陛下!失敗です!~タルコス上陸作戦②~
失敗だ。完全な失敗だった。海上の船の上、大きく揺れ動く甲板に追い討ちをかけれるような感じで、敗北者たちは仰向けになってえずいていた。皆傷だらけで甲板には血生臭いにおいが充満している。
皇帝軍は結局、ソーダロガ率いるおとり班がどのタイミングで上陸したかもわからないまま上陸し、タルコスに向かった。タルコスに着くと、さっそく町を取り囲む外壁の上にいた反乱軍から矢が飛んできて、しばらく弓矢と投石の応酬となった。そしてなんとか弓矢隊を倒したはいいものの、中に入ると驚きの光景があった。すでに重装歩兵が誰かと戦闘を繰り広げていたのだ!しかもその反乱軍が戦っている相手の旗には見覚えがあった……。
「あ! あいつまさか!」ダカラナニが素っ頓狂な声を上げた。
すぐにそのここにいないはずのあいつが姿を見せた。面長のコワモテ……。
「ソーダロガ!」
ダカラナニの怒号に、ソーダロガが気づいたのか、一瞬こちらを向いた。その隙に相手の騎士がソーダロガに向かって剣を振り上げる。
「危ない!」ダカラナニが叫ぶ。
慌ててソーダロガが剣を振りかざす。剣と剣がぶつかり合う。危なかった。
「みなさん! 敵に囲まれました!」ボールが絶望的に叫ぶ。
「困った……。動揺してしまったせいで敵に隙を与えてしまった」
皇帝は肩を落とした。
四方八方から攻められ、後ろを取られないように味方同士背中を合わせて戦うものの、次々とやってくる騎士たちの剣さばきに次第についていけなくなってきた。
「陛下、ここは厳しいです。撤退が望ましいかと」
ボールが半ば私情を含んだ忠告をすると、皇帝は唇をかんで、息を吸い、
「撤退だ!」と叫んだ。
そのときだった。
どこからともなく強い風が吹き始めた。この町の外はみな砂漠。ということは……。
「砂嵐だ!」
そうダカラナニが叫んだ途端、目の前の視界が一気に遮られた。激しい風に乗った砂が顔に当たる。目も開けられない。ただ皇帝の命令は絶対なので、みんななんとか町の外へ出て行こうと走り出す。
周りにいるのが敵味方かも分からないまま、地面が石畳でないエリアに着いた。やがて風も収まり、辺りの様子が見えてきた。ボールが周りを見渡すと、そこには町の風景の代わりに海が広がっており、皇帝軍の船が浮かんでいた。
ふう……助かった……。味方の兵士も多数戻ってきており、なんとか逃げ切れたようだった。
「本当に、申し訳ありやせんでしたー!」
足を引きずりながらも例の応接間に戻り、すぐにソーダロガは皇帝に土下座した。
「俺、やっぱりおとりはやりたくなくて、それで向かってしまいやした」
「お前どうせ手柄が欲しかっただけだろう?」
「違う! 絶対に違う! 俺はただ……」
ダカラナニの追及にソーダロガが涙ながらに反論しようとするも、うなだれてしまった。
「とにかく……。俺が悪いんです。俺をどうにかしてくだせえ。他の奴らはどうか……」
「もうよい。過ぎ去ってしまったことだ。それに、ソーダロガ、お主は悪くない。最高責任者は指導者である私だ。余もお主が上陸するはずのタイミングを決めておくのを忘れていたのだ。だから気にするでない」
皇帝の慰めにソーダロガがおいおい泣き出した。
「そんな……。陛下がこんな俺に……。脳筋と馬鹿にされた俺に……。こんな言葉を下さるなんて……。一生ついていきやす!」
脳筋て呼ばれてたんだな……。哀れみの目で見ていたボールはふとダカラナニに目をやった。ダカラナニは顔を赤らめている。
「さあ今日は休んで次の作戦を考えようぞ」
皇帝は立ち上がって応接間を出て行った。慌ててボールも出ていった。
後には猛獣の二人だけが残った。
応接間の中は、ソーダロガの咽び声だけが響きわたっている。
「ソーダロガ」ダカラナニが口を開いた。
「な、なんだよ……。殴るんだったら殴れよ」ソーダロガは土下座の姿勢のまま身構える。
「殴らねえよ」ダカラナニも入り口を見たまま動かない。
「それよりなんか……。なんか……ごめん」
「なんでだよ、お前は悪いことしてねえじゃん!」ソーダロガが振り向いて顔を上げた。涙でコワモテがぐっしゃぐしゃになっている。
「いや、ホントはお前も町を攻めたかったのにジャンケンなんかで決めてさ。その上、作戦失敗したら俺、お前を責めることしか考えてなかった。だけどよ。陛下は全然違った、俺ビックリしたよ。大帝国を束ねてる皇帝が、自分が悪いっていうんだから。お前も感動してたけどよ」
「……」
「一国の危機だっていうのに、こんなもめ事ばっかで、他人を責めるばかりのようなヤツが総督なんて務まるかよって思ったんだ」
「……」
「だからよ。そのなんていうか……」ダカラナニはもじもじした。
「仲直り……しようぜ」そう言ってダカラナニは手を差し伸べた。
しばらくの沈黙が続いた。夕日はとっくのうちに沈み、灯火の光だけが二人を照らしていた。
ソーダロガは手を握り返し、立ち上がった。
そしてどこからともなく二人は笑いだした。お互い初めて見る笑顔だった。肩を抱き合い二人が応接間を出ていった後も、廊下には笑い声が響き渡っていた。
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