第2話 焼咲さんのいる日常
満開女子中学校撮影部。元々何代も続いていたそうだが人気がなく、去年までは廃部していたらしい。何故私達の代になって復活したのか。その理由は
「青山さん今日もおはようっす!!!」
「おはよう、今日の分も撮らせてもらって良いですか??」
「勿論っすよ!!!はい!ピース!!!」
シャッター音が響く。
「はいそれじゃ!忙しいのでまた放課後っすね!!バイバーイ!!」
突如風の如く現れは去っていく。そんな彼女が現れた事により去年から復活した、らしい。去年という事は当然。先輩も居るはずなのだが、不登校になってしまったそうだ。何があったのだろうか。撮影部ってそんなに過酷なのだろうか…いやでも。
「おはよっっまこちゃん」
「あ!おはよう
私の親友は後ろから肩を叩きながら現れた。今日も顔を赤く染めている。熱がないか心配だけれど、元気そうで何よりだ。
「うんうん、心配してくれてありがと〜、頭撫でてあげようか???」
頭をくしゃくしゃされる。
「拒否権ないじゃん。もう、…」
親友はいつも私の本心を突いてくる。一体どこで覚えたのだろうか。悪くない。
「うんうん、その顔が一番良いよ。」
「良いって何。」
「べっつにー??」
撮影部に居ればずっとこんな日々が続くんだ。読書家な人生とは相反するかもしれないけど、悪くないと思う。
彼女は、ある日突然入部してきた。
「
顔を真っ赤に染め宣言する。
「
「「はぁ!?」」
この学校は暴風警報でも鳴ってるのか??
「えっっ誰??」
「樹崎さんから聞いていませんか??」
「いや何も、クラスメイトの話なんて何もしないから」
「それは…ちょっと悲しいですね…」
しょぼんと分かりやすく凹む。なんなんだこの人は。という目で私は親友を見た。明らかに動揺している。きっとこの子はクラスじゃ猫をかぶっているんだろうな。好きな子の前じゃ興奮するタイプだ。
直球に好きと伝えるなんてどれだけ自信があるんだこの子は。
少し赤くなりながら続ける。
「私同じクラスで色々教えて貰ってるんです。元気で明るくて優しい方ですよね」
「べた褒めするじゃん僕嬉しいよ」
「なので付き合って貰おうかなって」
「いやいや、飛躍しすぎてないか???」
彼女は恋をする乙女の瞳でいじいじと指を動かす。
「一目惚れだったんです。朝早くからいつも二人で写真を撮ってて、その興味なさげな流し目が…あぁ、良い…!!!」
「…病院に連れていかなきゃいけないかもね。どうする」と親友を見た。他人事の様に飄々してる。現実逃避しているんだろうか。早くなんとかしてくれよ。私じゃ手に負えない。
「まぁ、いいや。君も撮影部に入りたいんだよね??入部届はもう出してるの?」
「はい!!もう先生に出してます!樹崎さん、今日から宜しくお願いします!」
「う、うん宜しくね」
「はぁ…」
思わず呟く。彼女は間違いなく駆橋さんと同じタイプだ太陽のような人だ。苦手な訳ではない。元気貰えそうだし。
しかし、うん。親友にファンが付くなんて。いや、私から言わせてもらうが、親友は魅力的だ。何故私とずっと一緒に居てくれるのか疑問に思うくらいには、だ。優しくて思いやりも出来て行動もできる。密かに人を立てる事も出来る。あの時だって私より早く行動し駆橋未来から許可を貰っていた。お陰で円満に写真を撮る事が出来た。
彼女は正に【出来る女】だ。本当に、なんで私について来てくれるのか分からない。負担に思ってないだろうか。邪魔に思われてないだろうか。そんな事を偶に考えてしまう。話が脱線してしまっていた。親友にファンが付いた。それは喜ばしい。何かしら問題がなければ良いのだけれど。
「えいっっ」
「痛っっ!?」
親友からデコピンを喰らった。
「何??びっくりした。」
「いやー別に、考え込んでたから現実に引き戻してたあげた」
「結構強かったよ!?」
「青山さんずるい!!私もデコピンされたいです!!」
「えーっどうしよっかな??」
「羨ましいです…」
まぁ、親友が楽しそうだからそれで良いか。どうかずっと笑っていて欲しい。心が暖かくなるから。
「今日も楽しかったー!!やっぱ駆橋未来さんは輝いてますね!!」
