第5話 腹が減ったらなんとやら

三日後の夕方に俺達の部隊は都に戻ってきた。



「なんか腹へったなぁ…」



俺は呟いた。


何も食ってない訳ではないのだが、正直移動中はミリヲタ飯みたいな奴ばっかだから味気なかったのだ。


折角都まで戻った訳だし熱や水気のある食い物にありつきたい。


そう思った俺は街に出て一件の飯屋に入った。



チャランチャランっ~



「おう、いらっしゃい!ん、君か。今日は一人かい」



店の店主が気さくに声をかけて案内してくれる。


どうやら行き慣れた店だったらしい。


「お、おう……そうなんだ、よろしく」



記憶喪失というのも面倒だからとりあえず誤魔化す。


俺はカウンター席に座った。



「あっ、兵隊さん!」



そこに一人のウェイトレス風の少女がやってくる。


わざわざ声をかけて来てくれたし口ぶり的にもどうやら知り合いか。



「ひ、久しぶり……元気だった?」



ぎこちない俺の反応。



「相変わらず繁盛してるので大変ですよ……ところで今日は伍長さん達とは一緒じゃないんですか?」


「あっ、それはだね…」



どうやらこの店には彼らとよく一緒に来ていたようだ。


まぁホントは俺も誰かを連れてきたい所だったが、伍長は今日は疲れたからパスらしいし、兵長は彼氏と会う約束があるそうだ。


軍曹は物凄い険しい顔してたからとても誘えない。


二等兵はもう居ないし……



「今日はちょっと一人で飲みたいかなぁ?なんてさ…」



折角久々の都飯だし辛気臭くなりたくない。


誤魔化した。


とりあえず俺はウェイトレスの少女からメニューを貰い吟味する。



(なんか肉食いてぇなぁ…)



という事で俺はオススメらしい煮込みハンバーグを頼んだ。



「珍しいな。君がそのメニュー頼むなんて」



店主がビックリしている。



「マジですか?」


「兵隊さんいつも焼きノンアフィッシュ定食頼んでましたよ。栄養バランスが良いとかで……それにいつもよりなんか明るいですね」


「明るいって?俺が?」


「伍長さん達と一緒に来るときは何時も凄い寡黙でクールな感じでしたよ」



三等兵でクール寡黙とは……


実は俺強キャラだった説。


まぁ要はコミュ障って奴でしょそれって



「あぁでも私……いつもの兵隊さんより今日の方が良いと思います」


「なんかどうも」



なんか褒められた。


わけわからん。


ともあれ異世界来て焼き魚食うのはちょっとな。



「ともかく今日はガッツリいきたい。頼む」


「OK、分かったよ」



他にも幾つか頼んで飯を待つ俺。


手持ちぶささがあったが、それはラジオから流れる話題で直ぐに消えた。


なんかラジオは熱弁を振るう若い女性とそれを聞く女性記者と言った感じのモノだ。



『つまり、ジェシコワルド家の空気は最低だったんですね?』


『そうですよ!彼らは平気で人を見世物にし女としての尊厳を奪いました。あの家は当主筆頭に最低な奴等ばかりです。あそこで女は!ただ隷従して言葉でYESというだけのマシーンでなければならなかったんです!』


『辛い思いをされたのですね』


『全くです。特に当主…ヲタクはその筆頭みたいなモノでした!』


「ぶぅぅぅ!!!!」



俺は思わず吹き出してしまった。



「おい、お前さん大丈夫か」



店主が声をかける。



「すまない…」



俺は謝る。


まさかヲタクの名前をこうしてすぐ聞くとは思わなかったのだ。


じゃあこの話の主は……



『それではリコさん。ヲタク・ジェシコワルドが今回の奇襲事件を裏で糸を引いていたと?』


『はい!ヲタク・ジェシコワルドは敵対国家のギョクザ帝国に加担していました。多くの連合国家が経済的に安定していき、それに伴い貴族の威光も少しずつ弱まっていました。多くの貴族が方向転換を行う中、過去の栄光にすがるしかないヲタク……いやジェシコワルド家は追い詰められてたのです。それで獣人国家フォレストのゲリラを使って事を起こしたのです!』


