7話 戦術目標/戦略的行動
野営地の、南西部。旧ゲート――洞窟の奥深く、その周辺の竜の巣となった地形の周囲、竜の出入り穴と、空爆の穴、激戦の名残――それが見渡せる、木々の最中、崖を背にして、開けた射線の通る場所。
そこが、知性体の確認されたポイントだった。HUD――“夜汰々神”のカメラ越しに眺めるそこには、竜の群れがいた。レーダー上では、200匹程度の群れだろう。近場に竜の出入り穴があるから、その中にもう何体も隠れているかも知れない。
そして―――その群れの奥に、あからさまに見覚えのない形状の竜がいた。
形状、と言うよりサイズだ。普通の竜はFPAと同じくらい――人間より一回り二回りデカいくらいのサイズだろう。だが、その竜は、それより更にデカい。
5メートルはあるだろう。退化した翼、爪のある前足、後ろ足、尾。長い首に一つ目の頭。ほかの竜と比べて明らかに胴の比率が大きい。いや、それこそデカい鱗が何枚も逆立ってるような、そんな膨れ方をしている。
デカくて背中がギザギザの、――青白い竜。
「……アレが、知性体か?」
そう言って、俺は横に視線を向けた。隣には扇奈がいる。俺と同じように姿勢を低くして、目を細めている。
ここは、小高い丘、崖の上だ。竜の群れを一望でき、射線を遮るもののない狙撃スポットの一つ。背後には部隊の仲間――オニ達がいて、竜を眺めたり、装備を確認したり……。
「だろうね。けど、色が違うってんならまだしも、形が違うってのは……」
肯定か否定か。その中間のような呟きを漏らしながら、扇奈は色々思案している。
やはり、知性体と遭遇した事があるらしい。落ち着きようからするとほかの奴らも一緒か。知性体と遭った事がないのは俺だけ……。
鎧の中で息を吐き、吸う。………冷静だ。落ち着いてる。強がりじゃなく。知性体相手だからって、俺はビビッてないらしい。………正直、強い一匹より数百の雑魚の中に取り残される方が怖いから、当然か。
とにかく、あの
「……俺が突っ込んであのデブを殺してくる。ほかの雑魚は頼む」
そう言って、立ち上がろうとした俺を、扇奈が制した。
「待ちな、スイレン。………なんか妙だ。本当に知性体なのか?」
「何言ってんだ?」
「知性体ってのはやたら性格悪くて、逃げ足速いもんなんだよ。周到に隠れてるもんだ。それが、あんな堂々といる………」
「逃げ足速い?……竜のボスだろ?」
「そうだよ、ボスだ。指揮官だよ。汚れ仕事はほかに任せるもんだし、……長生きしてる知性体の周りには変な竜もいるもんだ。変な事出来るようになった、ただの竜がね」
変なことできるようになった、ただの竜?それこそ、親衛隊か直掩部隊みたいのを竜が作ってるって事か?
扇奈が何をそこまで懸念してるのかわからないが………。
「あの青白デブ。群れの奥には隠れてる。指揮官っちゃ指揮官っぽい位置にいないか?」
「だから迷ってんだろ?………ちょっと黙ってな」
苛立たし気に、扇奈は言っていた。知性体ってのは、そこまで神経質に相手しなきゃなんない奴なのか?いや、それとも………。
「………ビビってんのかババァ」
「悪いね、坊や。あたしは今忙しいんだ。構ってやれない」
………クソババァが。
胸中毒づいて、俺は頭の中がお忙しいらしい敬愛する上官殿をその場に、下がって、武器を確認し始めた。
持ってきたのはいつも通りの20ミリと、背中に背負った長柄の近接武器だ。扇奈やオニたちを見てて、近接武器も使えるかもしれないと思ったのだ。が、オニのように刀を使いこなせるとは思えない。そもそも、刀でぶった切れてるのはオニの異能力で刀が強化されてるからだろう。俺にそれが出来るとは思えなかったから、野営地の武器庫を見て、使えそうな武器を探した。
その結果が、長柄の近接武器。薙刀のようで、槍のようで、斧のようで。大剣のよう。種別したらおそらく
と、だ。
「姐さん!」
そんな声を上げ、オニが一人、扇奈の元へと駆け寄っていた。扇奈の副官のオニ、だ。どうも扇奈の小間使いみたいに色々やらされてる。この間名前を聞いてみたら『姐さんの影っす』だそうだ。………本人がそれで良いんなら良いんだろう。
とにかく、その副官は扇奈になにがしか耳打ちし、それを聞いて扇奈は暫し思案した末………部隊の元へと戻ってきて、言った。
