第3話 踊り舞う日常
落ちる、落ちる、落ちる。
真っ暗闇の中、落ちていた。不思議と恐怖はなかった。下から上に落ちているのか、上から下に落ちているのか分からないから。まぁ落ちてしまっているのなら仕方ない。身を任せよう。
ふと一筋の光が見える。その光は糸の様に落ちゆく私のすぐ隣に現れた。そういえば本で読んだ事あったっけ。このまま落ちていても仕方ない。私は片手でそれを掴んだ。と、ここで温もりを感じる。あぁ、この温もりは間違いない。親友の温もりだ。即座に理解し、抱きしめる…まではいかないが、両手でそれを取る。あぁ、温かい。
突然光が消える。何が起きたのか分からないまま私は落ちる。ただ冷徹な闇の中に溶けていく。知ってしまえばもう戻れない。次の光を求めてしまう。
次?いや、私にとってはさっきの光が全てであって。替えが効くと一緒私は思ってしまった。いやそんな筈が。そんなことを考えてる間に何かにぶつかる音がした。
ベシャッ。身体が動かない。手の感覚がない。頭が割れる様に痛い。両目で暗闇を見る。そして、気付いた。私は、地面にぶつかってしまったのか。もうすぐ死ぬんだ。
あぁ、嫌だ。まだ私は、終われない。動いて、動いてよ。私にはまだ、やる事があるんだ。
「ん……うーん……」
「真??真!!!起きなさい!!!」
「うん??お母さん??どうして」ぼやけた視界で彼女を見る。瞬時に理解する。さっきまで夢を見ていたのか。
「もう珍しいわね!!バスに乗り遅れるわよ!!」
「えっっ??」
時計を見る。普段なら学校にいるべき時間だった。やばい、寝坊した。
「あぁ!!!やっちゃった!!!!お母さんご飯!!」
寝癖を直し持ち物を確認する。制服に着替えて埃を落とす。リボンが曲がっていないか。汚れてはいないか。カメラは忘れてないか。
「もう用意しているわよ!!サッサっと食べて行っちゃいな!!」
ご飯を食べ終えた私は家を飛び出した。
「はぁ…」
「珍しいね??君が遅刻するなんて。」
案の定遅刻した私は、10分休憩中に図書室に寄りそこで偶然三河先輩と出会った。
「親友君には会わなくて良いの??」
「だから、その言い方やめてもらえませんか??不快です」
どこでバレたのかはあまり覚えてはいないけど、どうやら錯乱してしまった際に口から出てしまったらしい。恥ずかしくて仕方ない。その呼び方は私だけの特権だったのに。
「会える訳ないじゃないですか…。今は焼咲さんと話してるでしょうし、何より」
「何より?」
「今日は容姿に自信がありません。寝癖とか出来てませんか?朝からバタバタしてて…」
少し呆れた様子で話してくる。
「いやいや、そこまで見ないと思うよ??自意識過剰だなぁ」
…この人は乙女心を知らないのだろうか。
「別に良いじゃないですか、悪い事はしてないんだし」
「本当は今すぐに会いに行きたいんですよ。でも今は…焼咲さんが居るし……その欲求を抑え込んでる私偉いと思いませんか!?」
はぁ、本当に私は偉い。うっとりしてしまう。
「ハイハイ、偉い偉い」
「でしょう!」
ため息をつき、私は、真剣な顔で伝えられる。
「本当に抱え込まないでね?僕が居るからさぁ、思い詰めたらだめだよ??」
「だから、分かってますよ」
心配してくれてるのは理解出来る。しかし、この人が何故気にかけてくれてるのかは分からなかった。
「もうすぐ時間だね、それじゃ、また昼休み辺りに会おう」
と三河先輩は言った。
「うーん…そうですね、時間があったらそうします。」
踵を返しお互い教室に戻っていく。とここでまた三河さんに止められた
「そう言えば、君のクラスはダンス練習始めたの??」
「ダンス練習??なんでその話題になるんですか??」
「いや、その…」言いづらそうに口籠る。
「ダンス練習ってクラス別にするからさ、大丈夫なのかなって。いきなりご、ごめん。それじゃまた今度ね!!」
逃げる様にクラスに戻る三河先輩。暫く呆然としていたが私は漸く気付いた。クラス別。という事は、まさか。
「最悪…」
その後、チャイムに遅れた私は罰として数分廊下に立たされた。今平成だよ??古すぎない??
