第4話 停戦破れる!
唐突に響く爆音に立ち上がってゆく黒い煙。
そして程なくして無機質な音色の警報と、凄まじい銃声音が止まること無く聞こえ始める。
「ちょっ!?一体!」
「なにぼさっとしてんだ!」
「軍曹!?」
「身を守るんだよ!伏せつつ銃を構えろっての!」
「はっ!はい!」
そんな流れで俺達の小隊は戦闘に巻き込まれる。
といっても積極的に敵を迎え撃つ役ではない。
奇襲(?)と思われるのでまず部隊の物資や車両の護衛らしい。
内一つの車両を軍曹は自身の小隊を二手に分けて守備させる。
右側で軍曹、兵長、伍長が、左側を二等兵と俺が担当した。
左側は爆音と真逆のベーシック側領土の方だ。
(勇敢な人達のお陰で何とかなりそうか?)
俺は軍曹の配慮に感謝しきれない。
あんだけキツい鉄拳加えても部下思いな男なんです!
一生ついていってやりますよマジ!
銃声や轟音は相変わらずだ。
だが…
「ヘッ、心なしか穏やかになってきた気がするぜ」
「え?」
二等兵が言ったので思わず疑問の声が出てしまった。
まぁ確かに奇襲から少し時間が過ぎたが、音は穏やかになってるような気もしなくはない。
「大した事ねぇんだよ…獣人なんて…」
二等兵は紙切れを溢しながらポケットのタバコの箱を取り出す。
そして吸おうと火をつけようとしていた。
だが……
「二等兵!!」
俺は気づいた。
倉庫真上に猪や虎の様な姿の人間が槍を持って二人いたのだ。
そしてすかさず俺達二人の方向に飛び降りてきた。
「覆面!?」
顔と首から下の肌の色が違う。
被り物だったのだ!
「戦装束、獣人兵だ!」
ドドドドドッ
すかさず軍曹、伍長、兵長が小銃を撃つ。
障害物など殆ど車や小さな物置レベルの倉庫しかない。
にもかかわらず二人は小銃を軽々回避してゆく。
(これが獣人!?ホントに動きがおかしいぞ!)
「うわああああああああああああ!!!」
二等兵が大声で叫んで持ち場から逃げてゆく。
「バカ!離れるな!」
軍曹の静止など彼は聞かない。
その時俺の視界に見えていた一人の獣人が勢いよく槍を投げつける。
ザシュッ!!!
「ぐえっ」
「二等兵っ!!」
槍は見事に二等兵を直撃。
刃先は首を絞めたようなガチョウの声を出した二等兵の口からはっきり出ていた。
そしてすかさず槍を投擲した獣人兵は突き刺さった槍の重みで膝をつく二等兵の胴体へと突っ切って行く。
獣人兵はすかさず槍を引き抜いて膝をついた胴体を真上へ放り投げる。
大人の人間の体をこうも簡単に持ち上げて玉の様に上に投げる力に驚愕する間はなかった。
姿勢制御すら叶わない二等兵の身体はそのまま下半身の真ん中から串刺しにされたのだ。
ピクッ!
串刺しにされた胴体は物言わない。
しかし利き手の指が僅かに反応を見せた。
この間僅か数秒だ。
「あっ……あぁ……」
青ざめる間もなく俺は銃撃の弾幕を切り抜けたもう一人の獣人兵に刺されそうになっていた。
だがしかし……
ズドドドドドドドドド!!!
穏やかさとは真逆の轟音が響く。
それを聞いて一瞬俺を狙っていた獣人兵が躊躇ったのだろうか?
一瞬狼狽えた。
わずかな隙が出来る。
「クソオオオオオオオオオオ!!!」
俺は銃を撃った。
葛藤なんて無い。
葛藤なんて出来なかった。
「ぐっ!?」
俺の目先の獣人が片膝をつく。
何発か当たったようだ。
獣人の周りには俺が撃った小銃の銃跡が囲むように出来ている。
反動とか全く考えていない状況もあり、思った以上に当ててないのは分かった。
それでも俺が立ってたり腕を壊さなかったのは、転生先の兵隊としてのスペックなのか、俺自身の意地なのか定かではない。
だが片膝ついた獣人はまだ生きている。
ギラギラギラッ
明確に感じる殺意が強まっている。
「まずい!」
俺は銃を構えた。
カチャッカチャッ
だが引き金に重みがない。
弾切れだ。
(死ぬ!)