「ハイハイ、そうだねー。彼女【走り屋】だからね。それなりに体力もあるんじゃない??」
あれから親友と焼咲結城はすぐに仲良くなった。元気で素直に突っ走る結城と優しくも気まぐれで常識人な親友は相性抜群の様だ。
「二人ともこっち向いて、今日の分の写真撮るから」
「はーい!樹崎さん!!肩組みましょう!!近い方が撮りやすいでしょうし!」
「わかったわかった。肩組むからそんな強く握らないで。」
二人が近づき肩組む。私がそれを撮る。当然だが、写真は一人じゃ撮れない。どうしても一人あぶれてしまう。結果として私は写真係になる事が増えた。まぁ仕方ない。今は譲ってあげよう。うん。
次の日私は何時もより早く登校した。教室で朝ご飯を取りながら考えていた。今頃親友は何しているだろうか。きっとグースカ寝てるんだろうな。朝早くに動いているとは親友達に伝えてはいない。邪魔するのは不味いと思ったからだ。
まだ時間がある。折角だしと私は教室の掃除を始めた。つい最近使い始めただけあって、まだまだ埃が舞っている。こんな部屋でカメラの手入れなど出来るはずがない。二人には任せておけないし、邪魔もしたくない。
私がしなければならない。ふと、埃が目に入る。不味い。目が痛くて仕方なくすぐさま廊下に出て目を洗う。洗い方が下手だったのか、制服が濡れる。あぁ、めんどくさい。早く掃除に戻らなきゃいけないのに。する事も沢山あるのに。拭っても拭っても目が濡れて仕方なかった。
「おはようっす!!!今日も一日よろしく!!!」
「おはよう!今日も撮らせてもらいますね」
「おっけおっけ!!はいチーズ!!」
今日もレンズを向ける。切り取る。最近は私一人が早めに登校し、後からくる親友と焼咲さんを撮る事が多くなった。…まぁ仕方ない事なのだろう。気分を切り替え駆橋未来の撮影に集中する。彼女の笑顔はいつも太陽の様だ。陰る事がなく、染みひとつ見当たらない。そんな彼女の元気が羨ましかった。私にも元気があればもっと変わる事が出来るのだろうか
「……最近元気ないっすね??何かあったっすか??」
頭を撫でられる。これで二回目だ。相変わらず彼女の瞳は美しい。大きな胸が動き、蹲りそうになる。ほのかにシャンプー後の良い匂いもしてくる。そして、撫で方も上手い。やっぱり、魔性の女だ。
「ふぇ!?何でもないですよ。」
「いーや、何かあるっす。考え込んだら止まらなくなるタイプっすよね??」
私は今迄も色々な人から本心を見抜かれていた。そんなに私は顔に出やすいのだろうか。言動がモロに出るのだろうか。そんな私を…親友はどう思ってるのだろうか。
「また考え込んでる…。無理はしちゃいけないっすよ」
「あはは、大丈夫ですから」
笑って誤魔化す。私はいつも通りだと言うのにどうした事だろう。そんなに変わってると思われてるのだろうか。最近はむしろ改善した方だと思う。写真撮影の為に自分から担当教師と連絡を取り、運動部にも出向く。それだけで小学時代の私を超えている。褒められるべきだろう。私は天才なのだ。私凄いジーニアス。
「ふわぁ…あ、青山さんおはようございます」
欠伸をしながら登校していた。のんびりしている。ちょっと、嫌だ。
「おはよう焼咲さん。しんゆ…風香さんとは一緒じゃないの??」
親友と口に出しそうになりながら問いかける。
「えっ知らないですよ??」
「まぁ、何とかなるでしょう。同じクラスだしもし欠席してればまたその時です」
同じクラス。私とは違う。きっと休み時間や授業でも絡んでるんだろうな。…うん。
「結構余裕なんだね。」
いや、私は何を聞いてるんだ?親友が休んでなんで焼咲さんに影響があるんだ?。
「昨日も一緒に帰りましたから、体調が悪いとは思えないんです」
なんとなくマウントを取られた気がした。さっきから不快だ。
「それは…私が一人で撮影をしているから帰れるんでしょ、当たり前だと思わないで欲しい」
「そーですね、すいません」
心のこもっていない謝罪をされる。明らかに不服そうな顔だ。
「まぁ、何かあったら教えてよ。私も行動するから」
「私だって別クラスとはいえ、心配なんだからね」
「はいはい、りょーかい!!」
こうして私は焼咲さんと一旦別れた。同じクラスなのが羨ましい。
