第10話 最前線到着
トラック荷台の両隅に設置された座り心地の悪いシートに、俺達前線に向かう連中は敷き詰め流ように座らされる。
重苦しい雰囲気の中、動き出すトラック群。
公道を走っていた時は良かった。
だがやがて道無き道を走り始めたらしく乗り心地は超絶☆悪化!!
しかも季節は暑いのに空調無しだ。
(あぁあついあついあとぅいアツい!あついっすあついあついあついあつい!)
元々温暖な気候になり始めたが異常だ。聞いた話だとフォレストの方は俺らの国より更に今の時期暑いらしい。
つまり少しずつ、目的地に近付きつつあるということだった。
「へぶしっ!!」
横で仲間が咳をした。
異様に顔も赤い。
「おっ、大丈夫かお前?」
「あっ、あぁ大丈夫だ…ははっ」
無理に元気そうな表情するなっ!
と言ってもトラックが止まるまで軍医にも見せられそうにはない。
(イきの良い連中集めたんじゃないのか?)
俺が乗ったトラックは異様なまでに体調の悪い連中で溢れかえっている。
まさか流行り病?でもそれなら…
(凄く…密です……)
初手から俺は運に見放されていた。
前線の駐屯地へ到着した時は心なしか体調が優れなかった。
とは言え、彼ら程じゃないし単純に緊張から来る体調不良だろう。
うつるには早すぎるし。
俺の乗っていたトラックの連中は俺含め全員軍医に見せられた。
が特に平熱で異常が無いという事で俺他数名はすぐ解放された。
他も酔いが大半とかなんとか。
いまいち分からん。
そして駐屯しているマルティナ中将、ドトスコ少将の二人がそれぞれ率いる師団に振り分けられる俺達。
(伍長は俺と別の師団か…)
移動途中で伍長らしき人物の影を見た時、マルティナ中将麾下の師団の方向に仲間と共に向かっていた。
「私が貴君らを指揮するドドスコ・S・ラックマンだ。ここに来たことは大変誉れ高い事だと言うことをまずは皆認識して貰いたい。愛する祖国を土足で踏みにじった害獣共の駆除もようやく終息の目が見えてきた。諸君らの健闘に期待する」
俺が配備された師団の御大将様が偉そうに挨拶を述べた。
少将だけど。
その後、師団の更に下組織にあるそれぞれの役割を持った中隊や大隊に仕分けられる事になる。
俺は何故か偵察中隊に配属されていた。
そもそも最前線行きとは言え、ある程度は元々やっていた役職のモノを引き継ぐんじゃないかと思っていただけに驚きを隠せなかった。
まぁ何かって出来れば後方支援のままが良かったんだよね。
「お前もしかして仲間か?」
そう言って俺に誰か声をかけてきた。
「あんたは?」
やたら軍人にしては肌の綺麗な青年兵だった。
「ジョルダン・シンガリオン兵長だ」
青年ことジョルダンは名乗った。
そして暫く話をすることに。
「ドドスコ少将の師団だからな。お互い運が悪かったと思うしかない……」
「どういう事だよソレ?」
「戦下手で、この師団も消耗が酷いんだと。兵員の適正無視が多いのは消耗酷くて補充が追い付かないとか。君に限らず結構聞くぜ」
「嘘だろ……」
「貴様らぁぁ!!!」
そこへ上官がやってきた。
「誰です!?」
ズドーンッ
自己紹介代わりの顔面鉄拳。
(いきなり顔面を平たいステーキにする勢い……人をミトンと見違えたのかッ!?)
心では平静を保とうとするがめっちゃ痛い。
露骨な正面狙いなのもあって確実に軍曹の様に慕える相手じゃないのがはっきり分かってしまう。
「出発だ!支度をしろ!」
偵察中隊は更に複数の小隊に分けられた。
俺はジョルダンと俺の事を殴りやがった好かない少尉と共に、密林の中へと入ってゆく事に。
「いいか、他の連中より先に敵の本丸を見つけるぞ」
少尉はやる気満々だ。
下手な冗談が通じる相手じゃないので、俺達はただ黙々従うことに。
だが少尉の猪突猛進ぶりは正直引くレベルだった。
「他の味方から離れ過ぎでは?」
「何言ってる?偵察は敵を見つけるのが仕事だろ?」
「そりゃそうですが、仲間と協力して…」
「偵察役が仲良く同じ道を集団歩行と?貴様ガイジか?その道に敵がいなかったらどうする?何故そんな事を聞くんだ?」
「それは……」
その点は正論かもしれない。
そもそも少尉が草(リーフ)バードを持ってるから、敵を見つければ直ぐ様伝達出来る。
車に無線機があるこの異世界だが、まだ小型化はしていないらしく草(リーフ)バードなる鳥を使って陸上部隊は伝達を行っている。
他の偵察に出てる隊もそうだった。
(死にたくねぇから……)
なんて言えない。
なんか積極的に能力でもあれば逆にバンバン戦場に向かうんだろうがな。
本当、無力って奴は人を弱くするよ。
「二等兵、少尉の言う通りだぞ!何のためのスリーマンセルだと思ってる?」
ジョルダンが少尉につく。
胡麻すりか?