昼休み。私は気分がどん底ながらも駆橋未来の写真を撮るために本人を探して回っていた。
とある女子生徒とすれ違う。
「あ、貴方って最近三河先輩と仲の良い人ですよね!!」
と呼び止められた。
「私双葉百合と言います!一緒に三河先輩を応援しませんか!?」
「あ、後でね…今気分最悪だから…」
彼女には申し訳ないが、また別の日に話をしよう。「私、生徒会入ろうと思ってるんですよね」
「…生徒会??」なんでまた。数日前に勧誘を断ったので尚更気になった。
「三河先輩が居るって理由もあるんですけど、行事をある程度動かせるんです」
「そうすれば、一緒に居られる時間も増えるかなって」
そういえば先日も
【その気になれば一緒に居られる時間も増やせる】と言われたっけ…。
「だから入れって??断るよ」
「いや、そうじゃなくて、単に手助けをして欲しいんです。」
と縋るような眼を向けてくる双葉さん。
「これからも人手が足りなくなったら助けて欲しいというか。」
「気が向いた時にね」
ただでさえ一緒に居る時間が短いのに、これ以上時間を使うつもりはない。
「ちょっ、ちょっと待って下さい!!冷たすぎませんか!?」
「今、私は気分が最悪なの。仕事もあるし、また後で話そう」
「そんなぁ!!」
「安心して、三河先輩に恩があるから、その時が来たらお手伝いするよ」
「よ…良かった…」
「それじゃ」
昼休みのうちに撮影を済ませなくてはいけない。今日は2人に聞きたいことが山程あるんだ。自分1人だけ仲間外れにされるのは嫌だ。
私は相談する為、職員室に来ていた。軽くノックをする。
「あの、すいません。今良いですか??」
職員室に入る顧問を探す。あの説教ばかりの体育教師だ。
「すいません、大羽先生に用事があるんですけど」
「あー、ごめんね。今ちょっと出かけてるんだよ。」
「どこにですか??今すぐ会いたいんですけど何とかなりませんか??」
私は問い詰める。どうしても今ではないといけないのだ。放課後にずれ込みたくはない。
「体育館にいるんじゃないかな??邪魔にならない様にしてね」
「ありがとうございます!」
良かった、学校には居るんだな。さっさと済ませよう。
「なんだ??どうした??今は少し時間がないんだが??」
大羽先生は相変わらず、こちらを見る事なく、忙しなく働いている。きっと今も仏頂面なんだろうな。
「写真撮影部の撮影量を緩和して欲しいんですけど」
「あぁ、構わないぞ。」
さらっと承諾される。
「良いんですか??」
「話は聞いているぞ。最近は1人で動いてるそうだな」
「はっ、はい」
不味い、叱られるだろうか。
「それは部活とは言わん。」
「……それは、そうかも知れませんけど」
「【そうかも】ではない。このまま単独行動を取るなら、それなりの処置を取る気だったんだが。そちらから言い出すなんて意外だった」
「好きにしろ。幽霊部員になっても俺は構わん。ある程度責任も取ろう。だが、一つだけ、だ。」
「はい」
「あまり独りで行動するんじゃない。小学時代の教師からも聞いているが、以前も体調を崩したそうだな。いい加減学習しろ。以上だ。」
放課後、仕事を終わらせ、なんとか手に入れた時間。普段なら喜ぶ所だ。だけれど、今日の話題について察していた。素直に喜べない。
「青山さん聞いてください!!私達のクラスで創作ダンスをする事になったんですよ!!」
「知ってるよ。先輩が教えてくれたから。」満開の笑顔で焼咲さんは続ける。
「それで、籤引きで、ペアになったんですよ!!その練習をみてもらえませんか??」
「まぁ、良いけど。」
今の私はどんな顔になってるんだろう。笑えていれば良いんだけど。正直、睨んでいないか不安だ。言葉が冷たくないだろうか。
「焼ちゃん、私達音楽すら聞いてないでしょ。せめて踊りを教えて貰ってからにしよう??」親友が言う。ていうか何【焼ちゃん】って
「えーっっそうですか?。1分弱の短いダンスとは聞いてるよ。樹崎さん達ならすぐ出来るんじゃない??」焼咲はともかく、風香ちゃんならすぐに慣れるだろう。
「じゃあ、どうする??まだ時間あるよ?」と親友は言った。
「そうだねぇ」
このままここで駄弁っていても仕方ない。
先生との会話を思い出し、私は重い口を開けた。
我儘かも知れないけど、迷惑かも知れないけど。
「皆で、写真撮りに行こうか。」
「それじゃ、ちょっとお願いしてくるから2人は待ってて。」
私は風香ちゃん達を待たせ(2人きりにはさせたくないけど…)マネージャーに会いに向かった。
今私達が居るのはサッカー部のグラウンドだ。私はいつも階段に座り彼女達の写真を撮る。当然独りでだ。
「すいません、今日も良いですか??」
「全然良いよー」