【昨日も一緒に帰りました】【肩組みましょう】…仕方ない、事なのだろうか。何か、どす黒い物が溜まっていく。私は、どうしてしまったのだろうか。
1時間目の10分休憩の際、私は親友のクラス…焼咲さんの居るクラスを訪ねていた。当然、親友の欠席の理由を知る為だ。親友の机には今日の授業分のプリントが置かれていた。きっと誰か家の近い人が届けるんだろう。
「この本って」
机の上の本を手に取る。これは前に話題に出た本だ。もう読み終わったのかな。
「その本、読み終わったらしいですよ」
隣で焼咲が続ける。
「面白かったと言ってました。今度本屋で自分の家にも置きたいと大変気に入ってました。」
「そうなんだ…」
楽しげで何よりだ。良かった良かった。
「明らかに機嫌悪そうですけど、どうしました?」
少し笑いながら心配される。
「大丈夫、それよりも欠席の理由って何?」
「あー、うん、家族が体調不良で学校に行ける状態じゃないらしいって」
「それだけ…なの??」なんとなく、何か裏がある気がした。探りを入れてみる。
「それだけだよ。本人も気にしないで欲しいって電話が来たらしい」
「そう…」
もやもやしていても今は時間がない。彼女に別れを告げ、私は自分のクラスに戻っていった。正直、気になって気になって仕方ない。しかし本人が気にしないでと言っているなら。動きたいけど動けない。
昼休み、用事を済ませた私は本を返すため図書室に向かった。
今日も人が少ないのも気にせず、受付で本を読んでいる。受付担当は日替わりらしく、様々な顔ぶれを見かける。興味はないが、人によっては挨拶や勧誘を積極的に行うらしい。今日の図書委員は静かな人らしい。こちらを全く見ようとしない。
気にせず、借りていた本を返し気になる本を探す。今は異世界に浸っていたい気分だ。タイトルが長文で明るくそうなラノベを探す。あまり読んだ事はないが…素っ頓狂な展開で笑えるかもしれないから。
お目当ての本を見つけ、受付に持っていく。相変わらず本を読んでいる。
「あの、すいません。今良いですか??」
「………」
「あの、」
「うん??どうしたの??」
読んでいた本に栞を挟め、漸くこちらを向く。その顔を私は知っていた。確か…三河姉妹の姉の方だ。中学二年だと聞いている。立ち振る舞いからして先輩とは思えない。あまりに自由すぎる。
「本を借りに来ました。今良いですか??」
「あぁ、良いよ。ごめんごめん」
本を渡す。
「はい、どうぞ」
「ありがとうございます」
無愛想だが、悪い人ではない。走り屋である駆橋未来により霞みがちだが、三河姉妹も人気があった。静かな姉の
「そういえば、君って朝から写真撮ってる人だよね」
「図書委員の中でも話題になってるんだ。いつも昼休みに借りに来てくれるってさ。」
突然話題を振ってくる。
「そ、そうですけど嫌でしたか??」
「いや、大丈夫だけど。」
「丁度今君以外に人も居ないし。もし、時間があるならさ。ちょっとボクと話さないかい?」
「は、はい。」
「何、ちょっとした事だからさ」
「ボクも知りたい事あるし」
「なんですか」
「あのさ、駆橋未来をどう思う??」
他人に評価を聞くなんて、私は面接でも受けてるのか。
「どう思うって普通に思ってますよ。気になるんですか??」
「うん、ボク達も走り屋の話題は出てきてるんだ。君達はいつも追いかけてるし…きっと彼女のファンなんだろう??」
「いや、ファンって訳でもないですけど…」小学生の時盗み撮りしてなんやかんや仲良くなりましたなんて説明出来るはずがない。
「断言するけれど、ボクは、生徒会の皆はそう見てるんだ」
はっきり言い切る三河先輩。私達はファンとして見られていたのか。たしかに撮影部が復活したのは駆橋未来を撮るためだ。大体合ってるのかもしれない。私はファンではないが。友達だ。
「だから、その」
言い籠る先輩。少し迷っている様に見えた。顔をこばわせ、しかし決意に満ちた表情で続けた。
「君、生徒会に移る気はないかい??」
「……息が苦しい」
変わらぬ天井を見つめ、【僕】は自室で寝込んでいた。頭に熱冷しのタオルを乗せ、食事もお粥やフルーツを中心にする。身体が熱い。熱くて仕方ない。最近放課後遊びに行くからだろうか。どこかで風邪をうつされてしまったのかな。疲れを無視していたのかな。どうやら、無理をしすぎたみたいだ。
