第8話 赤髪の冒険家

俺と伍長はドアを破壊して突入する。



「!?」



目の前には異様な光景が広がっていた。


横に倒された机に干された布団みたいになって動かない役人と、首から上が天井にめり込み吊るされた形の役人の二人。


そして怯えるタガメを後ろに下げて庇う赤い髪の青年。


どうやらベーシックのようだが……



(それと仲間の二人は……)



更にその仲間が二人がタガメをガードするようにして立っている。


一人は獣人の美少女でやたら華奢な身体に似合わない重装備な鎧と盾を持っている。明らかに俺より年下そうだが……



(もう一人はベーシックなのか?いやしかし……)



もう一人は杖を持っている。占い師がつけてるようなローブのついた帽子はやたら彼女の周囲を隠すような感じだが、流れるような金髪と澄んだ目や人形のような可愛らしい顔はハッキリと分かる。


分からないのは彼女が耳周りを全く露出させていない為だ。



そして彼らの目線と相対しているのは、二人を干したと思われるいかにも強そうなゴツい大男だ。



「貴方達…」



タガメが目の前にいる彼らに反応している。


かなり困惑している様子だ。



(何があったんだ!?)



俺は思った。



「ジークてめぇ…何故そいつらを守る。そいつらはこの国の役人だろ!」


「デイオ…お前こそ何でこんな真似を…」


「うるせぇ!!」



大男、もといデイオはいつの間にか取り出してた大剣でジークなる赤髪の青年に飛び掛かる。



「ジーク君!」



仲間の一人と思われるローブの美少女が叫ぶ。


だがジークは冷静だ。



スパッ!



デイオが大剣を振り落とすよりに先に、ジークが一閃を放った。



「なっ!?」



驚くデイオ。



バキバキアフィバキバキィ



次の瞬間彼の大剣の刃先は真っ二つに折れ、同時に肩から一気にデイオが崩れ落ちる。



「くっ、お前また強くなったのか………」



デイオが吐き捨てるように言う。


そして彼は倒れた。



「一撃で…」


「いや三回斬ってる……」


「えっ?」



伍長の指摘に驚く俺、よく見るとデイオの両肩には傷があった。


伍長曰く目にも止まらぬ早さで三回攻撃したらしい。


んな馬鹿な!!



「はーいそこまで」



バチバチバチッ



「!?」



あからさまな拍手と共に直ぐに俺達の真後ろから兵隊達とその上官らしき人物が入ってくる。


細目のボブカットが特徴の男だ。


年齢は30代程だがかなり整っている。


俺達が呼んだ隊にしては早すぎる。



「憲兵団……」


「マジ?」



まさかの憲兵団だ。



「ウコウさん!?」



ジークの仲間らしき獣人の美少女が彼の名前を知っていたらしい。


ウコウは入って直ぐジークの元に向かう。


一方、部下の憲兵達は倒れているデイオを取り囲んだ。


俺達はタガメの元に向かう。


ジークの仲間のローブの美少女がタガメに魔術らしきものを使っている。


軽くキジョウも負傷していたらしい。



「魔術が使える?」


「このクラスなら大丈夫です……っ!?」


「んっ?」



一瞬目が合うローブの美少女と俺。



(改めて凄い美人だな……いや年下か?)


「…………」



彼女は何事も無かったかのようにタガメの治癒を続けた。



奇石が使われているエリアで平然と魔法が使える時点で彼女も相当な実力者のようだ。



「どういう事?何故憲兵が…」



一方タガメはウコウに向かって投げ掛ける。


憲兵団の介入はタガメも予想外だったらしい。



「我々とてこの国の秩序を守る者ですよ……」



ウコウはそれだけ言って、直ぐ様ジークとの会話に戻る。


話を盗み聞きしたかったが、タガメの快方に加えて周りが騒がしい事もあり全く聞き取れない。


暫くして話は終わったらしい。



「一先ず今日は宿に戻ろう」



そうジークなる青年は仲間二人に言って、ギルドハウスを去ろうとしている。



(オイ、ちょっと………)



と言いたかったが、特に何も言えない俺。


そもそも一連の流れずっと蚊帳の外ですし。



「それでは失礼します……」



タガメを治療していたローブの美少女は俺達一人一人に律儀に一礼した後、ジークの後を追ってゆく。


ジークの仲間だが両方かなり可愛かったぁ~。


あ~声かけてぇなぁ~



(あっ?!)



ジーク達と外で合流した仲間にはあのカミュとアマンダがいた。


去り際、ほんの一瞬だがカミュは俺の事を睨み付けていた。



(フラグ0か…)



多分先程の流れも話題にのぼるだろうしな。


仕方ないね。


その後で俺達の呼んだ増援も来たものの、全ては通り終わった後だった。


デイオなる大男は憲兵達に連れていかれ、干されていた役人二人も片付けられていた。


タガメも程なく来た増援部隊の上官と共にどっか行った。


そんな感じで俺達の役人護衛は終わった…………。










そうして二日後…



「……転属?」


「……そうだ」



軍曹は俺達二人を呼び出し、苦々しい口調で俺と伍長にそう告げた。



「どこ行かされるんですか俺ら?」



俺はラフに軍曹に尋ねる。


栄転かな?



「それはだな…」



軍曹は告げる。


その直後、横にいた伍長が驚愕の表情で腰から膝をつく。



「伍長…」



かける言葉がない。


だって俺も一緒だし。


俺達は現在交戦している国家フォレストとの最前線で作戦行動をしている部隊に補充要員として送られることになったのだ。



「すまない…」



軍曹が謝罪する。



「らしくないですよ軍曹…仕方ない事です」



俺は言った。


記憶がかなり抜け落ちているからか不思議と冷静だ。


まぁ足はガタガタ震えてるんだけどね。


武者震いかもしれないよ……うん。


ここ最近俺達の国は少しずつフォレスト側を押し始めていた。


しかし前線ではやはり人が足りない状況だった。


だが最低限訓練してるとは言え、いきなり最前線で作戦行動している部隊に参加させられるとは……


前回の役人護衛任務が実質失敗したのも響いていそうだ。


最も前々からあらゆる後方部隊から生きのいい連中をかき集めているらしいし、まぁそこまで大した事を求められてないのだ。


生きて敵に兵隊として認識されれば問題ないのだろう。


最もいずれは来ただろう話だ。


出立は明後日。


崩れ落ち、横で柄にもなく泣く伍長。


それをなだめる兵長。


ひたすら苦々しい表情で悔しさを堪える軍曹。



(明日の晩飯は奮発しないとな…)



両足を震わせ俺はそう心で呟くのだった……。


(続く)

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