今日も軽く明るい返事が返ってくる。始めようか。
集中する。一瞬でも逃さない様に、そして邪魔をしない様に。レンズを切る。風景を切り取る。光の加減を読み取り、時間帯に合わせカメラの位置を動かす。練習方法によってカメラの度数を合わせ、できる範囲で近場で撮る。それをただひたすらに繰り返す。邪魔しない事さえ気を付ければ楽な仕事だ。
「青山さん…プロみたいですね」焼咲さんや親友に褒められる。
「まこちゃん、凄いね」
「でしょう??」
ここぞとばかり誇らしげに笑う。私は何日も一人でこなしてきた。これくらい朝飯前だ。
「僕たちにも出来ると思う…??」
不安げな親友。けれど
「出来るよ、私一人だから、ここまで苦労してる様に見えるだけで、分担すれば時間もかからないよ」
「ね、焼咲さん」圧をかけておこう。
「う、うん!!頑張ろ!!」
「二人がいれば心強いよ、本当に頼りたい。元々は僕達皆の仕事なんだ。今からでも遅くない。こなしていこう」
流石親友。もう理解してくれたみたいだ。
「じゃ、早速カメラ持ちますね!ちょっと重くない??焼ちゃん持てる?」ずっしりと大きいカメラを持ちぷるぷるする親友。可愛い。そして焼咲さんに渡した。
「これぐらい楽勝ですよ!!先に行ってますね!!」
目の止まらぬ速さで焼咲さんは居なくなった。置いてきぼりにされる私達。
あぁ、そうだ。久しぶりに二人きりだ。横顔が見える。鼻筋も綺麗でまつ毛も長い。相変わらず美しいなぁ。
「ねぇ、風香ちゃん」
「うん、何??」
私はそれとなく伝えてみる。
「風香ちゃんのクラスの踊りって難しそう??」
「あぁ、どうだろ。ちょっとテンポが早いけどだからといって難しいとは言い切れないしなぁ」
難しげな表情を見せる。苦戦してるのかな、少し暗く見えた。どうすれば慰められるかな…緊張してうまい言葉が出てこない。
「まこちゃんのクラスこそどうなの??難しくない??」
あー、私のクラスかぁ。特に意識はしていなかったから、難しさは感じていなかった。
「どうだろう、練習を積み重ねればすぐに慣れる曲だと思ってる。特にないかなぁ」
「そうか、そうなんだぁ。僕難しそうだと思ってたから少し安心した。」
あれ?
「風香ちゃんも他のクラスが気になるの??」
焼咲さん以外の友達が居るのだろう。いや、居るんだろうな。私の知らない人達が居るんだ。焼咲さんだけがライバルな訳じゃないんだよね。
「ちょっとだけ気になっただけだよ。気にしないで」
「分かった。早く部室に戻ろう」
「そうだね」
焼咲さんの事も気になるけど、今は踊りを覚える事が一番だ。発表会に間に合わないかもしれないし。
「あ、そうだ。」
親友の足が止まる。どうしたんだろう
「僕達を気遣ってくれたのかもしれないけど。一人にさせてごめん」
「今更大丈夫だよ、早く帰ろう??」
「うん…」
大丈夫、私はまだまだ動ける。親友に心配されたくなかった。
放課後、撮影部に行く前に大羽先生を訪ねていた。
「これだ。別クラスの音楽CDを貰いたがるなんて思いもしてなかったからな。大切に使えよ。」
「ありがとうございます」
それじゃ行かなくちゃ、今日こそ沢山話せたら良いんだけど。
「待て」
大羽先生に止められる。あぁ、もう時間がないのに。
「なんですか」
「青山。このCDで何をする気だ。」
「何って練習ですけど??」
練習する事が悪だと言いたいのだろうか。
「自分のクラスの踊りもあるのだろう。やり切れるのか??」
「私、こう見えて才能ありますから。」
そう、私は天才なんだ。小学時代に写真撮影に目覚めて以来、私には不思議な自信があった。だから、今回も大丈夫。
「それじゃ」
「待てと言っているだろう」
その言葉も振り切り、私は校舎に戻ろうとした。
「実はな、お前と似た様な事をした生徒が居るんだ」
「…え??」
「その話は本当なんですか…??」
「当たり前だ。俺は嘘はつかん。まぁプライバシーだから名前は教えられないがな。すまん」
「私以外に、同じ努力をしてる人が居たんだ…」
夢みたいだ。幸せだけど、そんな甘い話があるのだろうか…大羽先生のただの気遣いかもしれないし。その人は同じクラスメイトの事は気にならないのだろうか。よっぽどの事がない限り無駄な努力と思われてしまうだろう。
いや、気にならないかも。私だってクラスメイトに興味はないし。
「ごちゃごちゃ言ってすまん。」
「いえ、こちらこそ強引に事を進めてすいません。」
私は少しずつこの人の事を知りつつあった。ただ口調が厳しい人だと思っていたけれど。意外と人を見ている。私の事にも気付きつつありそうだ。だからなんだって話なんだけども
「俺は体育教師だからな。様々なクラスの踊りもそれなりに出来る。だから、時間が許すのなら俺は協力したい。どうか頼って欲しい。
