第7話 立ち入り調査・下

少し離れた場所に、タガメと役人二人を降ろした俺達。



「ついて行かなくて良いんですか?」



俺はタガメに尋ねる。



「貴方達を連れていったら抜き打ちがバレるわ。ハイこれ」



タガメはそう言うと俺に長方形の透明な塊を渡す。



「何ですコレ?」


「知らないの?私達に何かあったら赤く光るわ。そしたら直ぐに貴方達の部隊に連絡して頂戴。あと貴方達の命に代えても私達を守るのよ」


「え?何で??」


「護衛と言ったハズよ」



あぁそういう事かと俺は納得した。



「了解」



俺達は承諾する。


本心かどうか別として。



「ところでコレさぁ…バイブ機能とかある?」



俺は手渡された塊について冗談交じりに尋ねる。



「震動なんか出ないわよ。必要あるのかしら?」



タガメさんそういうの好きそうな気がするけど?



(清ましちゃってさぁ…)



俺は思った。


二等兵らしい下品っぷりだ。


順調に死んだ彼の後釜を継げる素質を育んでいるのかも知れない。



「いや、寝ぼけてたら気づかないかもなぁって……」


「仮に私達が死んだら貴方達もれなく激戦地送りよ」



彼女はそう笑って、二人の役人と共に冒険家ギルドハウスへと入っていった。



「本当に護衛……俺等なんかで良かったんですかね?」



俺は伍長に聞いた。



「あまり無駄遣い出来ないんだろう。護衛の賄いも税金だろ?」


「無駄に若作り出来る位に個人に給料渡せても?」


「独身貴族基準に考えるのは酷だって……目につくもの全てに難癖つける奴だっている。タガメの態度を見る限り、やるだけやってるって事は示したいんだろうさ」


「そりゃ分かりますが……」



イマイチこちらの世界に関する事が疎いからか、こんな末端二人だけで護衛というのがパッとしない。


伍長も俺も別に強者って訳じゃない。


対して俺が知る限り、冒険家ギルドに来るような人物達は、物語のメインキャストみたいな連中だから間違いなく強そうというイメージしかない。


こうしてる間にも俺の想像通りの色んな連中がゾロゾロ入って行く。


ムキムキ筋肉質な野郎や、魔術師の様な格好をした女性、赤い髪の剣を持った美青年、楽器を携えた優麗な女性など…



「そういや一般人も武器オーケーなんだ」


「剣や弓矢、杖とかは割りと自由。魔法に関しては要所要所街に沢山奇石を埋め込んでるから怖くないし、ベーシックが持つ分には此方は銃器で対処出来るしな」



伍長が説明してくれる。


奇石とは魔術をかなり弱体化してくれる石らしく、ベーシックの国では標準装備らしい。


そしてベーシックの国で魔法が廃れた理由の一つでもあるそうだ。



「アレ、もしかしてエルフか?」



俺は指を指して伍長に尋ねる。



「あぁそうだな。でも指差しはやめとけ」


「どうしてさ?」


「アイツ等目が良いからな。スモークガラスとはいえ見えてる可能性あるぞ?」


「別に挑発してないのは相手だって分かるじゃ?」


「獣人(フォレスト)と戦ってるとは言え、エルフも敵種族だ。下手に因縁つけられるような真似は止めた方が良い」


「確かに」



とは言え指を指したエルフは手ぶらのやや黒みのある青みある黒髪のロングの色白美少女だった。



(まぁどうせ女だ……怖くない)



俺は少し高を括って見る。



「ちょっと外出るわ」


「オイ待てって!気付かれるぞ!」



伍長の制止など聞かず俺は車から出る。



(あのエルフの少女に声をかけてやろう!なぁに俺は軍人だし不審者じゃない!)



ここ最近危険な任務ばかりでたまっていた事もある。


割りと見かけたエルフが美人だったのもあり、本分が抜け落ちてしまっていた。



「おーい!そこの可愛いき!」


「カミュ!!お待たせ―!」


「!?」



俺の後ろから、同年代の赤いセミロングの美少女が彼女に声をかけてきた。


その時……



「おっ!?アマンダじゃないか!」


「なっ!?」



声を聞き衝撃が走る。


なんと彼は男だったのだ。



「カミュ!?だと……」


「ん?なんだ君は……」



俺は思わず彼の名前を漏らしてしまう。


アマンダとカミュがこっちを見てくる。



(あぁヤバ…)



とは言えあまり警戒はされてない。


変な男位で済んだのだろうか?


俺は安心して車に戻ることにする。


しかし一言余計だった。



「ちくしょう男かよ……」


「はぁ!?」



シュバババババッ



不用心にも背を向けていた俺。



バンッ



「ぐはぁっ!」



いきなりカミュが俺の顔を殴ってきたのだ。


顔を殴られよろける俺。


痛いが威力は低い。


戦争が始まった後も耳人(エルフ)や獣人(ビースト)についてそこそこ知識を集めていたが、どうやら耳人(エルフ)はあまり腕っ節は強くないらしい。



「大丈夫か!二等兵!!」



驚いた伍長が車から出る。



「いや大したこと……無い」



俺は駆け寄ろうとした伍長を車の前で止めさせる。


自分で立ち上がれるからだ。



「女々しい奴の拳なんて軽い軽い……」


「貴様ぁぁぁ!!女々しいだと!俺は男だ!」



なんと心の声が漏れていた。


カミュが再び殴ろうとしてくるが、アマンダなる少女に止められた。



「やめてカミュ!この人軍の兵隊よ!」



だがカミュは止めようせず、殴りかかってくる。


その時だ。



キラーン!!



タガメが渡した塊が光る。



「何かあったのか!?」


「二等兵!ギルドハウスに向かうぞ!」



バッシュッ



伍長は直ぐ様車の無線で軍に連絡し俺に小銃を投げ渡す。



「さっきの礼だ!」



アフィドッンッ



「ぐはっ」


「カミュ!」



俺はカミュを銃の持ち手で殴り飛ばして尻餅つかせる。



「邪魔だ女!どけ!」



エリエイドッンッ



「きゃんっ!!」



強引だが進路の邪魔になったアマンダの肩をぶつけ飛ばし、俺は伍長と共にギルドハウスへと駆け出したのだった………。


(続く)

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