「風香??体調は良い??」風邪が移ってはいけないからと、ドア越しにお母さんと話す。
「うん、大丈夫だよ…」
まだ熱は引かないけど、余計な心配をかける訳にもいかない。
「まぁ、黙って寝てるしかないよね…」
退屈に押し潰されそうだ。暇つぶしが出来ないかと熱い身体を起こし本を探す。ホラーやギャグ、ラノベなど雑多な種類の書物が揃っているけど全部目が開くほど読んでるから興味は湧かなかった。
「そうだ、アレがある」
机の鍵がかかっている棚を開ける。そこには大切に保管されていた一冊のスクラップ本があった。そこには可愛いらしい猫と未来さんの写真がある。この一冊は私にとって一番宝物だ。
今でも鮮烈に覚えているあの日。あの日以来、自分が自分なのか分からなくなった。それぐらいあの日と次の日の私は今迄と違っていた。きっとまこちゃんも、驚いただろうな。いきなりキスされたんだもん、怖くなっただろうな。本当になんで…あんな事しちゃったんだろ。今の私には分からない。なんでこんなに苦しくなるのか、辛くなるのか、訳が分からなくなるのか。あの子が来て以来更に分からなくなってしまった。
焼咲結城。私にいきなりプロポーズしてきた子だ。私にいきなりプロポーズしてきた子。絡んでくる子。好きだと何度も伝えてくる子。受け入れてくれる子。
嫌いではない。嫌いではないんだけど。気になってしまう。後ろめたさが優ってしまう。
私は、他の人から見たらどう思うんだろ。あの日まで私は人の目を気にし、ずっと優しいフリをしていた。気遣い、邪魔にならない様になり、先生と生徒の中間存在にもなっていた。その様に振る舞う中で、私は彼女と出会った。まこちゃんだ。私はまこちゃんにも同じ様に振る舞った。特に他意はなかった。彼女だけを優遇した訳でもないし、特に意識した事はなかった。
なら何故あの時…キスをしてしまったんだろう?自分でも分からない。ただ衝動だったのかもしれない。意地悪したかっただけなのかもしれない。何より、そう行動する私を怖くなったと思うのに。それでもなんで一緒に居てくれるんだろう。熱い頭の中なんでこんな事を考えているのか自分自身分からなかった。そんな時。
「風香??お友達が来てるわよ」
「えっっ…??」
「ねぇ、元気??入って良い??」
聞き慣れた、彼女の声がした。
親友の家に行く前、私は三河さんとの会話を思い出していた。私は生徒会から勧誘された。
「嫌です」
「何で??写真撮影部は三人しかいないんでしょ??それに最近は一人で動いていると聞いてるよ、このまま活動していても一人のままじゃないか」
「確かにこのままじゃ私は一人だと思います」
「それなら、尚更」
「でも、私は残りたいです。今の日常も好きですから」
そう、私は、好きなのだ。この日常が。親友が笑っていて、ずっと大切にしてくれる焼咲さんが側にいる。私は2人を撮る。それだけで十分じゃないか…。
生徒会に移ればきっと沢山の人と絡む事になるだろう。仕事も任され、忙しい日々になる。今より楽しいかもしれない青春を過ごす事になりそうだ。
楽しそう…私の別の可能性をみる事になるのかも知れない。その可能性を追求していけば、いつか2人に認めてもらえるかも知れない。私も絡める様になるかも知れない。
「私は」
被せる様に、囁く様に三河先輩はその一言を放った。
「優しいんだね」
やさ…しい…??
違う!違う!!私は、私は。
「私は優しくないですよ。まだまだ、親友には及ばないです」
だめだ、熱情が止まらない。
「親友??」
「私は、まだまだ恩返しが済んでないですから」
あれ、
「親友って本当に優しんですよ。小学生の時から嫌いなものを食べてもらったりサラッと勉強道具用意してくれたし、撮影の際も先回りしてくれたり。そんな彼女に返したいものが沢山あるんです」
「邪魔にならないなら、私はそれで良いんですよ。」
いや、なんで。
「だから、まぁ、独りでも動けるなら動いて負担を与えたくないんです。少しでも笑っていてほしいというか、楽しんでほしいというか」
私は、何を言っているんだ??