「そうですか…」
「……教え子が独り努力しようとしているんだ。支えたいに決まっているだろう。」
顔を片手で隠しながら消えてしまいそうなほどの小声で話す。あぁ、この人は、私達に害をなさない人だ。信頼できる人だ。
「分かりました、よろしくお願いします」
そして放課後。
「違う!そこは手をまっすぐ伸ばすんだ。腰を捻る事も忘れるな!!そう、その通りだ。そのままの姿勢で保て!!」
「はい!!!!」
その日から大羽先生の鬼特訓の日々が始まった。
私は昼休みや10分休憩を使い、大羽先生に会いに行った。ノートに踊りのポイントを書き記し、暇さえあればCDを聞く。放課後十分だけ、時間を貰い少しずつではあるが、踊りを上達させていった。親友とは会いたかったが我慢した。まだ動ける。
「よし、今日はここまでだ。水分は持ってきているか?タオルはあるか??無理はするなよ」
腕組みしながら私を心配する。相変わらずギャップのある教師だ。そんなんだから鬼教師だと言われるのだろう。
そこが【良い】のかも知れない。私が親友に惹かれている様に、何かしら味のある人なのだろう。実際大羽先生は一部の生徒から熱烈なファンが居るそうだ。
親友は今頃何をしているだろうか。毎日十分とはいえ、放課後に数分しか会えない日々は、少しずつ私を疲弊させる。
私が居なくても焼咲さんがいるから楽しんでは居そうだけれども。中学に進学してから距離が遠くなっている気がする。いや、親友は親友の生活があるから仕方のない事なんだけれど。あぁ、会いたいなぁ。どうか、それぐらいの我儘は許して欲しい。私には、親友しか居ないんだから。お願いだから。私のエゴを許して。
「おい」
「はい…なんとか…」
「返事が遅いと思ってはいたが…なるほどな」
何かに納得した様だ。失敗してしまったのだろうか。
「あくまで俺の主観だが、お前は少し頑張りすぎる。自分で自分を管理する力を身につける事だな」
「それ良く言われるんですよね…皆揃いも揃って私をなんだと思っているんでしょうね……」
私にとって親友が一番だが、他の人達はと言われると分からなくなってしまう。勝手に絡んできてる様にも思える。私は冷酷なのかもしれない。
特に、焼咲に対する感情がぐちゃぐちゃになる。どす黒い何かが込み上げてくる。
あれ、私は、いつから彼女を呼び捨てていたっけ???
「ゴホッっガハッっっ」
「青山!?」
喉が熱い、何か来る。身体全体が熱くて熱くて仕方ない。立っていられない。
「はーっ……はーっっ」
「おい!!おい!!青山!!ほら水を飲め!!息を整えろ!!」
初めて見る焦り顔を見て、他人事ながらも面白く感じた。息を整えようとする。深呼吸…深呼吸……。
「ふーッッ…ふーッッ……」
「大丈夫か??保健室に運ばせてもらうぞ」
今の私には返事をする余裕がない。お姫様抱っこは不快だが、致し方ない。荷物も置かれたまま、私は保健室に運ばれた。
その途中の廊下で、今もっとも会ってはならない人と出会ってしまった。
「えっっ青山さんどうしたの!?」
「まこちゃん……??」
意識が朦朧とした中、2人の声だけが聞こえる。
「大羽先生!!何があったんですか!?!?青山さんに何が起きたんですか!!」
「気持ちは分かるがそう焦るな!!今から保健教師に見せるだけだ、おい樹崎!そう揺さぶるな!!!」
「まこちゃん!!まこちゃん!!ねぇ返事してよ!まこちゃん!!ねぇ!!ねぇ!!!」
親友が呼んでいる。動かないと…心配かけない様にしないと…息も絶え絶えで彼女の手を握る
「気にしないで……ね??」
そして、私の意識は落ちていった。
おちる。おちる。おちる。
私はただ落ちていた。そして理解する。これは朝方見た夢と同じだ。これは夢の中なんだ。朝との違いは周りが明かりに包まれ、自分だけが黒く染まり、白の中落ちている事だ。まるで私が異物のような、私だけ弾かれているような。邪険にされている様な。そんな気分。
「まぁ、いつものことだから」落ちながらも、私は考えていた。当然ダンスの事である。大羽先生との練習ももう8割がた済んでいた。あと少しで親友のいるクラスの踊りを完璧にする事が出来る。そういえば、もう1人居ると聞いていたけれど、誰がわざわざ別クラスの踊りをマスターしようとしているんだろう。
私はただ…ただ…少しだけでも踊りたいだけだけど。そう、私は、私の為に動いてるだけ…。あぁ、身体が熱い。顔が真っ赤になるのが分かる。何故だろう。身体全体が熱くて仕方ない。
そういえば、朝の夢では光が垂れてきて、最終的にその光を失ってしまったんだっけ。今は眩しい光に包まれているから似た様な事は起きないだろうけど、私はいつまた地面に叩きつけられるのだろうか。痛みは感じないがその衝撃が怖かった。その恐怖は焼咲さんに向ける恐怖と似ていて。