『獣人との友好路線も偽りだったと?』


『あんなもの形だけです。あの男は食事だけ、お話だけと私に言いながらどんどん関係を強要していきました。私があの男と会うきっかけになった友人も、最初は私達獣人との関係を良くするための架け橋だと言われ唆されていたんです!』


『そんな…』


『私達は売られたのです!!!』


『ヲタク・ジェシコワルドは獣人領側の遺跡発掘にかなり力をいれていたそうですが、それは嘘だったと?』


『あの男が発掘現場に行った事なんて一度もありません。見栄でいつも同行させながら別荘に私をすぐ放置。そしていつも別の場所に行っていましたよ!』


『それってどこか分かりますか?』


『私と会ったキッカケもあの男が遺跡発掘でフォレストに訪れた時です。反省する気など更々無いんですよ!』


『酷い話ですね…』


『私は22、ヲタクは47です。考えてみてください。あぁ…あぁ返して!返して!私の未来を!私が思い描いた理想を!』


『リコさんはこれからどうされますか?戦争状態です。我々はリコさんの仲間の国と戦うことになりましたが…』


『30年前の凄惨な争いで私達は学んだはずです。問題が一刻も早く終結し、元の友好な関係と差別が是正されることを願います。全ての獣人が戦争を望んでいはいません。過ちは繰り返してはいけないんです…ですから!!』


「……なぁ、音楽流してくれないか?」


「そうだな……分かったよ」



俺は店主に頼み、ラジオを消して音楽を流して貰った。



(二面性のある役者の話は人を困惑させるだけだ…)



そういえばヲタクはあの後行方不明になったらしい。


聞いた話では、奇襲の混乱に乗じてフォレストからギョクザ帝国に亡命したとか。


ベーシック、エルフ、ビーストの三種族の人類が仲が悪いのは既に知っていたが、どうやら同族間でも俺の元いた世界同様仲の良し悪しがあるらしい。


ヲタクは貴族としての地位が追い詰められていた為、この国の情報と引き換えにギョクザ帝国に亡命した。


しかしそれだけではネタが足りないため、フォレストと隣接している国境を緊張状態にして、この国の軍備をフォレスト側に傾けるよう画策したのだという。


軍事費は無限じゃない。


フォレスト側への軍備が強化されれば、ギョクザ帝国との間の国境軍備が一時的に弱まる可能性があるからだ。


話によればこの国はフォレストとは勿論、ギョクザ帝国とも地続きで国境を敷いているらしい。


だが目論みは外れ、フォレストは軍をそのまま進軍させてきた。


その結果、この国とフォレストはほぼ戦争状態となる。


ギョクザ帝国側がこの機会に攻撃してくるのではという話もあるが、幸いその可能性は無いという。


三族間協定なる……この世界のルールがあるからだ。


別種族に国が攻められた場合、同種族は敵対していてもそれを支援または静観しなければならないのだ。


この世界の国は主要種族を国を運営する場合明示しないといけないらしい。


この国はベーシック国家であり、ギョクザ帝国もベーシック国家である。


一方フォレストは獣人国家だった。


一見、同族同士での助け合いや戦闘抑止の協定にも見える。


が、軍曹達の話によれば全てのベーシック国家が必ずしも、ベーシックばかりという訳ではないらしい。


三族間協定上、三種族の内の中ではベーシックを主要種族とした国が多く、ベーシックを主要種族とすればいざ戦争になった時、同じベーシック国家から侵略を受ける可能性が無くなるからだ。


故にこれは結局、ベーシックが有利に事を進めるための協定にも見えなくなかった。



(素直に亡命だけしてくれればな…)



俺はそう思いながら食事を食べた。



「旨い。」



久々に食う暖かい飯は旨かった………。


(つづく)

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