「生徒会にはいけません。私が個人的な仕事で忙しくなってしまえば2人も動かなきゃいけなくなりますから。今の生活のままで十分ですよ。ただ、もし撮影をしなきゃいけない時はよろしくお願いします」
何を言っているのか分かんないまま、私はそのまま頭を下げる。
「…そうなんだね」
三河先輩は神妙な顔で黙っている。何か反論されてしまうだろうか。
「ふふっ…あははははは!!2人って仲が良いんだね!!」
お腹を抱え爆笑しだす三河先輩。
「えっってなんで知ってるんですか??笑う程ですか??」
「ふふふ。嘘、まさか仲良しなの気づかれてないと思ってたの???いつも二人は一緒に居るじゃんか。それに、意外と可愛い所あるじゃん!なんか安心した」
「かっ可愛いって言わないでください!!恥ずかしいじゃないですか…」
私は赤くなりながら反論する。可愛いなんて言われた事ないし、笑われるなんて…。
「ふーっっふーっっ。あはは、だいぶ落ち着いた。ごめん、ごめん。もう大丈夫だよ」
目から涙を出すほど笑い疲れた三河先輩は、受付の椅子に座った。
「でも、本当にいいの??」
「えっっ??」
「遠くに行っちゃうかもしれないのに」
すぐに反論する。
「遠くになんて行きませんよ。私は動くつもりないですから。きっと大丈夫です。」
「生徒会なら二人で話せる様に場を設ける事だってしてあげるよ??」
またも、反論する
「結構です!!!それに、ダメだと思います。」
「なんで??」
「近くにいても不機嫌になってしまうんです。
距離が近づいても、離れてしまう事もある。私はそうなってほしくないので。無理矢理近づけたって意味がないんですよ。だから、私は今の関係で親友のそばにいたいんです」
「そう、そうなら仕方ないかもだけど。」
やっぱり、肩を震わせ笑いを堪えようとしている。凄く失礼なんじゃない??
「あの、さっきからちょっと失礼じゃ」
「でも一人でカメラを持って動くのはやめたら??一人じゃ限界があるでしょ」
「そう…ですね…」
ごもっともだ。1人じゃ何も出来ない。1人じゃ何も…。
「それと…さっきの話聞く中で思ってたんだけど。偶にはわがまま言っても良いと思うよ??君まで優等生になるのはつまらないよ」
「そうですかね…ていうかやっぱりどこか失礼ですよね…??」
「後ね、勇気出すのも大切だよ???」
「もう十分出してますよ。」
「もっともっと勇気出して。大丈夫だから。なんなら私のせいにしても良いから。キミと話せて良かったよ。想像以上に面白かった。素直だった。可愛かった。でも無理はしちゃダメだよ??。それじゃ青山さん、もう時間ないからまた今度ね」
昼休みも終わり、図書室から出される。私は、私はどうしようか。
「可愛いなんて…いつぶりに言われたかなぁ」
どうやら私は、厄介そうな人に好かれてしまった様だ。
「そんな近づいたら風邪をうつっちゃうよ…??」
膝枕されながら親友は続ける。
「あまり、迷惑をかけたくないんだよ…」
「良いよ、私の我儘だから」
身体が熱い。濡れタオルは何回も変えているのに熱は冷めない。心配だ。
「頭はクラクラしてない?めまいはしてない??」
「だ、大丈夫…」
それでも苦しいのか、頭を横に揺らす。タオルがズレ落ちそうになるが私はしっかり手で支える。思った通り大丈夫ではなさそうだ。
「落ち着いて深呼吸して、そしたら楽になるかもだから」
「う、うん」
膝枕されたまま、仰向けになり息をする。肩が深呼吸に合わせて揺れる。タオルがずれ落ちないように支える。徐々にぬるくなっていくタオル。親友の熱と重なる。私の体温もタオルに伝わり、更に熱くなってしまう。近くにある冷水桶にタオルを入れ、絞り、再び親友の綺麗なおでこに乗せた。
「あ、気持ち良い…ありがと」
「いやいや良いよ、これぐらい気にしないで」
「あはは、まこちゃんの手って冷たくて良いよね」
「えっっ??」
「うん、良い」
とうとう意識までぼんやりしてきたのだろうか。にへらと笑っている。
「いやー、あはは」
「まさかきてくれるなんて思わなかったよぉ…」
「当たり前でしょ。」
と即答する。今迄の分お返ししなきゃいけないんだ。これぐらい当たり前だ。まぁ、迷惑だからと諦めそうになったけれど…
「三河先輩から勇気を貰ったんだ。だから来れた」
