陛下!反乱です!~緊急会議①~

 大変だ……。キメルノ帝国北のメラマリィー領からの使者が目をバッキバキに見開いてやってきたと思えば、次は遠く東のポドウ領から血走った目で使者がやってきて、最後には西のミルタルコス領から死んだ目をした使者が城につくなり、ぶっ倒れた。

 そしてみんな口々にこう言う。「反乱です!」

 世界の8割を支配するキメルノ帝国、その領土の半分ほどで反乱が一斉に起きているという。

「計画的な反乱と見て間違いないでしょうか?」

 臣下ボールは陸軍大臣に尋ねる。ここはキメルノ帝国の政治を統括する皇室会議の会議室。皇室会議には他に各役所のトップがたくさん集まっている。今日は大反乱対策のために緊急で集まっており、朝早かったからかみんな眠気眼をこすっている。皇帝はマント選びのため、到着が遅れている。

「ええ、間違いないでしょう」

 陸軍大臣は十分に蓄えられた髭をなでながら答えた。

「まったく同日、正午にこれだけの地域で反乱が起きようものならそれしか疑いようがありません。というより、何も考えずにとりあえず謀反をおこすようなヤツはいやしやせんよ」

 そういって陸軍大臣はココアを飲み干した。

「ポドウ領総督のアンリチミムくんは反乱を鎮圧するため出陣、なんせポドウ領は反乱を起こしているアーリ領、セーム領、エイラープ領のフイラープ族に囲まれているのでね。まあ妥当な判断ですわな」

「他地域の反乱はどうなっていますか?」

「西の砂漠の方は西スニジ=アッシュム連合が頑張ってるという感じ。ここは東スニジとミルタルコスが反乱ということで海を隔てて南北に対立している。まあ西スニジ=アッシュ連合は内部分裂気味だからここは早く手を打ったほうがいいと私は陛下に進言しようと思っているのだがね」

 陸軍大臣はひときわきらびやかな椅子の方を見やった。皇帝はまだ来ていない。

「陛下はまだいらっしゃないのかね?」

「今日はマントだそうです。ある程度意見をまとめておいてくれとおっしゃってました」

「なるほど……」

 しばらく沈黙が流れる。

「それで反乱の首謀者はわかりましたか?」

「それが問題でね」陸軍大臣は首をかしげる。

「真っ先に戦争を起こすだろうと思われていたヲミューラ帝国が宣戦布告していないんだよ」

 一同顔を見合わせる。



 ヲミューラ帝国。かつて世界の西を全て支配していた帝国。キメルノ帝国に敗れ、領土の大半を失い今は岩だらけの場所に追いやられた帝国。キメルノの民を心から憎んでいる帝国。それはキメルノ帝国の都ヴィジャーバルの南西、山に囲まれたところにある。岩造りの真っ白な城に反乱の容疑者、ヲミューラ皇帝ヲミューラ3世が住んでいる。今日もせっせと憎きキメルノを倒すため鍛錬に励み、憎きキメルノを倒すため新型大砲製造を指示し、憎きキメルノを倒すため怪しい部下を粛清した。

 政治に甘さなどいらん。これが彼のモットーである。彼は目的のためなら手段を選ばない。昨日も都バンギルドの名産品、バンギルドケーキを求め、部下を総動員して探しまわらせたのだ。

 全てはキメルノを倒すため………。全てはキメルノを倒すため……。


「計画は順調に進んでおります。陛下」玉座に臣下バールが報告にやってきた。

「よかろう」ヲミューラ3世はもともと細い目をさらに細める。

「ポドウ領が降伏するのも時間の問題でしょう。陛下の素晴らしいご指示のお陰でやんす」

「ふふふ……」部下にほめられ思わず笑みがこぼれる。こいつはいつも気のきいたことを言ってくれる。

「そのときにはやつらにギャフンといわせることができよう。ふふふ……」

 ヲミューラ3世は2,3時間笑い続けた。



 メラマリィー領。かつては北の独立王国であり、キメルノと同盟し、ヲミューラ戦を戦ったが、戦後の領土分割交渉がとん挫してしまい、戦争になって負けてしまいキメルノ帝国下に入った。

 ここの元王族で反乱を指導するリブ=メラマリィーは頭を抱えて机に突っ伏していた。

「え? なんで? どういうこと? 約束違わない?」かきむしりすぎてせっかくセットした髪がぐっしゃぐしゃになっているがそれどころではない。

「ねーねー。エイク?」

 部屋のむこうで植物に水やりをしている気のよさそうな男がこちらにやってきた。

「なんだ? そのことでまだウジウジしてるのか?」

「そりゃするじゃん。どっかの反乱とうちの反乱のスケジュールが被るってどういうこと? しかもアーリ領、クルカラッチ領がダブルブッキングでこっちになにも言わずにのほうに参戦てどういうこと? 三つ巴の反乱ってめっちゃハードじゃん。戦国じゃん。天下統一じゃん」

「まあそのほうが盛り上がっていいんじゃない?」貧乏ゆすりがとまらないリブを横目にエイクは反対側のほうの植物に水をやる。

「てかあんたさあ。指揮官なんだからもっと危機感もったら?」

「君こそ一応姫で指導者なんだからもっと威厳を出したら?」

「はーい」

 リブは口を尖らせて足をバタバタさせた。

「で? じゃあなんか策略あんの?」

「あるよ。その側に使者を送ったよ。共にあの帝国に対して反旗を翻しているはずだから同盟できると思うからね」

「なんだあったまいい。エイクが指揮官でよかった」

「なんだそれ。態度急変させちゃって……」



 再びキメルノ帝国。お待ちかね、コレカラキメルノ=ジャーが某パンヒーローアニメそっくりのマントで、髪散らかしきりながら皇室会議に現れた。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る