陛下!ご判断を!~緊急会議②~

 皇帝コレカラキメルノ=ジャーは、臣下ボールからの報告を熱心に聞いた後、

「そうだな……」

とうつむいて考えだした。


 しばらく沈黙が流れる。だれもなにも言わない。帝国の半分が一斉に反乱をおこす。世界の8割を支配していればそりゃ反乱の一つや二つぐらいおこるだろう。ただ、広さが広さなので、そんなに大量の軍勢が攻めてきたらひとたまりもない。まずどこから肩をつけるべきか。それを選んでいるだけでもう間に合わないかもしれない。ましてや前代と違って即決できない皇帝では……。


「陛下」

 ちょうど皇帝の反対側に座っていた男が高く手を挙げた。皇帝の兄にしてハジール領総督のヨースミテキメルノである。

「時間がありません。メラマリィー領からの軍勢が総督を倒すのを待たずにこちらに攻めてくる可能性もあります」

「わかっている。時間がないことは」

「ですから私がハジール領の軍人たちを引き連れて、ここヴィジャーバルに攻めてくる敵軍を迎え撃ちたいのです」

「そうか。ハジール領は直轄領と隣接しているからな」

 帝都ヴィジャーバルを含む領地は皇帝が直接治める直轄領となっている。

「なら余はポドウ領に向かおうか」

「いえ。今は西の砂漠地帯のほうが危険です。西スニジとアッシュムは連携がとれておらず、このままでは東スニジとミルタルコスにやられてしまいます。そうですよね?大臣」

 ヨースミテキメルノ総督は陸軍大臣に目配せする。

「その通り。正直アーリ族やセーム族よりは厳しい気候に慣れている砂漠地帯の民族のほうがやっかいではあるでしょう」

「大丈夫でしょうか? 陛下はここに残っておいたほうがよいのでは?万が一のことがあれば……?」ボールが心配ありげな表情をみせると、

「何をいっているんだ。帝国の未来のため、皇帝が率先して動くべきなのだ」と皇帝が初めて声を荒げたのですぐに、

「申し訳ありません」

とボールは平謝りしたが、こう思った。


こんなに判断に時間かかる人が戦場で指揮できるのだろうか?


しかしそんなことを口に出すわけにはいかない。だがしかし、敵は大量にいるんだぞ……。


 再び沈黙が流れた。窓から太陽が天高く昇っているのが見える。地上で何が起ころうとも太陽は素知らぬふりをして変わらずにこの世界を照らし続けている。太陽から見ればこんなにも絶えず争っている我々はどんなに愚かに見えていることだろう。ただ我々は秩序を守り抜くため、戦うしかないのだ。


「余が砂漠地方を」皇帝が重い口を開いた。みんな真剣になって皇帝の顔をじっとみている。「余が砂漠地方の戦いを終わらせる。ボールは余についてまいれ」

「はい」ボールは即座に敬礼した。

「兄上はメラマリィーとの戦いを頼む」

「ありがとうございます。任せてください」ヨースミテキメルノが自分の胸を強く叩く。

「陸軍海軍大臣はここにのこって全ての領軍への指揮を頼む」

「お安い御用であります」

「よし、それでは各自動け。帝国の未来をかけた戦争だ!」

 皇帝は勢いよく立ち上がった。みんなそれに続いて勇ましく「オー!!」と叫ぶ。これでこそ勇ましいキメルノ皇帝の民なのだ。ボールはこの景色を誇りに思った。


 みんなが駆け足で出ていき、部屋には皇帝とボールだけになった。

「ボール。」珍しく皇帝が臣下の名前を呼んだ。

「少し頼みがあるのだがね……」

 皇帝は周りを見渡した。もちろん誰もいない。

 ボールは皇帝からの提案を聞き入れた。ただいつもの皇帝とは思えないその場で思いついたような提案だったのが気になりはしたのだが。

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