リコーダーの思い出

テーマ:リコーダー



 母から引越しをするから部屋を片付けに帰れと連絡があり、土日の休暇を利用して帰省した。

 相変わらずの田んぼ道で、本当に令和なんだろうかと思ってしまう。

 寒風にコートの前を締めながら、駐車場に停めた車の鍵を閉めた。


 久しぶりに帰ってきたけど、特に思うこともない。

 そのまま玄関から中に入ると、あいにくと誰もいなかった。

 今日帰るって伝えてたのに……相変わらず自由な人達だ。


 2階にある自室の整頓をしていると、珍しい物が大量に出てきた。

 昔集めていたキャラ物のカードや中学生時代に自作小説を書いたノート、渡せなかったラブレター。

 どれも何とも言い難い思い出の詰まった物だ。

 これ、勝手に見られなくて本当に良かったな……


 そんなことを思っていると、押し入れの奥の方から細長い包みが出てきた。

 なんだこれ、と手に取り、すぐに思い出す。


 細長い青い袋。その隅には昔好きだった人の名前。

 中学を卒業する時に、カバーを交換しようと言われ、ドキドキしながら受け取った物だ。


 当時、全く意味が分からなかったけど、そういうミステリアスな部分も含めて好きだったなー。

 この苗字、懐かしいな。あの頃は人生で一番楽しかった。


 友達と意味もなく騒いだり、放課後に寄り道したり。

 好きな人と一緒にいるだけで鼓動が高鳴ったものだ。


 ……しっかし。リコーダーねぇ。

 中学生までは結構使ってたなー。

 専門高校だったからそれ以来触ってもないけど。


 

 不意に、スマホが鳴った。

 カバンから取り出して耳に当てると聞きなれた声。


「実家に帰ってるんだろう? 土産を頼むよ」

「お前な、自分で帰った時に買えよ」

「面倒だから断る」

「……あぁ、そう言えばさ」


 リコーダーの袋を見ながら。


「昔交換したリコーダーの袋、出てきたよ」

「……まだ取ってたの? そんな結婚前のもの、捨てといてよ」

「いやぁ、思い出の品だからね。持って帰るよ」

「君は悪趣味だな」

 

 そんな言葉を聞いて、つい小さく笑ってしまった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る