「あれの周りにトカゲの群れが隠れてるわけでもないらしい。少なくとも射線通りそうなとこはね。………どうあれ、アイツを生かしてて得することはなさそうだし、やるよ」
紅羽織のオニはそう言って、それに、オニ達がばらばらに返事を投げる。
「ああ、」
俺も、だ。………ばらばらの中で声を上げることに慣れ始めていた。
*
これまで碌な上官に会ったことがなかった。俺の運が悪かったって話なんだろうし、デカい作戦のただの一部になる以上、細かく作戦を考えるだけの余地も時間もなかったのかもしれない。
隊列を崩すな。敵を見たら斉射しろ。逃げるな。―――それしか言わない。部下置いて自分だけ逃げるヤツもいた。逃げた末残った部下の上に――あそこの部隊は全滅したって嘘ついて――爆弾落とすクソ野郎もいた。俺じゃなきゃ死んでた。俺の鼻が長く伸びてるって話じゃない。結果だ。戦友って奴が生きてた試しがない。
だが………やっぱり、この部隊は違うらしい。
*
木々の切れ間から、竜の群れを眺める――。
『カウント、』
通信機から扇奈の声が響き、それに応じて、後方――さっき竜の群れを眺めてた位置にいるオニが、カウントダウンを始める。10,9、………。
完全に布陣した上での、タイミングを合わせての強襲だ。最後方に狙撃部隊を配置し、その前方に本隊――支援火器もちのオニの軍勢が控える。殲滅用の足が遅い大部隊だ。そして、その更に前方――最前線に、俺含めた何人かが、木々の中散り散りに控えている。
腕に覚えのあるオニで構成された、攪乱用の突撃人員。俺も、そこに配置されていた。
俺の腕もそれなりに認められたって事か………少なくとも無茶しても死なない奴、として敬愛なる
そして、それは俺の望むところでもある――。
『7、6…………』
20ミリを腕に、カウントダウンを耳にしながら――俺は、知性体、らしき竜を睨んだ。
青白デブだ。アイツをやったら勲章だ。アイツを殺せたら、大和紫遠への復讐に近づく。そう、奮い立たせる――。
―――生きてください、殿下。
ああ、生きてやる。殺して殺して生き抜いて、最後に大和紫遠を殺してやる。俺の事を舐めて見逃したことを後悔させてやる。そう、憎んで、壊れれば、目の前の地獄が怖くなくなる――。
『4、3………』
『スイレン』
通信機から、扇奈の声が聞こえた。扇奈も、自分を最前線――突撃人員に入れている。
「なんだ」
そう問い返した後、笑みを零したような――もし、その顔が見えたら凄惨なオニの笑みかもしれない息遣いが聞こえ、それから、扇奈は言う。
『………早い者勝ちだよ、』
直後、だ。俺の視界の隅、竜の群れを俯瞰するその視界に、紅い羽織が入り込んだ。
『1、………』
「………クソババァが!」
吠えて、俺も飛び出した。
フライングだ、あのクソ鬼ババァが。自分で言ったカウントダウン破って、自分だけ先に飛び出しやがった。
視界の隅の紅い羽織が、竜の群れの中に突っ込んでいく――一閃で2匹、手近な竜の首が刎ね跳び、その身体が倒れる前に更に一匹、首が跳ぶ。
そこで、漸く、竜は動き始めたらしい。身を起こし掛け、手近な獲物へと近づき始めるが、始まった狙撃が、本隊からの射撃が、みるみるそれを真っ赤なミートソースに変えていく。
「クソがッ!」
吠え、俺も20ミリを放った。射線の先にいた竜が消し飛ぶが――出遅れた。
周囲で、刀を持ったオニが竜の群れの中を突っ切って行く――俺も含めて、向かう先は青白デブ。だが、その中でも、フライングの分、いや、そもそもの戦闘能力の分、突出して進みが早いのは扇奈――。
そして、突如始まったその乱戦の中で、青白デブが、動いた。
重そうに身を起こし、周囲を眺め、身体を動かし―――その視線が捉えるのは、突出してる扇奈。
青白デブが、その両腕――爪を深く、地面に食い込ませた。姿勢固定のように体を固めた青白デブ、その背中の逆立った鱗が、燐光を発し始め、青白い皮膚を貫くように、そこを通る閃光が漏れ出ている――。
「扇奈!狙われてるぞ!」
『……だろうね、』
扇奈は冷静に、戦闘を続け青白デブへと突き進みながら、そう声を返していた。
………織り込み済みで行動してるのか?自分がおとりになって、手の内を探ろうとしてるのか?指揮官自ら?
