ゆらゆらと紫煙が立ち昇る

テーマ:ゆれ



 ゆらゆらと紫煙が立ち昇る。


 煙草を吸い、すぐにふぅ、と煙を吐き出す。

 ゆっくりと室内を漂ったあと、じんわりと空気に消えていった。

 それを、ただぼんやりと見ている。


 なんでこんな事になったんだろう。

 一時間前までは、部屋で普通に会話していただけなのに。



 切っ掛けは、そうだ。彼女が着けていたネックレスだ。



 フェミニンな服に良く似合う、シンプルなデザインのネックレス。

 彼女にもよく似合っていて、それを褒めたんだった。


「可愛いね、それ」

「ありがとう! あなたがプレゼントしてくれてからいつも着けてるの!」

「プレゼント? 俺、そんな物あげた覚えないよ?」

「……あれ? ごめん、勘違いだった! 自分で買ったの、忘れてたよ!」


 そう言って、誤魔化すように笑う。

 ああ、やっぱりそうか。相変わらず、嘘が下手なやつだ。


「なぁ、この際だから聞くけどさ。俺はどっちなの?」

「え、何が?」

「本命なのかキープなのか。他に男、いるんでしょ?」

「……そんな、ことは」

「この間インスタに上げてた写真。鏡に男物のジャケット写ってたよ」


 それだけでは無い。彼女はよくやらかしている。

 寝ぼけて違う男の名前を呼んだり、誕生日を間違えたり。

 これでバレていないと思う方が不思議だ。


 それでも俺は彼女を愛していた。

 それだけの魅力が、彼女にはあったから。


「……ごめん。本命は君じゃないんだ」


 申し訳無さそうな彼女の言葉に、席を立った。


 とても混乱していた。

 俺は彼女の一番では無いらしい。

 そうかもしれない、とは思っていたけれど、直接言われたとなると、予想以上にショックだった。


 そうか。俺とは、遊びの関係だったのか。

 こんなにも彼女を、愛しているのに。


 あぁ、愛おしくて、愛おしくて。

 ずっと傍に居たいくらいなのに。


 感情が振り切れて。


 気がつくと、その場にあったガラス製の灰皿を振りかぶっていた。




 ゆらゆらと紫煙が立ち昇る。


 煙草の煙を吐き出し、そっと彼女の頭を撫でた。



 これからは、ずっと、一緒だね。

 アイシテいるよ。

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