Ⅱ 灼熱の戦い~砂漠の戦闘民族戦~

陛下!合流です!~怒れる総督~

 暑い。うだるような暑さである。汗がずっと首元に浮き出続けている。馬車に乗ってもう何日か。気の遠くなるような旅路である。


「まだつかないんですかね?」臣下ボールは御者に尋ねる。

「いやあ。まだだね。全然あと2日かかるね」

「そんなあ……」ボールは馬車の中で崩れ落ちた。

「ここいら一帯は砂漠しか広がってねえからなあ。オアシスもねえし」

 御者はラクダをムチで叩く。

「グゥワー!」

 やる気のなさそうなラクダがちょっとだけ加速した。が、すぐに減速した。

「こいつぁこないだメス争いに負けたからな、引きずってんだよ、な?」

 御者はラクダに話しかけてムチを打つ。容赦ない。

「すいやせんね。こいつ調子悪くて」

 御者がボールの方を振り返って頭をかく。

「いやあ。全然大丈夫ですよ」

 大丈夫じゃないけど。急加速して早く目的地に着いてほしいけど。

「まああせらなくてよろしい。敵は逃げやせん。総督軍が頑張っておるはずだ。景色でも見ておればよろしい」

 皇帝は一面砂だらけの世界を見渡した。

「そうだといいんですけどね……」

 皇帝はじめ、騎士たちも連れた馬車の軍団はマイペースに進んでいく。とても戦場に向かっているとは思えない。


 砂漠地方――キメルノ帝国の西に位置する砂漠の国々からなる地方では内海を隔てて二つの勢力が争っている。一方は皇帝側の西スニジ=アッシュム連合領、もう一方は反乱側の東スニジ領、ミルタルコス領である。

 今、一行は皇帝側の総督に合流するため移動中というわけである。

 残念ながら砂漠は砂漠であった。何もない。たまにあるのは……






             サボテン

             









             サボテン














            サボテンぐらいである。

 そんな退屈な時間が続いたので、総督がいる基地に着いた時には勇者の行進が者の行進に様変わりしていた。そんな死者たちを総督、ダカラナニとソーダロガが笑顔で出迎えた。「おお、誇り高き陛下一行よ!」

 今はホコリ髙き皇帝一行だが。


 簡易で作られた応接間で二人の総督と皇帝、臣下、兵団隊長が長机を隔てて向き合った。

 顔が大きくて丸い方が西スニジの方の総督ダカラナニで、面長の方がソーダロガ。あと両方コワモテである。二人ともちょっとなにか変なことを言えば絞められそうな気迫だ。戦闘タイプの総督といったところだろうか。両者、腰には短剣がびっしり並んでおり、ボロボロになった服の破れ目から傷がのぞいている。

「いや、ありがてえことです」ダカラナニは会釈し、隣に目をやった。慌ててソーダロガも会釈した。

「陛下直々のお出ましだなんて。よくぞ来てくださいやした」

「うちがかなりヤバいってことを伝えたのは俺です」ソーダロガが自分の顔を指さしした。

「いや、最初にヤバいだろって判断したのは他でもねえ俺です」即座にダカラナニが反応する。

「いいや! 実際にヤバい状況を見ていたのはこの俺です」

「なにを! 実際そのヤバい状況で戦ってたのはこの俺です」

「いやいや、実際そのヤバい状況で最前線で戦っていたのはこの俺です」

「その中でも一番傷を負いながらも頑張っていたのはこの俺です」

「なんだと……」

 両者互いを睨み合い歯ぎしりする。皇帝とボールはそんな猛獣たちをあっけらかんと眺めていた。

「彼らは……」皇帝が口を開いた。

「何をしておるのかね?」

「さあ何でしょう……?」ポールは皇帝と顔を見合わせた。


 なんとか二人は落ち着きを取り戻し、作戦会議に移った。

「向こうの兵力は4万。こちらの兵力は3万から5万に増えやした」ダカラナニが長机に広げたボロボロの地図の一点を指さした。

「今反乱の起きている領地の総督は監禁されております」

 それを聞くなりソーダロガが拳を合わせた。

「あいつら、なめたマネしやがって。今度あったらボコボコにしてやる!総督のやつらめ」ボコボコにされるのは総督のほうなんだ……。ボールはあっけにとられたが慌てて、

「総督たちを解放しなければなりませんね」

 と答えた。

「ただやつらが総督やらを人質としてくるかもしれない。ほうれ、ここに総督がいるのに弓矢を打てるのか? という感じで」

「異民族に負けたあいつらなんてどうせボコボコにするんだから関係ねえよ。勝てばいいんだから」

「さすがにそういうわけにはいかん。救出も鎮圧も一気に終わらしたいところだ」

 そう言って皇帝が怒り狂うソーダロガをなだめる。

「へい……」ソーダロガは分かりやすくうなだれた。

「どうしましょう?二手にわかれるのか全員で一気にいくのか?」

「そうなんだよなあ。相手は沿岸を警備してるから、まず海を越えて敵をぶっ倒しながら上陸しないといけねえ。こちらが手間取ってる間に海軍に囲まれてやられるとなると困る」

「そんなこたあねえ。西スニジの連中が弱いだけだ。俺らアッシュムはそんなヘマしねえ」ソーダロガがつばをとばす。

「じゃあなんで今ピンチなんだよ」

「だから困ってんだろ!」


 また二人の喧嘩が始まるんじゃないか? にらみ合う二人を見てボールが怯えているのをよそに、皇帝はずっと腕組みをして目をつぶっていた。

 二人が罵詈雑言を吐きながらいよいよ相手につかみかかろうとしたその時、

「総督がいる町から離れた場所から上陸する」

 と皇帝が宣言した。こんな緊迫した状況なのに表情がまったく変わっていない。

 この突然の宣言には二人も面食らった。

「へ? なんでそんなところから上陸するんですかい?」

 ダカラナニが目を丸くして尋ねた。

「まさか相手は町から離れた進軍するには遠回りな場所から5万の大軍がやってくるとは思わんだろう」

「確かにそうですね。そう考えている分警備が薄いかもしれませんね」

 ボールがうなずく。

「思わぬところから敵がでてきたという情報が入れば、ある程度町から兵力が動くだろう。そこを叩く」

「なるほど! 一方がおとりになってもう一方が町を攻めると! なるほどガッテン! おとりは頼んだぜ! ダカラナニ!」ソーダロガがダカラナニの肩を叩いた。

「なんで俺がおとりなんだよ! お前はおとりだろ!」

「活躍してるのは俺なんだから俺が町を攻めるに決まってる……」

「いや俺が……」

 もうまた喧嘩? 大丈夫かなこの二人……。明日の作戦実行が心配になるボールであった。


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