どっちが、馬鹿だ……。
「クソがッ、」
吐き捨て、俺は前進し続けながらトリガーを引く。
無視できる奴は無視だ――無視しても背後の仲間(オニ)が殺しておいてくれる。だから、俺は目の前の敵だけ、移動の邪魔になる奴だけ殺せば良い。
目の前に10匹――そのうち進行方向を阻害する奴は………。
そう、考えている間に、その奥の青白デブが、大口を開いた。その大口から、眩い光が漏れ、そして――。
「………ッ、」
―――その光景に、俺は思わず、息を呑んだ。
見たことのない――どこか幻想的ですらある、光景だ。少なくとも真横から見る分には。
白く輝く竜が、閃光を吐き出している――平行に滝が落ちていくような、それでいて落雷が真横に走っているような破滅的な光景。
それが―――射線上の全てを焼いていた。地面が抉れ、目の前にいた竜もまた抉れ、その先の林が消え去り、燃え上がり――。
―――光が消えた後、射線上には何もなかった。そこにいたはずの竜の姿も、……それをぶった切っていた扇奈の姿も、見えない。
「な、…………」
扇奈の姿を探そうとして――俺の視界に、尾が映った。
「クソ、」
咄嗟に持ち上げた20ミリを、竜の尾が貫く――呆けている場合じゃない。ここは、竜の真っ只中―――気を抜いたら、死ぬ。
「クソッ!」
扇奈は?無事なのか?確認しようにも周囲には竜が群れ、
―――生きてください、殿下。
呪われたように俺の身体が動く。貫かれて使えなくなった20ミリを投げ捨て――捨てる間に最後方からの狙撃でその竜の頭が飛び散り、ミートソースが目の前に――。
「クソがァッ!」
吠えて俺は、背後の大斧を手に取った――手に取ると同時に振り回す。
FPAは怪力だ。装甲に覆われている事よりも、その装甲を気にもとめない怪力の方が凶器に近い。そんな怪力でなければそもそも持ち上がらない、馬鹿みたいに重い、申し訳程度に刃がついてるだけのクソみたいな鈍器。
振り回した腕に硬質の感触―――直後、周りにいた竜が何匹か、潰れた。
「―――ガァァッ、」
重さに振り回されて崩れた体勢を吠えて戻す――そうしている間に、視界の先、倒れる竜の血しぶきの向こうの巨体が、身じろぎした。
青白い巨大な竜が首を回す――その視線が、気色悪い単眼が、俺を捉える。
扇奈を殺したのか?その気色悪いゲロで?
次は俺の番ってか?てめえのゲロまみれになって焼けて死ねってか?
ふざけんな、青白デブが――。
「―――クソがァァァァァッ!」
吠え、俺は駆け出した―――その俺の目の前が、何匹かの竜が立ち塞がる。
が、そいつらは無視だ。要があるのは気色悪い青白デブだ。ゆっくり身じろぎして俺の方に身体を向けようとしてるあの気色悪い奴だ。アイツを、殺す。アイツを殺してやる――。
右から尾が迫る――その刃のような鋭利さの側面を、腕で、手の甲で弾き、無視して前へ。
左から爪が迫る――浅い。それは完全に無視だ。ガリ、と装甲が削れる音がするが俺は無視したまままた前へ。
正面。目の前で、大口が広がる。牙が、俺を食い殺そうと迫ってくる……ああ、
大口を上から殴る。殴り倒す。強制的に閉じられた口から牙の欠片が跳ねてその首が足元まで落ちて来たから踏みつけて―――これでこの竜は永遠に人を噛んだりしないだろう。それにほら、ああ、なんて良い子だ――頭をミートソースみたいにしてかしずいてくるその良い子の向こうにはほら、念願のクソ青白デブだ。
死体を踏んで、蹴って、砕いて、両手で大斧を持って、進んでいく――。
――青白デブは体ごと俺の方を向いていた。背中が燐光を放ち、その首を光がとおり、俺へと向けられた大口へ、その光が集まって―――。
けれど、そんな長い準備を待ってやる義理はない。タイミングはさっき見た。さっき――扇奈を焼いた時にどのタイミングかは教わった。もう至近距離でも――生きてください、殿下――ああ、躱せるし、この距離ならもう、そもそも、撃つより俺の方が速い。
大口を開け、首を伸ばした青白デブーーその側面に周り込む。踏ん張った足が地面を、泥を抉り、そうやって止まると共に、俺は真上に大斧を振り上げる。
「――ハハ、」
よく見りゃこいつも良い子じゃないか。だってほら、切りやすいようにわざわざこうして首を下ろしてくれるんだから。
「ハハハ――」
笑いながら振り下ろした。酷く暴力的な手持ちの断頭台。さっき切った血糊でもう、切れ味が鈍くなっていたんだろう。青白い首に食い込んだ刃が鈍く、ゆっくり、それこそ叩き潰すように、それでも止まることなく―――。
ガン、と大斧が地面を叩いた。目の前が真っ赤に染まる――夥しい返り血の中、横でぽとりと、いや、ぼとりと重い音を立てて、開きっぱなしの首が落ちる。姿勢が良い子だから、胴体はそのまんまだ。そのまんま、立ったまんま、姿勢固定したまんま、魂が抜け出て行くみたいに、その背中の輝きが消え去って行く――。
「……………、」
殺した?殺した、のか?知性体を?扇奈を殺した奴を?殺せたのか?こんなにあっさり?こんなにあっさり終わるのか?これで、これで勲章。これで大和紫遠の首にも手が届く?また、今度こそ………。
なら、俺は、喜ぶ、べきなのか?
………急に体が重くなった。なんだか……なんで?よくわからない、自分が。
教えてくれるだろうか?どうして、何かの心理的な反動なのか?聞いたら答えてくれるだろうか?それとも答えずはぐらかされるだろうか?どちらでも、多分、俺はまだ動けるようになる。
聞いてくれ。俺は今日知性体を――。
「スイレンッ!」
鋭い、叱責の声に、ゆっくり―――世界がゆっくりで俺もゆっくり、横を見る。
横に、竜がいた。俺へと牙を剥きだしてくる―――それに、反応し用途は思ったけれど、身体が、マヒしたように………。
目の前が、真っ赤に染まった。血――ミートソース。生きてください、そう、お願いして、助けてはくれたけれど、結局、自分は………。
いや、ぐちゃぐちゃじゃない。目の前で落ちていく竜の首は、ぐちゃぐちゃじゃない。綺麗に一本、切り裂かれてる。そうやって首が落ちて、胴体がぐらりと傾いて――その奥に、刀を握ったオニがいた。
紅い羽織が少し焦げている。だが、それだけだ。それしか変化がない様子で、そのオニの女は、軽い調子で、竜の群れを背景に。
「ほら、気ィ抜くな。帰るまでが戦争だよ?」
「………ッ、ああ……」
言われた瞬間、身体のマヒが取れた。そうだ、まだだ。まだ終わりじゃない。知性体を殺して、殺したから、生きて帰れば勲章。それで、そう、そこまで生きれば良い――。
大斧を手に、周囲を見る。まだまだ竜は周囲にいる。こいつらを、殺す――。
そう睨む俺の視界で、俺に背を向け竜に太刀を受けながら、扇奈が言う。
「……ああ、もしかしてあたしの心配してたか?」
「二度としねえよクソババァ、」
「また言いやがったな、後で殴るからね」
言って、扇奈は竜の群れへと突っ込んでいく。その後をついて行くように、俺は――。
*
―――竜の死骸が周囲に何体も何体も転がっている。見上げる空には終わり掛けの夕陽。
周囲には、ほとんど被害の出ていない、オニの部隊――。
青白デブを殺した後は、楽だった。いつも通りの
少なくとも体の問題でも、
視線を動かす。すぐそこに、首の落っこちた青白デブの姿がある。俺がぶった切った、知性体。勲章、復讐への引換券。それを手に入れて……満足でもしたのか?
あるいは、ビビった?