「せんぱぁい??また誰かと一緒に居たんだ」
膝枕から急に起き上がり、座っている私の目の前に立たれる。あぁ、不機嫌になってる。
「図書室の人??仲良さそうで何よりだよ、うん。最近頑張ってるもんね、そりゃ図書委員と仲良くなるよね」
強い口調で言われる。けれど、私だって言いたい事は沢山ある。
「でも、樹崎さんも最近絡んでないよね。」
「焼咲さんと遊んでばかり居るじゃん」
「それは…そうだけど…うぅ」
多分、怒鳴られる事はないだろう。親友はそんな事しないけども。不味い、顔が青ざめてる足が震えフラフラしている。
「…そうだねぇ。その通りだよ。」
私の方向に倒れこんでくる親友。私は肩を掴み、親友を支え込んだ。肩を両手で押さえ胸を胸で支える。頭を下げてるからか、どくどくと親友の鼓動が聞こえてくる。今必死に生きようとしているんだ。彼女の心部が今私のすぐ近くにあるんだ…。ずっと聴いていたい。そう思う自分が居た。
「ふぇ…眠い」
「ちょっ風香ちゃん??」
「その体勢じゃちょっと持ちずらいんだけど??」 それとなく伝えてももう遅い。親友は夢の国に行ってしまった。仕方なく布団に寝かせようとするが。
「えっちょっと??」
いつの間にか手を後ろに回され抱かれていた。いつの間に。これでは寝かせる事は出来ない。
「まいったな…」
ちゃんと風呂には入っていたらしく、髪も整えられ、シャンプーの匂いがする。肌も綺麗でベタつきもない。寝巻きも新品の様だ。親友は大切に優しく磨かれていた様だ。私が汚していいのだろうか。
【我儘を言っても良い】先輩の声が反響する。今私に出来る我儘は何があるだろうか。
今、私は布団に親友を押し倒すかの様に布団に横にした。今も私は手を後ろに回され繋がれている。もし誰かに見られたら間違いなく私は非難されるだろうか。危ない橋を渡っていた。けれど、私はこの体勢でいたかった。親友の鼓動を聴いていたかった。そんな私のエゴで、彼女を押し倒していた。
「風香ちゃん、楽しい??それなら、良いんだけれど」
ふと、呟いていた。熱が悪化し意識を失った人に何言ってるんだ。
そう、楽しければそれで良い。全部丸く収まる。きっと幸せになってくれる。
「でも、私の事も、思い出して欲しいな」
あの日、私はキスする直前、親友の事を思い出していた。だから、これぐらいの我儘は許されると思った。まぁ、きっと、聴こえていないだろうけど。
「結局私は何がしたいんだろうね?」
親友の忠言も破り、自分のエゴでお見舞いに来てしまった。嫌われるかも知れなかったのに。なんで熱のある人と口論をしたんだろう。とにかく、熱を下げないと。
バスタオルを見つけ、冷水桶に遠慮なく入れる。一度押し倒す姿勢を解き、全力で絞る。そして親友に被せる。それだけじゃ足りない。このままじゃ冷え過ぎてしまう。だから
「ごめん、本当にごめんね…」
私は親友と、身体を密着させた。上から被さる様に密着すれば2人の体温で熱を奪えると思ったのだ。あまりにも異常な冷やし方だ。でも、そうしたくて、仕方なかった。
何時間同じ体勢でいただろう。すっかり親友の熱は下がり、落ち着いていた。これでひとまずは安定したのだろう。
風香ちゃんの家族から言われる。
「ねっねぇあんた。もう帰りなさい。今8時よ。バスの時間もあるんでしょう。」
「嫌です」
「嫌じゃないよ。帰りなさい」
「わかりました…」
親に言われちゃ仕方ない。不安で不安で仕方なかったけれど、別れるしかなかった。
「親友…また明日ね」
最後に語りかけ、私は家を出た。
その後は親友の事ばかり考えてたせいかベッドに入るまでの記憶がない。
ただ、一つ言えるのは、ひたすら親友に何かしら求めていたという事だ。自己中心的すぎて乾いた笑いが出る。【幸せならそれで良い】なんて考えじゃなかったのか。私は、私が分からない。
放課後、僕はさっきまでの対話を振り返る。まさかここまでとは思ってなかったなぁ。にやりと笑った。
「意外と自信ないんだねぇ」
両想いなんだろうなって見て取れるのに、本人達はまだお互いに気付いてないらしい。いや気付いてはいるけど気にしない様にしているのかな??理由は分からないけれど、いつからなのかな。まぁ僕が気になる理由もないか。二人は、いや三人はこれからどうなるんだろう。
「先輩!!」
「双葉さん、どうしたの??」