焼咲さん。彼女の事を考えると、やはり何か辛くなる。涙が出てきそうになってしまう。見ない様にすべきなのだろうか。関わらない様にすべきなのだろうか。でも、彼女は親友の友達だ。接触を断つ事なんて出来ない。それでも、私は、苦しい。この苦しみを背負って生きていかなきゃいけないのか。
「いやだ、そんなのいやだよ」
再び何かを吐き出しそうになってしまう。ここまで彼女の事が怖いだなんて。辛いだなんて。数日前は特に気にしていなかったのに。考えれば考える程辛くなってしまう。なんで??なんでなの、私は、彼女と仲良くしたいのに。仲良く…三人で居たいだけなのに。心のどこかが軋む音がする。
「あっあぁ…!!」
頭が痛む。耳鳴りもしだす。思わず頭を抱え、目を閉じた。目の前が真っ暗になる。その暗闇が、今の私には心地よく感じた。だめだ。焼咲さんの事は考えない様にしないと。苦しい。そして、
グシャッッッ
朝と同じ感覚。私は地面に叩きつけられまたしても身体が引きちぎられた。ただ、朝と違うのは
「痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い」
「いたぁい…!!!痛いよ!!!!痛い痛い痛い!!!」
夢の中にも関わらず激痛に襲われる。心が痛いのか、身体が痛いのかもう分からなくなる。頭もぐるぐる回る。訳の分からない音が聞こえる。嫌だ。もう何も見たくない。何も感じたくない。痛いのも辛いのも苦しいのも迷惑をかけるのも嫌だ。嫌だ。嫌だ。お願い、夢なら覚めてよ…。早く、早く、覚めて…。
「大羽先生…」
「大丈夫だ、俺が知る限りは怪我はしておらん。暫く寝かせて休ませればまた目覚めるだろう。」
彼女達は心配そうに青山を見ている。当然だろう。青山は2人に放課後や昼休み毎日練習をしているなんて伝えていない様だった。2人で何をしていたかは知らんが…伝えねばならんな。
「2人とも、少し話がある」
「…なんですか??」
樹崎に睨みつけられる。
「何故こうなるまでに止めてあげなかったんですか。そもそも2人で何をしていたんですか??なんでお姫様抱っこしていたんですか??」
「ちょっと樹崎さん??」焼咲が止めようとする。が、止まらない。
「きちんと水は取らせていたんですか。気遣っていたんですか??厳しい言葉を浴びせませんでしたか???それでも教師ですか??」
「おい」
「なんで…なんで…」
樹崎、お前は本当に、自分勝手で未熟だ。
「樹崎。お前…いい加減にしろ」
「なんで私が怒られなきゃ」
「ちょっと樹崎さんストップ。」
焼咲が口を塞ぐ。まだ何か言いたげだが俺の方からも言いたい事ばかりだ。全部吐き出させてもらう。
「俺が青山と一緒に居たのは青山が踊りを練習していたからだ。俺が助言をしていたんだ。」
一応、別クラスの踊りを練習していた事は黙っておく。普段の言動からして、ばらされたら嫌なんだろう。
「昼休みや放課後にわざわざ時間をとって練習していたんだ。あくまで俺はその補佐をしていただけだ。ただ、青山はいつも一人で抱え込むからな。知らなかったんだろう??」
黙り込む二人。どうやら図星の様だな。
「二人にも生活があるのは分かっている。しかし、だ。もう少し気を遣ってやればどうだ??。勿論お前達二人に背負わせる気はない。他にも三河雪音や駆橋未来を始めとする生徒会も心配しているそうだ。俺はそう聞いた。」
「はっきり言おう。青山真は、人とは違う。きっと自分でも気が付いて居ないんだろう。だが、それを押さえ込んでいる。」
「俺は今回の件で思い知った。だからこそ、これからも青山を気を掛け、教師として守ろうと思っている。」
「だから、お前達も【身近な友人】としてもう少し気を遣ってやれ。一人で抱え込ませるな。」
「分かりました」
樹崎は俺の説教が効いたのか、聞き流したのか分からないが、決意見えた顔で俺を見つめている。
「焼ちゃん、大羽先生。ちょっと二人きりにさせて貰えませんか。」
「えっ??でも私だって」
「良いから」
俺の居る場所からは焼咲に見せるその表情は見えない。しかし、何かしら怖い顔だったのか。目に水を貯めたまま焼先は出ていった。さて、俺も従うとしよう。
痛い痛い痛い痛い。終わりのない痛みに襲われる。叫んでも姿勢を変えても痛みは治らない。光に包まれながら無様に身を捩る。力を入れる。入れれば入れるほど痛みも強くなってしまう。
【抱え込むな】
突然三河先輩の声が聞こえた。耳鳴りの中その声だけは明瞭だ。何故かは分からない。けれど私は抑えきれなくなっていた。
助けて…
「うっっ!?」
突然手に違和感を感じ、息も出来なくなる。柔らかい何かに防がれてしまっている。手も繋がれ、動かす事が出来ない。
何かが入ってくる。その感触は私の頭を痺れさせる。麻痺させる。口をぐちゃぐちゃに何かに侵略され、どこか快感に感じる。訳がわからない事ばかりだけど、それだけは心地よく感じた。
【それ】は私の口から出て行く。出ていってはまた入ってくる。を何度も繰り返した。少しずつ、少しずつ私は待ち焦がれる様になっていった。こんな狂った痛みに溢れる夢の中なのに、なんで快感を感じているんだろう。
ぎゅーっっと顔全体を何かに触られ、【それ】は私の一番奥、喉奥まで入ってくる。吐き出そうとしても掴まれ吐き出せない。息が出来ない。口を蹂躙し終えたのか漸く【それ】は私の喉から、口から出ていった。
息を整え、あたりを見渡す。耳鳴りも、痛みも、苦しさも無くなっていた。何かが口に入ってきたからだろうか。と私の意識はぼやけていく。あぁ、やっと目覚めるんだな。
「うっっうん…???ここは??」
「まこちゃん…!!!大丈夫??苦しくない???」顔を近づけてくる親友。思わず顔を背けた。久々に、いきなり近づかれると恥ずかしい。
「風香ちゃんこそ大丈夫??どうしてここに??」
「どうしてって…心配だったからに決まってるじゃない…!!!」
泣きそうな顔で肩に触れられる。フニフニとそれとなく耳を触られる。あぁ、良いな。
「そんな泣かないでよ、私は大丈夫だから。」
「でも寝てる時辛そうだったよ??僕知ってるんだからね…!!」
振り返る。確かに狂気的で苦しい夢だった。けれど
「途中で口に何か入ってきてくれたから、それで気が逸れちゃってね、案外苦しくなかったよ」
「そっっそう???なら良かったね…」
真っ赤に染まる親友。親友の方こそ熱があるのではないだろうか。まだ病み上がりなんだから、心配だ。
「話は聞いたよ、大羽先生と二人きりで練習してたそうじゃない。…いつからしてたの??」
あ、声が怖くなった。あの時お姫様抱っこされてたから気に食わないのだろうか
「ちょっとだけだよ?どうしても踊りが覚えられなくて」
「……二人は別クラスだからさ、話しかけづらくて」
本心だった。私じゃ二人と同じ様になれないんだ。だから、一人で仕事をこなすしかなかったんだ。
「そんな事ないよ、今一緒に居るじゃん」
「うん、そうだね」
何もない。何も言えない。私じゃここまでなのかな。
「そろそろ良いか?」
「青山さん起きましたか?」
外から大羽先生と焼咲さんの声がする。
「うん良い」
「待って」
私の言葉よりも早く口を手で押さえられる。唇に手が触れる。跳ね除ける前に親友は私の頬に、唇を。
「ッッッッ…」
「ボクは、こう想ってるから」
「焼ちゃん、大羽先生入っていいよ」
頭が沸騰している中二人と会ってしまう。冷静を装うのは無理な話だった。
「起きたんだな、身体は痛まないか??」
「ふぁ、はい!大丈夫です!!」
「青山さん、」
何か言いたげな焼咲さん。私はそれに被せた。
「踊りの時は、宜しくね」
「あっはい!!」
「青山、悪いが今日は早退しろ。親にも伝えておくんだぞ。」
ごもっともだ。私は、従うしかなかった。
「分かりました、早退します」
「ただいま」
「あらお帰り、今日は早かったのね」
「…今日はちょっとね」
何も言わずに片付けをする。連絡プリントを渡す。ダメだ、気持ちが悪い。いきなり起き出したからだろうか、下校中もふらふらしていた。私は、私の身体はどうなってしまったのだろうか。無理矢理にでも動かし、私は風呂に入る。
シャワーを全身に浴びる。以前は真っ白の肌だったのに最近は学校を走り回っているからか筋肉も付きこんがり肌になってしまった。努力の証だと思えば嬉しくはあるけど…。親友と別れていた時間の証明の様に思えて、私はごしごしと力一杯擦った。
ふと頬を触る。自分で抓ってばかりなのに、今日は親友に…。思い出してしまうと心が躍り出す。鼓動が速くなり、血液が煮えたぎる様な気がする。手で顔を押さえ、深呼吸をする。湯船にも浸かっていないのにのぼせてしまいそうだ。
「少しでも、少しでも思い出さないようにしないと…。動けなくなっちゃう」
思い出してしまうと歩けなくなってしまう。何も出来なくなる。自分が、自分でなくなってしまう。しかし、一つ思い出すと次から次に思い出してしまう。私は湯船に浸かりながらまた思い出した。結局夜遅くまで風呂に入っていた。
「よし、これで準備はいいかな」
晩御飯を食べ終わった私は、自分の部屋でCDを読み込ませる。音楽を鳴らす。大羽先生の助言を思い出す。踊りのポイントノートを読み込む。何かあった時の為のお茶やタオル、めまい用の薬も万全だ。