その時だ。
「オイ!あれを見ろ!」
少尉が何かを見つけたらしい。
(まさか…敵…!?)
だが敵ではない。
そこは複数の田園や家屋の立つ集落のようだった。
俺達三人は一旦茂みに隠れる。
少尉は手に持つ地図と方位磁針を出して現在地を再確認する。
「お前ら行ってこい!」
「は?」
ズドーン
また殴られた。
不覚にも涙が溢れる。
「情報収集だ。あの家の造りはベーシックのだ。今は敵の手に落ちた土地とは言えな……」
だから協力的なハズだと少尉談。
ほんとぉ?
「無人では無いんですか?」
「なら尚更調べる必要がある」
(ですよねー)
他の選択肢はない。
「行くぞ。二等兵」
「わっ、了解しました!」
俺はジョルダンと共に集落へと向かうことに。
「あまり怖がるなよ二等兵、ただの集落だ。それに万が一の為の信号弾がある。ピンチになれば少尉も伝達を出すだろうし直ぐに仲間が来てくれるさ」
ジョルダンは俺を宥めた。
そうして俺とジョルダンは真っ先に見えた民家に入る。
「鍵無いのか…幾らなんでも無用心過ぎる」
元々は鍵付きの一軒家みたいだがドアが外されているのだ。
獣人が暮らしやすい生活様式に住まいも改装(リフォーム)されたと言うことだろうか?
「やっぱり無人なのか…」
この家本来の住人がどうなってしまったかはあまり考えたくない。だが…
「妙だな…その割にやたら生活感は残っている」
屋内を物色するなかでジョルダンが呟く。
確かに無人の家の割に人が住み着いてる痕跡があらゆる所にある。
その時だ。
「およっ?」
「え?」
振り向くとそこには見慣れぬ幼い女の子が!!
(可愛い…)
将来有望そうなのもあり、こんな状況で一瞬見とれてしまう俺。
だが彼女はベーシックではなかった。
「あああぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁ獣人ん!!!!」
その姿を見たジョルダンが発狂する。
そして女の子に銃を向ける。
(なっ!何やってるんだジョルダン!!)
「やめろ兵長!民間人!いや子どもだ!」
すかさず俺が止める。
流石にジョルダンも銃をおろすが発狂は止まらない。
「うわぁあぁぁぁ!来るなぁぁぁあ化け物ぉぉ!!」
「きゃっ!?」
女の子にぶつかりながらもジョルダンは発狂したままそのまま外へ飛び出す。
「オイ君だいじょ…!!」
ドンッ!
「えっ、マジかよ……」
俺が尻餅ついた女の子に近付こうとするとその間に農具らしきものが勢い良く地面にめり込んでいる。
こんな技はベーシックの出来る技ではない。
彼女の親や仲間達が戻ってきたのだ。
此方に迫り来る親らしきものが俺の視界に見える。
(正面からは出れねぇ!)
万事休すかと思った俺は背中に窓があるのに気付く。
そこにありったけの体力を使ってタックルし外へ出る。
バリバリバリアファバリバリィ
「きゃあぁぁぁ!!」
女の子が悲鳴をあげる。
それと同時に集落の人間の殺意が高まっていくような気配を感じた。
ダダダダダダダッ
(逃げなきゃ死ぬ!逃げなきゃ死ぬ!逃げなきゃ死ぬ!)
俺は無我夢中で逃げる。
シュゥゥゥゥぅルルルぅ
「!?」
別方向から信号弾が上がるのが見えた。まさか少尉か?
ドドッ
更に銃の乱射音が一瞬だけ鳴るが本当に一瞬で直ぐに止んでしまった。
(クソッ出きれないか!)
集落を出きれないので止め得ず家の物陰に隠れる。
ギラギラギラギラッ
(すごい殺意だ……見つかったら間違いなく死ぬ!)
だが見つかるのは時間の問題だ。
(クソッ!)
ダラダラダラアダフィダラダラダラッ
汗が止まらない。
ガタガタガタアダフィダラダラダラッ
足の震えも止まらない。
そんな万事休す時にだった……
「こっち!」
「えっ?」
小声で誰かがそう言って俺の手を誰かが引っ張る。
引っ張られる方向に俺も無意識につられる。
目の前には彼らと同じハズの獣人の少女が。
真意は定かじゃないが彼女が何となく俺を庇おうとしてくれてたのは分かった。
(この子……何で?)
かくして俺はひたすら彼女の手を引く方向へ共に走ってゆく事に……!
(続く)
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