「ちょっと、昼休みに本を返し忘れてしまって…今から開けてもらっても大丈夫ですか??」
「あぁ、大丈夫だよ」
めんどくさいけど親しい後輩のためだ、仕方ない。僕は眼鏡姿の後輩の為、職員室に向かった。
「そういえば、彼女の勧誘は成功したんですか??」
「彼女…あぁ、青山さんの事ね。有能ではあるんだけど、ダメそうだった」
「そうなんですね…!!なら私が生徒会に入りましょうか!?先輩みたいに他の委員会と兼業してる人も居るんですよね!!」
「僕は別に構わないけど、走り屋さんも居るし凄く濃ゆい人が多いよ??威圧されずに済む??パシリになる可能性もあるよ。生徒会に入るという事は私達の人気の、ネームを背負うって事なんだよ??出来る??」
「むーっっ…そんなネームなんてそこまで大きな話じゃないですか。大丈夫です。私、絶対に生徒会入りますからね!!三河先輩が居ますから!!!」
この子も騒がしいな…こんな子が図書委員なんて信じられないや。運動部に居ても違和感ないでしょ。押し付けられた心を解放しているのだろうか。
「お、雪音!!!勧誘はどうだったのかしら!!」
「佳奈…」
あ、また騒がしいのが増えた。
「いや、ダメだった。ちょっと用事あるからそれじゃ家でね。」
横を早足で通りすがる。今は話したくない。
「待って!!!!今話そうじゃないの!!!まだ勧誘は出来るかもしれないし!!」
僕と双葉さんは肩を掴まれる。あぁ、もう、逃げられない。佳奈は勢いよく言う。
「青山さんは一人で行動できる有能な人じゃないの!勧誘できなかったのはちょっと見逃せないじゃない!明日も勧誘してみよう!!うん!」
「1人で勧誘してよ。僕は関わらないから。」
「なんでよ!!!!私達姉妹じゃない!!!ここで協力しなくちゃいつ協力するの!!」
「青山さんは青山さんで考えがあるんだよ。彼女は写真撮影部で専念すると決めてたんだ。どうしようもないよ、双葉さんもそう思うよね?」
「写真撮影部だけじゃ活躍しきれないと思うの!!貴方はどう思うのかしら??
「ふぇっ!?」
僕たちの会話についていけてなかったのか、目に見えて動揺する双葉さん。暫く考え込んだのち彼女は小声で答えた。
「えっっえーと…本人の自由意志を優先すべきだと思います…」
「ほらぁ、僕の意見の方が良いでしょう??」
ふふん、やっぱり僕が正しいんだよ。どやぁ。
「うっ…ウーっっっっ!!!!」
声にならない音を出す。よほど悔しい様だ。まぁ無理もないか。青山さんは有能そうだし。
「せめて私だけでも、勧誘し続けてみるわ!!それじゃ、今どこに居るのか聞いてくる!!」
佳奈はドタバタと居なくなった。勧誘に巻き込まれなくて本当に良かった。外を見るともうだいぶ暗くなっている。少し夕暮れに染まりつつある。急がないと。
「邪魔しちゃってごめんね双葉さん。早く図書室に行こう。」
「あ、はい!!」佳奈と僕に詰め寄られ驚いたのだろうか。赤くなっていた。そりゃそうか、いきなり意見を求められちゃあね。早く済ませて休ませてあげないとね。
鍵を開け、図書室に入る。今の時間の図書室は夕暮れも入り、独特の雰囲気を醸し出している。本の匂いも相まって、私は図書室が大好きだった。
「先輩出来ました!!返し終わりました!!」
元気に双葉さんが答える。よし、これで全部終わった。
「分かった。それじゃ帰るよ」
「はい!!」
私は生徒会の仕事の日は生徒会組と帰宅する。今日みたいに双葉さんと一緒なのは珍しかった。だからなんだって話なんだけど。職員室に鍵を返し、生徒玄関に向かう。もう既に履き終えていたのか、遠くから手を振り呼びかけてくる
「三河先輩!!こっちですよ!!!」
「君って偶に子供っぽいよね」
まぁ暗いし、それぐらい不自然ではないんだけど。
「それじゃ帰りましょう!!先輩の家ってどっちですか??」
「こっちだよ」家の方角を指さす。双葉さんは分かりやすく笑顔になった。
「私の家と同じ方角ですね!!良かった、一緒に帰れますね!!」
「う、うん、そうだね」双葉さんはいつも元気だ。走り屋さんとはまた別の明るさを感じる。でも、楽しいからそのままにしといてあげよう。
「いつもはこのバスに乗るんですね、なるほど」
「何がなるほどなのなんでメモ取ってるの怖いんだけど」