大和紫遠と直接会った。復讐は出来なかった。勝てなかった。けれど、円里は俺の欲求の一端が解消されたって言ってた。敗北感を植え付けられたってのに………。
自分の掌を見る。鎧に覆われた、真っ赤な掌。それを、汚いと思う。俺は潔癖なんだそうだ。
……俺は、本当は、復讐なんてしたがってないのか?なら、俺は………。
「何ぼうっとしてんだい、クソガキ。引き上げるよ、」
そんな言葉と共に、背中がガンガン鳴った。扇奈が俺の鎧の背中を叩いているらしい。
「ああ………周辺確認は?終わったのか?」
俺はそう問いを投げる。戦闘が終わった後もこの場にとどまっていたのは、扇奈の判断だ。判断、と言うより、懸念だろう。
知性体にしてはあっさりしすぎてるそうだ。扇奈はずいぶん、知性体に苦汁を舐めさせられているらしい。少なくともいつものように、勝ったから酒、って気分ではなかったようだ。
「終わったよ。な~んもいやしねぇ。……竜の考えなんざ想像したところでって話なんだろうけど……」
周辺確認は終わらせた。なのに、扇奈の表情は浮かない。
「何がそんなに気になるんだよ?」
「何もかも、だ。汚いゲロトカゲはなんでここにいたんだ?なんで見えるところに立ってた?なんで前と同じ場所にいる?そもそも、なんでこの戦域にまだいる?残敵の掃討だ、こないだのデカい戦争でこいつがいたら報告があるはずだ。被害も出てるはず、だってのに、新しい敵の報告が、残敵の掃討の中で出る………」
言われてみれば、あの青白デブ。こないだのゲート攻略戦にはいなかったんだろう。いたら死んでる――味方も、あるいはこの青白デブも。ビビッて隠れてた、なら……今回堂々と待ち構えてたのがおかしい?それこそ、……この青白デブが本当に知性体だったなら。
「結局知性体じゃなかったって話か?」
「知性体じゃなかったんなら、飼い主がいる。本物の知性体の方がね。いるならここを見物してると思った。が、その痕跡もなかった。そもそもなんでこの戦域にいる?ゲートの攻略戦が終わってから来たのか………我が親愛なる陛下と同じこと考えてるのか」
大和紫遠と同じこと?アレの考えてることが理解できる奴なんているのか?
いや、同じ行動をとったって話か?我らが親愛なるクソ陛下がとった行動は………。
「……新兵器の試験?」
「比較的安全が確認できて、試し撃ちの相手がいる戦域でね」
「なら、」
「見物してなきゃおかしい。だから探させたんだよ。けどいなかった。じゃあ一体何だろうねって話をしてんだよ、」
ババァ、妙にイラついてやがるらしい。
「試験が終わって、使えないから捨ててったんじゃないのか?」
「前回は戦果上げてんだよ?ここにいる同盟軍の兵力3分の1………」
そこで、扇奈が動きを止めた。何かに気付いた、と言わんばかりに。
と、思えば。
「撤収だ!急ぐよ!」
そう部下に声を上げ、いきなりせわしなく、扇奈は動き出した。野営地に戻ろうと言うらしい。オニたちは顔を見合わせ、だがすぐに、扇奈の指示に従って動き始める。
が…………。
「なんなんだよ一体」
「あの玩具が不出来だったから大和紫遠は帰った。けど、もし出来が良かったら?まだ遊ぶだろうよ、もっとえげつない使い方試す為にね」
「えげつない使い方って………」
そう、俺が呟き――その瞬間、だ。
暮れかけの――暗くなり始めた空に、閃光が奔った。
ここ目掛けて撃たれている訳じゃない。が、さっき見た青白デブが吐いてたのと同じ閃光が、夜に輝いている。
あの位置、方角は………。
「………野営地?」
「戦術の基本は各個撃破だ。餌に釣って戦力を分断。で、安心してる方を――」
………野営地には、円里がいる。そこが、襲われてる?竜に――。
死に様が脳裏を過った。生きてくださいとミートソースになる女。アレがまだマシな死にざまだったって、そう思える死に方をして、竜に食い殺される友軍――。
「…………ッ、」
俺は、駆け出していた。………勲章も復讐も考えていなかった。
―――生きてください、殿下。
そう言われた時は何も出来ないガキだった。でも、今は、大層な鎧を着て、大層な武器を構えて――。
それで?
それなのに?
また、俺はただ、見送るのか………?どんなに嫌だと叫んでも、多分、もう………。
「クソッ、………クソッ!」
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