第3話 迫り来る不穏

「はぇ~すっごい大きい…」



国境を始めて見た俺の感想だ。


思わず見とれてしまった。


正直俺の前の世界……というか、異世界に来る前の俺はきっと地続きの国にある国境を見たことないだんと思う。


海洋国辺りにでも住んでたのか、引きニートみたいな世間知らずだったのか、やっぱり単純に無知か記憶喪失の影響なのかは分からない。



「オイオイ驚きすぎだろ?まさか堀や塀の形も忘れたのか?」



伍長が軽くからかうように笑いながら言った。



「そうかも知れねぇ……いや嘘。知ってるんだけどさ」



写真や映像なら多分以前の俺だってしっ、知ってるし…



「アレだよアレアレ!ガキの頃はじめて親父お袋に連れてきて貰ってみた海を見た見たいな感じ」


「海ねぇ……俺は見たこと無いからイマイチ分かないなぁ……」


「マジ?」


「そりゃずっとこの国で生きてるからね。この国の施設で産まれてそのまま軍に入って……海ってどんな場所だろうな?」



完全な内陸育ちらしい伍長はそんな事を言っている。


どうやらガッチガチの内陸国に俺は転生したようだ。



「じゃあ、僕は行くんだ」


「ん?」



リコとか言うヲタクの嫁はマジマジ俺を見つめてくる。



「どっ、どうしましたか奥様?まさか俺のチャックの窓開いてるとか?」



ヲタクの嫁であるリコはまごうことなき美人だ。


だから俺は思わず狼狽してしまった。


いやぁ女免疫が高い訳じゃないからね、うん。


べっ、別に陰キャって訳じゃねーし……はいまぁそうかもなんだが……。



「いえ……記憶喪失という事でしたので大変だなぁ三等兵さんって思って……」



そんなバ葛藤してる俺なんぞ気にせず……ってか逆に心配してくれてるよリコちゃんさぁ~



(ひっ、人妻だろ?落ち着け!俺っ!)



「お仕事頑張ってくださいね、三等兵さんっ」


「はっ、はい~~」



こうして俺達はヲタクと嫁のリコを国境入口まで届けた後、補給物資の搬出を行った。


力仕事が多くて筋肉痛がヤバいんだ。



「ぜぇぜぇ…………ホントに俺は兵隊なのかよ……」



なんか働きなれてるとは思えない程筋肉痛が起こる俺。


まさか身体機能据え置きで転生とか?


それなら聞いてませんよホント。


まぁ元のスペックもよく分かんないんだけどさ。


そんな調子で作業が一通り終わった後、部隊は休憩を貰えたので俺は休んでいた。


間際に俺は見渡すように柵を見る。



「この先からもう別の国なんだな…っても思わず柵をラインにして反復横跳びしたくなるね」



筋肉痛の今やったらヤバいんだけど、何となくクタクタの俺を見て部隊の仲間の二等兵がほくそ笑んでいたので思わず強がって言ってしまった。



「そんな事したらあっという間に体が吹き飛ぶな」



伍長はそういって柵の先にいる複数の獣人の兵隊を指差した。


向こうにも国境を守る兵隊がいる。


警戒してるようだ。



(子どもでも大人5人並みに強いって言うけどさ…)



今一実感が沸かない。


それに彼らの身なりはかなり軽装で粗末な槍等を持ってる連中が多い。


それに比べれば、俺が携行させられてる拳銃は割りと整備が行き届いてる感じがする。


単純に使う機会がないんだろうけど。



「貧しいんっすね。獣人って……」


「ベーシックの金持ちに媚び売る奴も多いぜ。ヲタクの種壺なんて最たるモンだわ…………プアフィファァァ」


「種壺?」



タバコをふかし始めた二等兵が言った。


二等兵は俺や伍長より少し年上な感じの、如何にも職務に不真面目そうな男だ。



「あのリコって言う獣人の事ですか?」


「そうそう。あいつ前にゴシップ誌に書かれてたが、ヲタクが雇ってた数ある愛人の一人だったんだと。きっと鍛えた技で立ちまくりのヲタクの心を懐柔したんだ………ってな。あの女が締めるようになってからヲタクは獣人の肩をやたら持つようになったしな……ホント露骨だぜ」


「失礼よ二等兵。リコさんだってかなり苦労されてるハズなのに」



話を聞いていた兵長が二等兵に苦言を呈する。


目の前でこんな事垂れ流したら女である兵長はそりゃ不愉快に違いない。



「大分お前ら油断してるようだが、槍持ちの獣人程怖いものは無いぞ」


「「ぐっ、軍曹!」」



気づけば別の場所で上官と話をしていたハズの軍曹が目の前にいた。



「奴らは接近戦を最も得意としてる。しかも気配を消すのが上手い。森林に潜み槍のリーチを生かして不意の一撃だ……」


「だけどそれって魔物とかには対して意味なさげでは?」


「はんっ!」



バンッ!



「ぶべらっ!」



俺は唐突に軍曹に殴られた。



「ベーシックの俺の一喝にすら気付けずお前は地面に倒れた!これが分かるか?」


「それは…」



中々重い一撃。


確かに分かりやすく言ったものだ。



「良いか?相手を倒す上で必要なのは実力と効率だ。奴らにとってはあの装備こそ一番俺達(ベーシック)を討つ上で理に叶ってるって訳なんだよ」


「すみませんでした!」


「死んだ後笑われるような糞無駄話をするんじゃない!二時間後に都に戻るからしっかり準備をしろよ!」


「「了解!!」」



俺達は帰路につくための準備を始めた。



「はぁ…萎えるわ…」



準備の途中、二等兵が俺に話しかけるように独り言を漏らす。



「俺に用ですか?」


「用も何もあのお堅いクソジジィの事だよ」


「そんな人いましたっけ?」



何となくだが、俺はすっとぼけてみた。



「分かってるだろ?我等が小隊長様だよ」


「はぁ…でも俺もかなり府抜けてましたし……」


「アイツ古いんだよ……そして知らねぇんだ。今時の……毎にフォレストの獣人なんかその辺で満足に飯も食えず、ひ弱で飯くれって喘いでるのが大半だってのに」



無論二等兵は獣人の肩を持っている訳ではない。



「だからよぉ…任務終わって兵舎戻ったらここ行かねぇか?」



そう言って二等兵が見せたのは一枚のチラシだ。


やたら派手な色彩で薄着の獣人女性達のイラストが書かれている。



「これって…?」



多分大人向けの店だろう。


どうやら獣人の若い女専門で雇っているようだ。



「コイツら本当軽いぜ?俺は獣人が大嫌いだがアイツらの体は割と気に入っててよぉ…」


(うわぁ、清々しいまでにクズだ…)



俺もそんな大したこと言えないがそう思ってしまった。








その時だ。




ズドーン!!




物凄い爆音が辺り一面に響いた。



「何の音ぉ!?」



俺は思わず周りを見渡す。


そして直ぐに少し離れた塀から煙が上がっているのに気が付いた。


それが全ての物事が動き出す狼煙になるなんて、この時の俺は思いたくなかった………。


(つづく)

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