撤回、双葉さんは元気すぎて偶に怖い。バレない様にドン引きしていると、バスが停留所に止まった。人は少し多いが乗れそうだ。
「メモ取ってないで早く乗るよ」
ひょいと先に乗る。
「まっ待ってください!!あ、ちょっと!!」
バスに乗り込もうとした時、双葉さんはバッグを一つ外に落としてしまった。このままではバッグが置き去りになってしまう。
「うそっ…うー…仕方ないなぁ!!!」
僕はバスから降り双葉さんとバックを同時に持ち一度バスから降りた。
「運転手さんすいません!」
謝罪しながら再び飛び乗る。無事バスは動き出した。
「もう、ドジしないでくれない??僕にまで被害が出るじゃん」
「す、すいません…」
しょぼんとする双葉さん。ここまで落ち込まれると罪悪感に襲われる。
「まぁ…良いけどさ…」
「…先輩ありがとうございます!!」
少し許されただけですぐ目をキラキラさせる。幼くないか??別に構いはしないけどさ。
「それじゃ、そろそろ降りるね。」
「はい!また明日よろしくお願いします!」
「あ、青山さんおはようございます!!」
「おはようまこちゃん、元気??」
「あぁ、元気だよ」
「よし、2人並んで、はいチーズ!!」
シャッター音を鳴らす。今日も私は1人早めに起きて学校に来ていた。焼咲さんに手を連れられる親友。
「今日用事あるからちょっと先にクラスに行くね。樹崎さんも行きますよ!!」
手を握られ連れて行く親友。
「ちょっちょっと!!待って!!」
親友は手を振り払った。何を求めてるのか察しカメラを放り投げる。
「ちょっちょっと青山さん!?」
私達は両手を重ねる。
「今日もよろしく、私知ってるから。」
「…私もだよ。」
あぁ、親友の手が熱くなる。まだ熱があるのだろうか。耳まで熱く染まっている。
「はい、それじゃ撮るよ!!」
いつのまにかカメラを向けられていた。精一杯両手を繋いだままポーズを取る。そして、シャッター音がなった。
「あーっ私も写りたかったなぁ」
親友と手を離した途端、焼咲さんが話しかける。
「それじゃ、また」
「うん、じゃあね」
うん。これでよし。
「ありゃ、行っちゃった。これで良いの??」
「三河先輩…。」
「良いの??」
「よくは…やっぱりよくはないですね」
先輩はにっかりと笑う。
「そうそう、そんな感じ!!可愛いよ!」
ぽんぽん背中を叩かれる。お陰でカメラがブレてしまった。駆橋未来のベストショットを逃してしまった。
「先輩…」
「大丈夫だって。でも一つだけ」
「何ですか。撮影に集中したいんですけど」
「抱え込むな」
「えっっっっ??」
今迄とは違う重いトーンで告げられる。一瞬音が消え世界が止まった様になった。あまりの真剣さに圧倒された。
「なんてね、先輩風吹かせて言ってみる!!無茶だけはしないでね!!!じゃぁね!!」
返事をする暇もなく、居なくなってしまった。なんだったんだろう。
「お、青山さんおはようっす!今日も綺麗に撮れたっすか??」
「あーいや、今日はブレちゃったっすね。すいません」
「全然良いっすよ!いつも1人で撮って回ってるすっからね!無理はしちゃ行かないっすよ!」
相変わらず眩い人だ。ちゃんと見てくれてるんだ…。知らなかった。ちょっと嬉しい。
「それと、雪音から聞いたっすか??生徒会の事なんすけど」
「私は入りませんよ。今の日常が好きですから。」うん、私は今の日常が好きだ…。好き…なのだろうか。
「そうそう、別に入らなくてもいいんすよ。ただ」
「ただ?」
「生徒会の皆も、沢山撮って欲しいなって」
「えっっ?当たり前ですよ、心配しないで下さい」
彼女は少し暗くなった。本当に少し、だが。
「許可って必要なんすよ。当たり前だからと礼儀を忘れちゃいけないすっからね」
「それじゃ行くっす!!また後で会うかもしれないからまた宜しくっす!!」
今日も相変わらず台風の様に去っていった。しかし、私も交友関係が増えたなと思う。読書家な自分が知れば卒倒するかも知れない。相手は光り輝く生徒会の皆様方なのだから。ダイヤの原石なのだから。
気合を入れる為ほっぺたを抓る。
親友の熱がまだ手に残っていた。それだけで、頑張れる気がした。
「よし、今日も一日頑張ろう」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます