陛下!突撃です!~タルコス上陸作戦①~

 朝。臣下ボールは扉を叩いていた。焦りで手汗がびっしり出ている。

「陛下! 早くしてください! もう間に合いませんよ!」

「なん……だと……」

 しばらくして扉が勢いよく開いた。

 すっかり重装備姿の皇帝コレカラキメルノである。

「剣を左に盾を右に持つか、剣を右に盾を左に持つか迷っておるのでのう。あと毒針も忍ばしておこうかのう。鎧が相変わらず重いのだが、ホントに軽量化されておるのかね?」

「陛下、まずは朝食ですよ。あと陛下は右利きですよ」

「そうか……。まだ鎧はいらなかったか。ではマントを……」

 部屋に戻ってマントを探し始めた皇帝をボールは呼び止めた。

「陛下、鎧のままでもいいですからすぐに向かってください」

「はーい」

 幼いこどものような返事をして、皇帝は朝食に向かっていった。

 こんなので戦えるのかな……陛下……?

 ボールは皇帝の背中をぼんやり見つめていた。



「さあ! 戦いの時だ! 皆の衆、覚悟はよいか?」

 皇帝の言葉に騎士たちが剣を持った手を上に挙げ、「オー」と答える。

 先ほどとは違う、勇ましい姿にボールは少し安心する。

 結局、どちらがおとり班になるかはジャンケンで決まった。

「くそ! 覚えてろダカラナニ!」ソーダロガが地面を殴っていた。


 総督が監禁されている一つ目の町、ミルタルコス領都タルコスに皇帝とボール、それにダカラナニ率いるタルコス突撃班が向かうよりも先に、ソーダロガ率いるおとり班が少し離れたところから侵入する。どちらにせよ海を越えねばならない。

 ミルタルコス海は内海であるからか海は穏やかであるが、タルコス付近は海峡となっているため、渦潮が時々発生している。

「これは……。船酔いして倒れてしまいそうです~~」

「このぐらい平気だぜ!」

「短剣は必要か? いや、弓矢の方がよいか……」


 なんとか海を越え、敵がいなさそうな向こう岸を探す。ほどよい岩があるといいのだが、こちとら何万かの大軍のため、容易に隠れることができない。

 さらに問題が噴出する。

「そういえばなんですけど……。」ボールが遠くを睨む。

「ソーダロガさんが上陸して敵に発見されたことってどうやったらわかるんですかね?」

「それは……」

 ダカラナニは座り込んで腕を組んで考えた。いや、考えるふりをしただけだった。

「それは……」

 皇帝も目をつぶって考えた。なにも浮かばない。いや、浮かびようがない。ソーダロガとはタイミングのことなどなにも打ち合わせずに別れてしまった。もうどうしようもないのだ。

「あいつのことだからそそくさと上陸してるかもしれやせん。とっとと上陸して手柄を手にしたいはずです」

「いや、まさかの上陸して敵に帰り討ちにあってるかもしれませんよ」

 ボールは勝手にその状況を想像して震え上がった。

「そんな……」

 さっきまでの活気が嘘のように消え、ダカラナニは黙ってしまった。

「とにかく……しばし待ってから町に向かってみるか?それともすぐに行くか?うーん迷うな……。ダカラナニ、ソーダロガが上陸するであろう場所からタルコスまでどれほどかかる?」

「そうですねえ……考えたことねえです」

「そうか……」

 皇帝も黙ってしまった。

「いったん戻って作戦立て直します?」

「ダメだ、ソーダロガがもう作戦を始めているかもしれん」

「いきやしょう陛下。神に成功を祈るしかありませんよ」

 ダカラナニが立ち上がった。もうやるしかないのか……

 ボールの心臓の鼓動が高鳴りだした。そして皇帝も立ち上がりこう言った。

「祈るんだったらちゃんと物品整えてやるべきか?一応モノは持ってきたんだが」

 ……。


 こうして兵士たちはしっかり儀式を行い、タルコスへ向かうのであった。














  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る