って生き絶えたはずのお前さぁ。
だが、この手は血で汚れすぎた………二つ不敵なヤサ男の陣営は儀式敵しスパルタは火蓋が切られたのだ!
(槍持ってウラァァみたいにスパルタかよ!この距離なら弾の方が早い早い!)
ドドドドドッ
俺達は後ろに退きながら銃撃を加える。
(あんな事があったのに撃てるって……俺は狂ってるな……)
最も他の連中も撃ってるため、誰の弾が当たったのか分からない感じもある。
ある意味躊躇無く撃てるのはそうした集団心理も大きいのだろうか。
前列の敵は倒れたりしているが怯むことなく迫ってくる。
だが……
(敵の数多くね…)
弾は割りと撃ってはいる。
しかし敵はどんどん数を増えてく勢いだ。
飛行機や飛行船、戦車や砲台も撃ったり、爆撃しているのに……
「ヤバイぞ!相手の物量で押し返されそうだ!」
ザザザザザザッ
いつしか俺達は走り始めた。
壕の方に。
物量で押されてるのを感じた瞬間だった。
ブサッ
「ぐはっ!」
横の兵士が倒れる。
一瞬そこを見るが、槍が投げられた訳じゃない。
(これは…銃弾!)
なんとフォレスト側も銃火器を携行している兵士が槍兵に混じって相当数いたのだ。
「急げ!こっちだ!」
壕にいる兵士が両手で強く手招きしながら俺を呼ぶ。
(もう少しだ……)
と思った時だ。
ズキューン!
「えっ!?」
ユラッ
俺は後一歩の所で倒れる。
消えゆく意識……痛みは無論更に苦しみが増す。
「いてえ……いてぇ…………いてえ!いてえ!いてえ!いてえ!いてええええええ!!!」
そんな中フラッシュバックする記憶……
その中でも特別写し出たのは前に撃ったあの少女の姿。
更に真っ白な背景で後ろ姿を見せた彼女は俺に振り返ってくる。
(あっ……)
「よくも……お前!」
スゥゥゥ
赤のバックに目が無く血を流し化け物ように変貌して此方を睨む彼女の姿。
「意識を失うな二等兵!」
大声で俺に叫ぶ男の声。
「…ぐッ…」
その少女の姿は脳裏から消え辛うじて意識が繋がるように。
朦朧としていた俺を壕の兵士達が引きずって入れてくれたのだ。
「す、すまない…」
感謝を述べる俺。
俺はそのまま衛生兵にテントへと運ばれた。
当たったのは一発。
銃創は出来ていたが致命傷にはなっておらず、弾も取り除かれた。
何より俺を助けた壕の兵士達の初動対応が良かったらしい。
「今後ロトを買っても絶対当たらん位の奇跡だな」
軍医はそう言う。
「なん…で…獣人側に…はぁはぁ…銃…?」
「ギョクザが型落ち武器を流してるの知ってるでしょ君」
医者が呆れた様に言う。
どうやらこの国と対立してるベーシック国家のギョクザ帝国製の武器らしい。
前線に行かされたが俺は知らなかった。
記憶喪失の弊害か。
だがうっすら軍曹も流れ弾や銃弾に関することは言っていたような言わなかったような。
だが、今はそれどころではない。
銃創には綿も詰められ止血もされてるが撃たれて意識が戻りはじめてから妙に身体が熱い。
それもどんどん熱くなってゆく。
「先生…熱い…」
俺は症状を訴える。
撃たれたのが原因かと思ったがどうやら違うらしい。
軍医は症状を見ると俺を直ぐに病人用のテントに移動させるよう衛生兵に指示した。
一床ずつ仕切りのつけられたテントへ移され処置が施される。
(盾にすらならんとは…本当俺は役立たずだな……)
だが活躍云々は複雑な心境ではある。
しない方が良かったのは確かだが。
(生き証人になれと?……もっと上手い奴がいるだろ……)
果たして真実を告白できる機会があるかは定かではない。
そして気付けば麻酔がかけられたのか定かではないが俺は意識を失うのだった……。
(続く)
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