私は深呼吸をした後、練習を始めた。私は学校で練習する以外にも家で自主練をしていた。不安だったからだ。ただでさえクラスメイトに関心のない私がダンスという【協力種目】に貢献出来るのだろうか。考えた私は、大羽先生に協力してもらい音楽CDを手に入れる事が出来た。さぁ、今日も夜遅くまで躍り尽くすぞ。
当日、私はまたも遅刻した。ずっと夜遅くまで練習をしていたからだ。
「おはよう、元気??」
あぁ、気分が最悪なのに会いたくない人に会ってしまった。
「焼咲さんおはよう。」
「遂に今日、ダンスの発表会だね、そんな元気がなくちゃ上手くいかないよ!」
煩いな、私がどれだけ練習してきたと思ってるの。
「安心して、練習はバッチリしてきたから」
「なら良いんだけど」
「今日は遅かったな。体調はどうだ。」
「げっっ大羽先生。」
「俺を見て不快なのは分かるが、口に出すな。トラブルの始まりだそ」
「大羽先生、おはようございます」
「…青山、さては夜遅くまで起きていたな??隈が出来てるぞ。」
「気にしないでください。踊りは完璧にこなしますので。」
「…そうか」
やっぱり大羽先生は良い人だ。
ダンス発表会は体育館の壇上で行われる。私が体育館に入った頃には全生徒が集まり窮屈そうにしていた。
「はい、それじゃあ今から始めます!!一年一組!!宜しくお願いします!!」
そして、発表会は始まった。
私のクラスは一年四組だ。親友のクラスは五組だ。私の方が早く発表する事になる。正直安堵していた。親友の魅力溢れる踊りを見た後に、冷静に踊りをこなせるか心配だったからだ。とうとう自分のクラスだ。私はほっぺを抓り、気合を入れた。
私達のクラスの踊りは完璧に終わった。当然だ鬼の様に練習したからな。緊張から解かれた私達は壇上から下がる。と、ここで次に披露する五組の生徒とすれ違う。
「青山さん行ってきます!!」
「焼咲さん行ってらっしゃい!!全力で応援してるからね!!」
元気いっぱい笑う焼咲さん。うん、彼女も彼女で魅力的だ。少し悔しいけど。
「あ、まこちゃん」
「風香ちゃん」
すれ違う。けど、私達はお互いの手を広げ、片手で手を叩いた。
「「頑張ってね」」
と願いながら。
親友のクラスの踊りも素晴らしかった。親友と焼咲さんのコンビダンスも息がぴったりだ。それに、何より、楽しそうだった。二人とも笑っていた。
うん、楽しそうだったな。羨ましい…な……。悔しい…。会いたいよ…。
「いやー、凄かったね。」
「そうだね。」
二人きりの教室で私達は語り合う。
「未来さんのクラスなんかレベルが違ったよね。皆が皆輝いてた」
「うん」
今は、反応する体力がない。全身に力が入らない。
「ボク感動しちゃった!」
「そうだね、私も感動した」
二人は誰よりも楽しそうに踊っていた。そう、クラスの中で、誰よりも。
「二人も輝いてたよ。」
お互いの光がお似合いの様で。嬉しい事ではあるんだけど
「う、うん。あのさ。怒ってる……??」
いつもは私が風香に言う事が多いのに。私が言われるのは初めてだな。
「いや怒ってないよ??なんで怒らなきゃいけないの…??何も悪い事してないでしょ、何で??」
私がなんで怒らなきゃいけないんだろう。私二人が楽しそうにしてるならそれで良いじゃないか。だって二人はいつも一緒じゃん。なんか親しげにしてるじゃん。それならもう私は良いよ。好きにすれば良いじゃん。私は外から撮るからさ。私は間違えてない。
「二人で好きに幸せになれば良いじゃん」
そうだよ、好きにすれば良いんだよ。もう知らないし好きにすれば良い。
「ごめん」
「あっっ」
突然近づかれ見つめられる。きらきら輝いている両目に見つめられ、親友の匂いがして、唇が綺麗で、そして、重ねられた。ダメだ、今は、ずるい。
前よりも親友に弱くなったのだろうか。唇を重ねられただけでへたり込んでしまった。膝を落としつつも中をなぶられる。好きにされる。やがて親友は手を頭から外し、私の腰に腕を通した。しっかり抱き抱えられる。けれど、今は。少し不快だ。
口を外し
「ねぇ、遊ばないでよ」
「遊んでないよ」
「言ってる事といつもの言動が違うじゃん…!!」
何故か私は口を震わせる。ますます力が抜けて行く。おかしいな、前が見えない。目が染みている。
「いつも私が頑張ってるじゃんか」
「……」
「ずるいよ、いつもさ、自分だけ楽しんで」
「……」
「私は苦しんでるのに……」
止まらない
「なら僕も言わせてもらうけど、何でいつも言ってくれないの??」
えっっだって
「迷惑かなって…」
前みたいに振り回したくなかったんだ。ずっと優しい親友に、負担をかけたくないんだよ。
「ほら、また黙る」
