第2話 悪い夢を見て、目覚めたら

 一瞬だけ現実と錯覚するほどリアリティーのある夢を見ている。


 何度も見た悪夢、小5の時に経験した事故の夢。


 何度も何度も、だから分かる。


 コレが夢だって、何年も前に乗り越えた壁だって。


 上を見上げると嫌にリアリティーのある十数本の鉄骨が老朽化して千切れたロープを抜け落ちてくる。


 あの日、僕はアレに潰されて両手両足を綺麗に砕き頭蓋を大きく損傷して脳と脊髄に大きな後遺症の残る傷を受けた。


 内臓はグッチャグチャになって毎食何十粒か薬を飲まなきゃダメな体になっちまった。


 転移か転生か、呼び方は分からないし本当は夢なんじゃないかとも思うけど、、、


 一つだけ確かなのは目を覚ました時体が羽根みたいに軽かった事。


 まるで体が正常に修正されたみたいに。



「何て言うんだろうな、こうゆうの? ああ、そうだ、、、 アレだよな、、、」



 僕は言い終わる前に目前まで迫った鉄骨に押し潰された、、、



ーーーーーーーーーーーーーーーー


 夢から覚めて最初に写ったのは木の天井。


 背中に感じるのは柔らかいベット、この感じは羽毛だろう。


 電球みたいな照明器具は見当たらない。


 唯一首を横に向けると見えた蝋燭は火を灯していない。


 ソレでも明るいって事は日が上ってるのかな?


 蝋燭の逆、左側にある僕の真上の窓から刺す日の色を見るに3時くらいか?



「お、目が覚めたか? 調子はどうだ?」



 そんな声が聞こえて足の方を見ると木の器を持った例の男が少し不機嫌そうな顔で見ている。



「助けてくれたのか?」


「おう、まあな。 それで? 何でアンタあんな危険な場所にいたんだ?」


「なんで? なんで、か、、、 ん? そういや何で僕はあんな場所に⁇」



 僕は分かり易く戸惑ったように言うと記憶喪失の設定で保身することに決めた。


 とゆうより、風圧だけで体をボロボロにされるような化け物が恐らくは複数体いる世界で状況も何もわからない僕が個人行動?


 危険とか以前に問題にさえならない。


 ってか個人情報のない僕じゃ下手すると家どころか飯を食うことも、下手すると街に入ることさえできない。


 そう考えてみると僕に残されてる道自体が既にソレしかない。


 元から人に頼らないと指の一本動かせなかった僕だ、今更他人だろうと縋り付くのに微塵の抵抗もない。



「分からないのか?」


「ああ、アンタと話す前に何があったか思い出せない、、、」


「思い出せない、記憶障害か? いつ? まさか風圧に飛ばされた時か⁉︎」


「分からない、、、」


「そうか、名前とかは覚えてないのか?」


「名前、、、」



 言うべきか?


 僕の名前、安城 飛仙、、、


 そもそも、この世界での名前に関してが分からない、、、


 不審がられちゃ元も子もないし、、、


 うん、今は有耶無耶にするのが得策かな。



「分からない、いや、分からないと言うよりも出かかったのが妨害されてる感じだ、、、」


「ふむ、そうか。 もしかすると記憶が妨害されてる可能性もあるな、面倒ごとを抱えてそうだな、、、 まあ良いか、気分転換だ! 記憶が戻るか社会的に立場が確立するまで養ってやるよ! あ、それとアンタが想定以上の面倒ごとを持ってきたら捨てるからな!」


「ああ、助かる」



 僕は少し罪悪感を感じつつも返すと男に渡されて熱い卵スープの入った木の容器にスプーンを入れて飲み始めた。

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