一瞬思った。
しかし…
ズドドドドド!!!
直後に三方向からの銃撃が片膝をついた獣人に浴びせられる。
バサッ
バサッ
そのまま蹲るように倒れる獣人。
二つの銃撃が止む。
だがもう1つは膝をついて動かない身体がその勢いで少し動く位まで続く。
「止めい!!」
聞き慣れた強い怒声。
「止めろ!伍長!」
軍曹は念押しに怒鳴った。
最後の銃撃が止む。
(もう一人はどこにっ!?)
俺はすぐさまもう二等兵の逃げた方向を見る。
そこには槍が刺さったまま顔を地面につけアメンボ姿勢で倒れる二等兵の亡骸と、力強く槍を握る二等兵のモノではない腕が投げ捨てられた様に地面にあった。
更に俺らの持ってる小銃より大口径の弾痕が沢山地面についていた。
「おーい大丈夫か!」
他の守備部隊が駆けつけてくれたのだ。
「はぁ……」
俺は全身の力が抜けたかのように両膝をついた。
……事は終わった。
俺が思っていた以上にこの地域でのベーシックの犠牲は少なかった。
だが喜ばしいことではなかった。
俺達のいた地域に差し向けられたのは陽動の囮で、数も少なかったのだ。
離れた別の国境を破り、獣人側はベーシックが統治するこの国の領土に進軍してきたのだ。
加えて陽動に使われた爆発は、ベーシック側の爆弾である。
更に爆発には魔術の痕跡があるとの事だ。
(破壊工作………そんなことってあるのかよ!?)
俺は今の状況を考察する。
最も心では平静でありたいと思い、直ぐに考えるのを止めた。
何より今の戦闘での後始末に追われてた事も大きい。
空の弾倉や、ボコボコになった地面、破壊された倉庫、そして死んだ人間の亡骸等…戦った後にはどうしてもこういうモノがでる。
完璧にしないにしても応急措置はしなくちゃいけない。
本来後方支援である俺達だから尚更やらされるんだろうけど……やりきれないし……心に来てしまうモノだった。
「なんか急に仕事が増えちゃったな」
処理をしながら伍長がいつもの口調で俺に話しかける。
「そうですね…」
俺は淡々と答えた。
気の利く言い方が出来るだけのタスクが今の俺にはない。
俺達はこの時、二等兵が殉職した周辺の場所を片付けていた。
そこで俺は衣類の布片を見つける。
おそらくズボンか……二等兵のではない獣人のモノだった。
しかしポケットはしっかり残っていて、無造作に突っ込まれた紙片が見えたので俺はそれを取り出してみる。
(これは…)
かなり焼け落ちていたが、それは二等兵が楽しみに俺に弁を振るう際に見せていたモノだ。わずかに残っていた獣人のイラストの一部が一致していた。
「なんだコレ?ボロボロでよく読めん。遺品か?」
伍長が俺に尋ねてくる。
「違う……違います」
敵兵のモノ。二等兵が執拗に狙われた原因の品でもあった。
「一緒に処分しましょう……」
「まぁ確かに」
伍長も納得したらしい。
そして軍医などの最終チェックが終わったが、今までは平和だったこともあってなのか棺が無かった。
加えて既に緊張状態で最前線という事もあり、一部の遺品以外は全てその場で焼かれることになった。
多分あの布の一部や紙切れも一緒に焼かれただろう。
平和は唐突に破られた。
だがあの紙切れの事実が物語るようにこれまでの平和はきっと偽りだったのかも知れない。
俺達は持ち運びで来そうな遺品と共に、都へと戻る帰路につく。
その途中で俺はぼんやりとこう思った。
(軍曹や伍長と一緒の方向だったら俺も死んでたかもな………)
と……。
(つづく)
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