「だって…だってぇ…」
「大丈夫、時間はあるから」
今度はまた、頬にキスされる。噛まれる。ますます心臓が跳ね上がる。押し流されそうになるけれど、伝えなきゃ、また誤魔化される。
「ずるいって…!!」
「ずるいのはまこちゃんもでしょ??」
「えっっ??そんな」
「ボクの知らない場所で色々な人と仲良くなってさ。同じ人と絡むより交友関係広い方が良いに決まってるじゃん。」
「それは、二人の為に動いてただけで…」
「口を開けばまた二人って……嫌だなぁ」
そう放たれたのと同時に強く抱き抱えられる。
「ずっとこうしていたいのに、また一人で動いちゃうんだよね」
「そんな事言って、また焼咲さんの所行くんでしょ…ずるいよ、本当にずるい…!!!」
私も強く抱き抱える。顔は見えない。見たくない。怒ってほしくない。だって、私の我儘を通そうとしているんだから。
「大丈夫、ボクは何処にも行かないよずっと一緒に居るから、ね??」
「だから、泣かないで」
え、うそ、私。そういえば言葉も震えて顔も熱く感じる。
「私、泣いてたの??」
「今気付いたの?」
呆れられる声がする。けれど、とても優しい声で、それは小学生の時の優しい親友に似ていて。
「安心する…」
「ふふっ、なら良かった」
「機嫌直った??」
「もう、そんな事言うから」
「勝手に一人で動いちゃうんだよね?」
強く言われる。よっぽど単独行動が嫌みたいだ。
「仕方ないじゃない…」
「仕方なくないよ」
「だって、二人とも楽しそうだから。」
「自分は要らないと思ったの??」
そっそこまでは言ってないし思ってない。私はそこまで依存していない。今回だって二人のことを気がけで動いただけだよ。自分の事を、そんな。
「じゃあさ、どうすれば要らないなんて思わないでくれる??」
優しく、優しく、ふんわりとした口調だ。
「常にまこちゃんを抱いてれば良い?一緒に朝からカメラを向けていれば良い?毎日まこちゃんの手を握ってキスすれば良い?見せつける様に抱きしめれば良い?答えてよ」
「そんな、いきなりは分かんないよ」
笑いながら続ける。
「そうだよね、いきなりは分かんないよね。でもこれは言わせてよ」
再び顔を合わせられる。お互いの頬がすぐ近くに迫る。少しでも動けば唇が…。
「ボクは、まこちゃんが大切だよ」
「ちょ、ちょっと」
またもキスで、親友の味で、匂いで煙に巻かれる。心が激しく動く。何も考えられなくなる。
何度目か分からないキスをされ、二つの花が離れる。お互いの唾液が糸を引いていて、キュンと来てしまう。親友はペロと舌を見せる。その顔は私にもう一度唇を奪いたいと思わせて。あぁ、ずるい。
「ねぇ、まこちゃん。踊ろうよ」
「えっっ??」
「ボクね、まこちゃんのクラスの踊りも練習してたんだ。いつもまこちゃんが来るまでの時間でね。」
そんな。
「まこちゃんが私のクラスの踊りを練習してくれた様に」
「私も、まこちゃんのクラスの踊りを練習したんだよ」
「私も、まこちゃんと躍りたかったから」
「うそ、そんな。本当に。私に嘘ついてない??」
「本心を偽るわけないじゃん。ボクがまこちゃんに嘘ついた事ある??」
嬉しい。
「あるよ…!!」
嬉しい、嬉しい。嬉しいよ。風香。私は今、本当に嬉しいし、幸せを感じてる。
「あはは、そんな嬉しそうに泣かないでよ。」
「私も、嬉しかったよ。まこちゃんと同じ気持ちだったから。」
嬉しい。嬉しい。嬉しい。多分今、私は泣き笑いをしてる。
「だから、一緒に踊ろうよ」
「うん…!!!」
音楽がなる。私達は手を握り、舞い出した。晴れ舞台で踊りきった時と違い、誰からも拍手はされない。埃被った空間で、綺麗とは言い切れない場所で踊る。けれど、身体が重なってはまた離れる。優しげに、離れがたい気持ちで音楽に重なっていく。誰からも見られない壇上でたった二人で踊っていく。
彼女と居るだけで、触れるだけで幸せなのだけれど、一緒に【仲間として】動くだけでこんなに幸せになれるんだ。私達は何度も、何度も踊りを重ねた。
「それで、これからどうする??」
風香ちゃんは息を切らしながら話してくる。
疲れ果てた私たちは、床に寝っ転がっていた。
私は聞く。
「どうするって何を??」
「どうすれば思いつめないでくれる。」
「まだわかんないよ…」
そもそも私は自分が思いつめていた自覚がない。それほど顔つきが変わるのだろうか。
「気にしなくていいのに。」
「気にしなかった結果がこれでしょ。」
「いいから、ね」
暫く考えてみる。これは、迷惑かも知れないけど。
「朝と放課後一緒に帰りたいなぁ、なんて」
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